Cluster Analysisから考えるDysgraphia(書字障害)の特徴
最近、描画や書字といった「線描スキル」や「Handwriting 」に興味をもっているので、以下の論文を読みました。
Acquisition of handwriting in children with and without dysgraphia: A computational approach
Thomas Gargot ,Thibault Asselborn, et al:PLoS ONE 15(9) , e0237575.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0237575
一般的に「手書き文字」の習得は5歳(就学前)に始まり、ほぼ完全に自動化されるレベルに達するには、約10年間の練習が必要と考えられています。この間、手書き文字はまず質的(正確性)なレベルで(1年生から5年生まで)進化し、次に速度レベルで(主に4年生から進化する)進化していくことが示されています。
Deuelらは、「Dysgraphia:書字障害」は大きく3つに分類されるとし、
1)ADHDやDyslexia(読字障害)と併存するタイプ(Dyslexic dysgraphia)
2)空間関係/空間認知の問題に由来するタイプ(Spatial dysgraphia)
3)運動獲得の障害が併存するDyslexiaタイプ(Motor dysgraphia)
…が挙げられます.
これらの主たる評価は、
・Detailed Assessment of Speed of Handwriting (DASH)
・the Ajuriaguerra scale (E scale)
・the Concise Evaluation Scale for Children’s Handwriting (BHK)
…等ですが、紙と鉛筆を用いた評価であり、静的な文字/形に対する分析となります。
今回の研究では、Handwritingのダイナミクスを知るために、タブレットPCを用いて、「速度、加速度、筆圧、傾き」などをパラメータとし分析しています。
詳細は、以下を参照。
Table 2. Clinical-Gold Standard (BHK scores) and digital features on handwriting.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0237575.t002
加えて、年齢による影響やdysgraphiaの特徴を調査し、dysgraphiaのクラスター分析まで行っています。
方法としては、どのように動的パラメータを算出したかというと
The BHK testを「Wacom Intuos tablet」上で書き込むことです。
ちょっと欲しいかも…
https://tablet.wacom.co.jp/article/wacom-intuos
パラメータは、
(1) Space Between Words
(2) SD of handwriting density
(3) Power Spectral of Tremor Frequencies
(4) Median of Power Spectral of Speed Frequencies
(5) Distance to Mean of Speed Frequencies
(6) In-Air-Time ratio(ペンがタブレットに触れていない時間比率)
(7) Pressure features(筆圧)
(8) Tilt features(ペンとタブレット表面の傾き)
*細かいのは省略です…。
で…結果ですが、個人的に興味深いのは
The BHK testを実施すると普通学校に通う280例の児童の中に13名(5.63%)に書字障害が検出されたことです。
対象群を再構成してdysgraphiaのないTD群218例と、dysgraphiaのある群62例となりました。詳細は以下のような内訳になっています。
Fig 2. Annotation of the database with the BHK test defining children with dysgraphia (writing quality too bad, BHK handwriting quality score too high) and children without dysgraphia.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0237575.g002
気になるポイントが色々あるのですが…
本研究の中心である「clustering of dysgraphia」のとこをまとめます。
クラスター分析の結果、3つのモデルに分けられました。
一覧はこちら↓↓
Table 8. Mean digital features value of each features according to their clustering.
Demographic characteristics and BHK scores of children with dysgraphia corresponding to the 3 clusters.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0237575.t008
ざっくり書くと、
cluster1:書字障害の程度は低く、女児で高学年。HBKのquality/speed score共に良好で、Median of Power Spectral of Speed Frequenciesも低く、一定して滑らかである。
cluster2・3はよく似ているのですが、基本的には男児で書字障害は重度である。特にcluster2のタイプは、単語間のスペースが小さく、Pressure features(筆圧)やMedian of Power Spectral of Speed Frequenciesの異常性です。手書き速度の加速(および減速)がより急激であり、コントロールが難しいことです。
個人的に「へぇ~」感があったのは、筆圧が良い意味ではなく、異常性という意味で「一定」であることです。日本語でいう「とめ」「はね」「はらい」で起こる筆圧変化がないという解釈かな。
こちらからその特徴が確認できます↓↓。
Fig 6. Comparisons of the SD of speed of pressure change and Bandwidth of Speed of Tilt-x Change Frequencies for the children without dysgraphia from the 3 different clusters.
Examples of writing from a child with the most severe difficulties from cluster 2 and cluster 3 are shown.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0237575.g006
cluster3の主たる特徴は、「傾き」の異常であり、タブレットに対するペンの傾きを滑らかに変化させることが難しいようです。
「傾き」の解析時の定義づけはあるのですが…書く時のペン先の動きがぎこちない?のか?ペンの持ち方が上手じゃないからなのか?
まぁ単純に文字のズレや傾き、字体の構成みたいな静的な指標を捉えるだけではなく、動的パラメータとして速度/加速度/躍度、筆圧とかHandwriting のダイナミクスを評価すべきということでしょう。