永青文庫「細川護立の愛した画家たち ーポール・セザンヌ 梅原龍三郎 安井曾太郎ー」
先日、永青文庫で開催されている2023年度 夏季展「細川護立の愛した画家たち ーポール・セザンヌ 梅原龍三郎 安井曾太郎ー」に行ってきました。
はじめに
永青文庫は、肥後熊本54万石を治めた細川家の下屋敷跡にある東京で唯一の大名家の美術館で、細川家伝来の美術工芸品や歴代資料のほかに、この美術館の設立者である16代当主 細川護立(細川護煕元総理の祖父)の蒐集品など、国宝8件、重文35件を含む、9万4千点を所蔵しています。
現在の建物は昭和5年に建てられた細川家の家政所(事務所)を展示施設にしたものですが、建設当初から最上階の4階には、護立の蒐集品を展示するための部屋が設けられていました。
今回の夏季展は、約100年前に護立がパリで自ら購入したセザンヌの作品が14年振りに展示されるほか、近代日本洋画の2大巨匠である梅原龍三郎と安井曾太郎の作品がまとまって展示されるとのことで、足を運んでみました。
展示概要
護立も愉しんだ4階の展示室に、セザンヌ、梅原、安井、3名の作品が一同に展示されています。
枚数は多くありませんが、作品にまつわるエピソードや護立との書簡のやり取りなどが数多く展示されていて充実した内容になっています。
ポール・セザンヌ
セザンヌが28才の時の作品で、1926年に護立がヨーロッパを巡遊した際に、印象派の画家を多く世に紹介したことで知られるパリのベルネーム=ジューヌ画廊で自ら購入したものです。
そういう経緯もあって、護立はのちに蒐集した西洋画の多くを手放すことになるのですが、この作品は「私がもっとも大切にしているもの」として終生手元に置いていたそうです。
梅原龍三郎
梅原は51才で初めて北京を訪れてから数年間、毎年のように北京飯店の5階の部屋に長期滞在しては、そこから眺める景色を何枚も描いています。
あのモネがルーアン大聖堂の連作を描いた時に、向かいの建物の2階の部屋を借りたという話とよく似ていますが、モネは時間と光の変化による大聖堂の様々な表情を描いたのに対して、梅原は1日の中で最も美しいと感じた朝方の景色を何度も繰り返して描いていたそうです。
安井曾太郎
安井の画業の中で転換点と評される作品のデッサンです。
安井はフランスから帰国後に長期のスランプに陥りますが、のちに「安井様式」と呼ばれる独自の画風を確立するきっかけとなった作品がこの《座像》です。
デッサンの全体構図は本画とほぼ同じですが、手に持っている扇子の向きが異なることから、最後まで首尾よく収まる位置を模索していたように思われます。
また、安井の代表作である《金蓉》の制作を依頼したのもこの護立で、二人の親密性がうかがえます。
あとがき
永青文庫には初めて行ったのですが、知る人ぞ知るといった場所にあるため、一見さん的な方がおらず、皆さん静かにじっくりと観られていて、まさに「大人の隠れ家」といった感じでお勧めです。