第35話 別れ
彼は付き合い始めてからかなり早い段階で、身体の関係を求めていました。
理由は「虹羽の1番近くにいけるから」
私の男性経験の未熟さから、彼の真意がヤリ目だったのかそうでないのかはわかりません。
でも、ヤリ目にしてはあまりにもストレートな表現の数々に、スキンシップを重要視し深い繋がりを求めていた様子から、潜在的な彼の闇を私は感覚的に掴んでいたような気がします。
彼と深く繋がった瞬間、私は生まれて初めて女性として生まれた喜びを感じました。
正直、快感とか不快とかそういった感覚はよくわからなかったし、そんなことはどうでもよくて、ただただ彼を満足させてあげることができたことが嬉しかった。この上ない幸せでした。
2022年10月21日(金) 23:00
彼はまだ仕事が残った状態で私の部屋に来ていたので、事後はあっけないものでした。
でもそんな状態ではあったものの、彼は帰り際とても名残惜しそうに何度も私をバックハグしてきました。
少し離れてはまた後ろからギュッと抱きしめてくる彼に応えて何度も彼を抱きしめて彼を送り出しました。
2022年10月22日(土) 5:00
彼の起床時間に合わせてアラームをセットして彼におはようLINEを送りました。
なんとなく身体の関係ができたら彼は離れていくのではないか?このLINEに返信が来ないのではないか?と一抹の不安を感じながら、、、。
彼のこの日のスケジュールは、
5:00 起床
6:00 仕事開始
午前中 飛行機移動
13:00 名古屋戻り
14:00 私と名古屋観光
でした。
5時半になっても6時を過ぎても、予感通り彼からLINEの返信はありませんでした。
ただ、前日の仕事の残り具合と朝の仕事開始時刻から呑気に返信する時間が無いことは理解できていたので、そこまで深刻には考えていませんでした。
私は彼がいない午前中の間にお土産を買いに名古屋駅へ行ったり、自分の用事を済ませながら14時まで彼の帰りを待っていました。
14:00
約束の時間になっても彼から連絡はなく、既読にもなりません。
でも彼と時間が合わないのは日常茶飯事なので、とにかく退屈ではありましたが納得はしていました。
14:30
前日の疲労からだんだん眠気が襲ってきます。
このままでは眠ってしまいそうだったので、ホテルに隣接している広場に眠気覚ましに行って身体を動かしてなんとか眠気を飛ばして過ごしました。
16:30
どんなに待っても彼から連絡はありません。
もう2人で計画していた観光は諦めました。
確かにこの旅は普通の旅行ではなく、彼の仕事先に私が押しかけたようなものです。
でもそうであっても度重なる彼とのすれ違いに対する限界はとっくに超えていました。
どんなに彼を好きでもこれ以上は無理だ。
16:46
「お仕事お疲れ様。落ち着いたら連絡ちょうだい」
もう終わりにしよう。
このメッセージに返信が来るか来ないかわからないけど、いずれにせよここで終わりにしよう。
返信が来たら少しでも話す時間を使って彼にさよならを言おう。
17:43
「機材トラブルでまだ仕事先なの。このあとの飛行機で帰る」
来ないと思ってた返信が来た。
「夜会えそう?」
「会うために帰る!」
もう別れようと思ってた。
でもどんなに大変な状況であっても彼は会おうとしてくれていた。
遊びだったなら、この返信を彼がする必要なんてなかった。昨日の夜を最後に私を完全に捨て去ればよかった。
彼の毎日は本当に激務でした。
私が想像できない忙しさの中で彼は生きていました。
本当は私に割く時間なんて1分だってなかったんだと思います。
18:00
私は再び広場へ向かいました。
すっかり日が暮れ、辺りは真っ暗でした。
そんな真っ暗な広場の目の前に広がる光り輝く彼が生きる世界を見つめていると、大粒の涙が溢れ出してきました。
前日からずっと我慢して抑えていた気持ち、彼への申し訳なさ、この2日間の様々な感情が溢れ出し、公共の場で出したことのないような大きな声を上げて泣きました。
30分以上泣き続けてぐちゃぐちゃになった顔でホテルに戻ることもできず、1時間くらい目の前に広がる景色を眺めながら、彼の過酷な仕事を痛感しました。
『別れようと思ってた。でもやっぱり私は別れたくない!これからもきっとたくさん振り回されるだろう。それなら私は強くなるしかない。』
少し落ち着いて、私は2人で食べるご飯を探しました。疲れて戻ってくる彼に今夜こそはまともなご飯を食べさせてあげたかった。
とはいえ、相変わらず私たちの滞在先にはたいしたお食事処はなく、付き合い始めた日に彼が好きだと言っていた「たこ焼き」を買ってホテルに戻りました。
「●●〜たこ焼き買ってきたから、帰ってきたら一緒に食べようね🥰」
このメッセージが既読になることはありませんでした。
Season1 〜運命編〜 完結。