「GAMBAISMとは何ぞや?」ガンバ大阪分析のフレームワーク

 代表ウィークぼちぼち暇ですね。私は何故か会社の休日出勤イベントがあってそこまで暇じゃなかったのですが、代表ウィークじゃなかったらもっと暇じゃなかったわ、と思ってポジティブに週末を過ごしました。皆さんはご機嫌いかがでしょうか。
 閑話休題。最近こっそり加入したサッカーアナライザー(@_socceranalyzer)さん主催の「FIゼミ」というサッカーの分析ゼミで「自分の応援するチームを紹介してみよう」という課題が出ていたこともあり、今シーズンのガンバの試合をちくちく分析してきた自分なりに、今年のガンバ大阪がどんなチームなのかを整理してみたいと思います。
 参考にさせていただいたのは以下、レノファ山口の分析フレームワークを書かれたジェイ(@RMJ_muga)さんの記事。失礼ながらタイトルも拝借いたしました。こちらにも参考文献が示されてるので参考の参考みたいな感じになってますが。。笑(一応原書も持ってます)ジェイさんの記事でも用いられている「基本となるシステム」や「サッカーにおける4局面」というフレームワークを用いて説明していきたいと思います。

 「GAMBAISM」という抽象的な単語をスローガンとしている今年のガンバ大阪。この作業を通して、GAMBAISMとは何ぞや?というものの片鱗が少しでも見えたらいいな、、と思います。ガンバサポーター各位におかれましては「んなこと知っとるわい」な案件も沢山出てくると思いますが、適宜読み飛ばしながら進めていただければと思います。

ガンバの基本システム

 ガンバのベースとなるのは442のシステムです。直近の川崎戦清水戦では4411のような形を使ったりと、最前線に陣取るFWの枚数は戦況ごとに変わりますが、前に2人を残し、残り8人で4-4ブロックを作るというのが基本的な方針です。

 主にスタメンとして2トップで起用されるのが、ファン・ウィジョ、アデミウソン。中盤のサイドハーフで起用されるのが、倉田秋と小野瀬康介。中央の2枚はゲームによって変わりますが、遠藤保仁と今野泰幸のベテラン2人が基本軸で、高宇洋(こう・たかひろ)が入る場合もあります。後ろの4枚は左から藤春廣輝、キム・ヨングォン、三浦弦太、オジェソクが不動のスタメンでしたが、直近は失点続きだったこともあり、三浦弦太が右SBに回り、菅沼駿哉が右CBに入っています。

 続きまして、
 ・セット攻撃(ポゼッション時)
 ・セット守備(非ポゼッション時)
 ・ポジティブトランジション(ボール奪取時)
 ・ネガティブトランジション(ボール喪失時)

 のサッカーにおける4局面のフレームワークを用いて整理していきたいと思います。

セット守備(非ポゼッション時)

 上述のシステム図で示した442のフォーメーション図は主に守備の際に志向するフォーメーションとなるため、まずは守備について整理していきたいと思います。ガンバの守備のパターンは大きく分けて2つ。

 ①相手陣地からプレスをかける
 横浜戦の先制点や松本戦の2点など、体力に余裕のある時間帯で採用されることが多いです。前線に運動量豊富でスピードのあるメンバーを揃えているため強い圧力でプレスをかけることができる一方、全体的に人につく意識が先行するためレイオフなど3人目の動きに弱く、相手の前線が落ちる動きを多用してくる場合など簡単にプレスを剥がされてしまい、横浜戦のように大量のチャンスを作られてしまう場合も。

 ②コンパクトな4-4のブロックを保つ
 相手陣地からの積極的なプレッシングを行わない場合は、前線の動きをトリガーとして以下の手順でのボール奪取を志向します。
 1.前線の2枚で片方のサイドに誘導
 2.ボールサイドにコンパクトな4-4ブロックを作る
 3.ブロックに入ってきた相手・ボールにアタックしてボール奪取
 4.もしくは確率の低いシュートで終わらせてマイボールに

 ※上図は川崎戦分析記事より抜粋
 昨年の9連勝のベースとなったやり方でもあります。昨シーズンにおいてこのやりかたのキモは主に4.のいかに確率の低いシュートを打たせるかであり、できるだけシュートコースを限定した状況を作ることで抜群のシュートストップ能力を持つ東口が存分に活躍できる場を作っていました。
 弱点はサイドチェンジ。宮本ガンバ初期は4-4のブロックを体力的に維持できなくなる最終盤で寄せが遅れて決定的なクロスを供給されて失点、というケースが続きサポーターの頭痛の種になっていました。
 今シーズンはやや志向が変わっており、高い位置でのボール奪取を目指して3.のブロックに入ってきた相手・ボールにアタックしてインターセプト、タックルからチャンスを作ろうという方向に意識が向いているように思います。今シーズンの失点数が多くなっているのはこうした変化に対してディテールがついていっていない影響もあるように感じています。

