ASD児の遊びは非定型的なのか??
先日、以下のような論文を紹介しました。
まぁ個人的には納得いくというか、理解しやすい論文だったのですが、以下の論文では、ASD児の非定型的な遊びについて批判的にみた/疑問を呈した研究みたいです。
Open accessなので詳細は以下をご参照ください。
Using head-mounted eye tracking to examine visual and manual exploration during naturalistic toy play in children with and without autism spectrum disorder
Julia R. Yurkovic, Grace Lisandrelli, Rebecca C. Shaffer, Kelli C. Dominick, Ernest V. Pedapati, Craig A. Erickson, Daniel P. Kennedy & Chen Yu : Scientific Reports volume 11, Article number: 3578 (2021)
ASD児の非定型的な遊びの背景には、視覚的注意の分配能力が低く、柔軟性に欠けており、ある選択した対象物の一部を見てしまう等の傾向が指摘されています。
この研究の目的は、日常的な文脈の中で自然観察的におもちゃ遊びを行うことで非定型的な遊びや探索行動を生み出す可能性があるのか検討することです。
さらに「head-mounted eye tracking」を活用して、子どもの一人称視点の視線分析や手先の動きを評価しています(下図参照)。
Using head-mounted eye tracking to examine visual and manual exploration during naturalistic toy play in children with and without autism spectrum disorder
Julia R. Yurkovic, Grace Lisandrelli, Rebecca C. Shaffer, Kelli C. Dominick, Ernest V. Pedapati, Craig A. Erickson, Daniel P. Kennedy & Chen Yu : Scientific Reports volume 11, Article number: 3578 (2021)
結果です。
とりあえず、ざっくり見てみましょう。
Using head-mounted eye tracking to examine visual and manual exploration during naturalistic toy play in children with and without autism spectrum disorder
Julia R. Yurkovic, Grace Lisandrelli, Rebecca C. Shaffer, Kelli C. Dominick, Ernest V. Pedapati, Craig A. Erickson, Daniel P. Kennedy & Chen Yu : Scientific Reports volume 11, Article number: 3578 (2021)
で…
ASD児とTD児の比較において、
おもちゃを見る時間/見た数、視線の向け方等の視覚探索パターンも類似していました。さらにおもちゃを見た時間だけでなく、新しいおもちゃを探索するまでの時間/速度、おもちゃを見る順番などにも有意差はありませんでした。だいたい同じおもちゃを見て、偏ったおもちゃで遊んでいるわけではないということです。
次に、おもちゃの操作時間や回数について検討しています。ここでは、「操作」=「触れる」と広義に定義しているようで「手を伸ばす、持つ、移動させる、積み上げるなど」が含まれています。
結果は、以下の図を載せておきます。
Using head-mounted eye tracking to examine visual and manual exploration during naturalistic toy play in children with and without autism spectrum disorder
Julia R. Yurkovic, Grace Lisandrelli, Rebecca C. Shaffer, Kelli C. Dominick, Ernest V. Pedapati, Craig A. Erickson, Daniel P. Kennedy & Chen Yu : Scientific Reports volume 11, Article number: 3578 (2021)
基本的なおもちゃの操作時間や回数については有意差がありませんでした。しかし、1分間に触るおもちゃの数はTD児より多く、触る時間は短いことがわかりました。
ここからがこの研究のすごいところ!
目と手の協応を数値化して解釈しています。
子どもが手にしている(何らかの形で触られたり操作されたりしている)おもちゃを視覚的に確認/関与する頻度と、手にしていないおもちゃを視覚的に探索する頻度の比率を算出しています。
で、意外にも?子どもが手にしているおもちゃよりも手にしていないおもちゃを視覚的に探索する頻度が高く、主効果は認めました。しかし、群間差はなく(交互作用なし)、ASDの有無に関わらず、視覚的注意は手の操作対象である玩具以外にも同様の頻度で広がっていることがわかりました。
Using head-mounted eye tracking to examine visual and manual exploration during naturalistic toy play in children with and without autism spectrum disorder
Julia R. Yurkovic, Grace Lisandrelli, Rebecca C. Shaffer, Kelli C. Dominick, Ernest V. Pedapati, Craig A. Erickson, Daniel P. Kennedy & Chen Yu : Scientific Reports volume 11, Article number: 3578 (2021)
後、触れた際の視線の持続時間、手の操作の前後の視線行動についても解析されていますが、有意差はなく割愛します。
両群共に視覚的注意は手動操作に0.5秒前くらいに先行する傾向があり、視覚的注意の終了後もその行動は持続していることがわかりました。視覚的注意自体は、手の操作の終了後、手持ちのおもちゃからすぐに切り替わっているのですが、この傾向は群間差がなく、目と手の協応は類似したパターンであるということです。
考察です。
これは、過去の先行研究とほぼ一致しない結果です。
要因としては、一つは環境の問題であり限られた空間や決められた数のおもちゃなどではなく、保護者との自然観察的な遊びを設定していることです。
次におもちゃに関しても偏りなく24個のおもちゃを提示し、子どもが能動的に探索しておもちゃを選択し遊ぶという条件であることです。
また子どもの行動に対する保護者の相互作用的な反応/関りが関与している可能性があります。
この研究が示唆することは、
自然観察的に評価/介入することの重要性だと思います。ADOS-2のような自然観察的に行う自由遊びの中での評価やJASPERにおける異なるおもちゃのセットを利用して子どもの関与を促す遊びの介入との関連について考察でも述べられています。
しかしながら、視覚的注意や手の操作におけるin putが同じであるにも関わらず、その処理や非定型的な視覚的注意の発現時期が違う可能性もあります。
また今回の解析では、特定の遊び方や遊ぶ/行動の種類をコード化することはしておらず、追跡的な研究が必要です。加えて、2つの物体を同時に扱う組み合わせ遊びなど、子どもが行う様々な遊びを理解していく必要があると思います。
なかなか読み応えがある論文でした。「head-mounted eye tracking」が装着できるASD児という時点で少し批判的に解釈してしまう自分もいますが、「文脈」を大事にしている点は、とても共感できました。
やはり対象児との関係性は非常に大事で「こいつおもろいやん/いいやつやん」て楽しませてくれる/共感してくれる/ほめてくれる…みたいな存在じゃないと遊びやおもちゃを共有して関わることは難しいです。
子どもと関わる上で支援者も環境の一つであることを再認識できました。