第四十八回 超高性能カメラは何を見たか?(2024年1月15日)

気のせいか今年は、いつになく打撃フォームの改造や動作解析の話題が多いように感じます。前回ライオンズのテーマに続き、今度はジャイアンツの門脇選手の鹿屋体育大学(National Institute of Fitness and Sports in Kanoya)での試みについての記事を見つけました。日刊スポーツ配信の短い記事ですが得られたデータとその取扱いによっては、更に発展していく可能性があると考えるので、なぜそう考えるかも含めて紹介しようと思います。

「巨人」門脇誠が16台の超高性能カメラで打撃フォームを動作解析

(以下記事から抜粋)
「 四方八方から16台のカメラに囲まれながら、門脇がスイングを繰り返す。体には計測のためのマーカーを張り、黒い特別なスーツに身を包んだ。カメラは1台500万円以上と超高性能。テーマは「一番はやっぱりバッティング。全部、数値化できる」と大学が誇る最先端施設でデータを計測し、頭で描く理想と実際の数値を擦り合わせた。  狙いは対応力アップにある。スイング軌道、感覚などを模索しながら、いろいろなフォームを試した。変えていく中でスイングスピード、関節の動き方、打球速度、地面からの反発力などさまざまな数値を計測。データを見ながら、相手投手、自分の調子など、場面に応じて微調整できる対応力を磨く。「いろんな力感がある。(数値化できれば)この打席はこの力感がいいとか、ここは振れるというところを自分の中でも理解できる」と引き出しを増やそうとしている。  アイデアマンだけに、ハイテク技術だけでなく、体作りにはアイテムを存分に使う。紙風船を背中に乗せて四つんばいで進んだり、ボールを踏みながら進んだりするトレーニングも行った。体の軸を意識し、ゴルフクラブでもスイング。「考えないとできない。全て頭から体を動かす。二遊間は複雑な動きが多い。そういう動きができる体作りが大事。普段、意識しないとやらないような動きができれば、守備でもいろんな場面で体が動く」。体重も4キロ増の77キロと、肉体面でも力強さが増している。 」

1.データは既存の打撃理論と矛盾するか?
いろいろなフォームで打ってみて、高性能カメラでその時々に得られた様々なデータを見ながら、どの様な打ち方の時にどのような打球になるのかを模索しているというように思えます。もしそうであれば「どの様に打てば強い打球を打てるか」についても高性能カメラでデータを得ようとしているかもしれません。

ところで学会で正しいと信じられている打撃理論によれば、打球速度は次の計算式で得られるとされています。また「体からのエネルギーはボールに伝わらない」とされていて、どの様に打つかは関係ないとされます。実際にこれらの式からも、変数はバットのスイングスピードだけで計算されているのがわかると思います。
私はこの既存理論が正しいと考えていないので、鹿屋体育大学で得られたデータによっては間違っていることを証明できるのではと期待します。

前々回触れたビヨンドの話も、既存理論の解釈に無理矢理当てはめようようとした結果ではないかと思う。ミズノはビヨンドを機会に、捻りモデルを自社で検証してはどうでしょうか。捻りモデルの方が子供たちの運動能力開発という可能性を提示できて、今後のスポーツ人口も増えて企業の発展にもつながるでしょう。

(この式は、Report of the Committee Studying Home Run Rates in Major League BaseballのAppendix Aに記載されているので、このレポートをアップデートしておきます。)

2.超高性能カメラは何を見たか?
随分と前にある野球研究者が、アメリカンフットボールの選手と自身で飛距離の競争をしたそうです。二人ともバットのスイングスピードは同じだったけれども飛距離には大きな違いがあったとのこと。何でだろうと話していました。今振り返れば、これこそ体幹からのエネルギーがボールに伝わって飛距離を左右することを示唆する実験でしたが、どなたか実験者の名前も失念してしまいました。
鹿屋体育大学で得られたデータは、同様の示唆もしくは証明されるものだったかもしれません。例えば;

・打ち方によってボールの潰れ方が違う
・打球速度と打撃時のスイングスピードが相関しない
・門脇選手と別の被験者を比べて、打撃時に同じスイングスピードでも打球速度、ボールの潰れ方、飛距離が違う

もしこうしたデータが得られているようなら、アメリカ野球学会機関紙に発表されてはどうでしょうか。添付レポート表紙に記載のそうそうたる面々が「固まる」かもしれませんが、鹿屋体育大学の名が知られるのは、大学にっとは良い事でしょう。
もっとも学会でも、従来の説と違う話をする場合は先生たちに忖度する必要があるようなので、その場合はデータをいただければ部外者の私が発表するにやぶさかでありません。

3.頭で描く理想を「実際の数値」は表すことができるか
ところで記事からは、門脇選手は何らかの理想の動作を頭に描いていてデータと突き合せようとしているようにも思えます。測定データのなかに「地面からの反発力」といったデータの記載もあるので、この理想の動作は捻りモデルではなく、どのような動作か想像がつきません。
変数が多すぎることと、私の考えでは既存の打撃理論が実際の動作を反映しているか怪しいことから、数あるデータから理想的な動作を抽出するという作業は難しいのではないかと思います。しかし何らかの力学モデルがあればデータとの突合せは楽になるはずです。

捻りモデルをたたき台にするなら、グリップ、体重移動、へそベクトルと体幹にひずみ応力を溜める動作、バットの軌道などの捻りモデルのチェックポイントは決まっているので、検証したい動作以外を固定することで、動作とデータを突き合わせる作業はできるでしょう。





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