ポジティブトランジション(ボール奪取時)

 上記のセット守備のシチュエーションでボール奪取した後のポジティブトランジションの局面についてまとめていきます。
 まず、高い位置でボールを奪うショートカウンターの局面を作れた場合は、最短距離でゴールを目指します(どこのチームもそうだと思いますが)。アデミウソン、ファン・ウィジョというリーグ屈指の2トップを保有しているため、少ない人数で危険な攻撃ができます。ショートカウンターの局面では主にサイドハーフの倉田・小野瀬が一目散に最前線に向かい、この4名で攻撃を完遂させてしまうケースが多いです。
 中央、あるいは低い位置でボールを奪った場合は、相手の陣形に応じてボール保持攻撃かロングカウンターを選択します。恐らくサイドバックの裏が使える状態になっているかどうかが選択のトリガーです。アデミウソンorウィジョが裏のスペースを使える局面であればロングパスを選択します。
 この選択で重要な役割を果たすのがヤット(遠藤保仁)。トランジションの局面でパスを受けてからの状況判断が抜群にうまいので、
 1.ボール奪取
 2.とりあえずヤットに出す
 3.状況に応じてポゼッションかロングカウンターかを選択

 という流れで局面の以降をスムーズに行うことができます。さらにヤットのロングパスの質は基本的に最高(語彙力C-)なので、一本のパスで決定的な局面を作ることもできます。
 逆に言えばヤット以外のメンバーはそのあたりの選択がまずかったり、奪った後のパスの質がよくなかったりなので、ロングカウンターから質のいいチャンスを作れるシーンがあまりないのが悩みどころです。

セット攻撃(ポゼッション時)

 ボール奪取後カウンターを選ばなかった場合はセット攻撃に移行します。基本的にはプレッシャーが強い中央を避けてサイドにボールを運びます。手順をまとめると次の通り。
 1.CB・ボランチ(・GK)がパス交換をしながら陣形移行
 2.高い位置を取ったサイドバックか、ハーフスペースに入ったサイドハーフorフォワードにボールを入れる
 3.敵陣サイド深くでサイドバック・サイドハーフ・ボールサイドのボランチ・フォワードの4枚でボール回しをしながら相手のマークを剥がす
 4.ニアゾーンorバイタルエリアにパスを供給し、チャンスメイク
 特徴的だと感じるのは3.でしょうか。特に左サイド(藤春-倉田-ヤット)においては、他のJクラブと比較しても足元へのパス、パス&ムーブを繰り返しながら手数多く攻めていくのが印象的です。左サイドで足元のパスをぐるぐる回しているときは、個人的にすごくGAMBAISMを感じます。笑
 一方、右サイドに位置する小野瀬はレノファ山口で霜田監督の薫陶を受けてきたこともあるのか、よりモダンな動きができるイメージです。左サイドの倉田がとにかく味方に近く近く寄っていくのに比べると、大外に張って相手のチャネル(CB-SB間)を開けて味方のスペースを作ったり、味方が大外でボールを持つ際に斜め後ろのハーフスペースに走ってパスを引き出したりなど、いろいろかしこげな動きをしてくれます。和式の左、モダンの右というのはやや言い過ぎだと思いますが、左右で攻め方の色が違うのも特徴といえば特徴です。

ネガティブトランジション(ボール喪失時)

 個人的に、ここが現状のガンバで一番整理できていない部分だと思います。宮本監督は「奪われたらすぐ奪い返す」という方針を所々で口にしていますが、奪い返せる局面なのか?撤退してブロックを固めるべきなのか?それともファウルで止めるのか?などチームとして意識の共有ができていないシーンが多くみられます。
 特に意識の乖離が大きいのが中盤と最終ライン。最終ラインがネガトラ時にラインを下げる意識が強いのに反して、中盤はボールホルダーにアタックして奪いに行こうとするので、一枚目が剥がされるとMF-DF間にスペースが生まれるため、容易な前進を許してしまいます。
 清水戦の1失点目や名古屋戦の3失点目などは、その意識の乖離がよく出ていたシーンかと思います。ガンバの両ボランチであるヤット・今野はそこまで守備範囲が広くないので、スピードに乗られると遅らせることも難しく決定的なシーンに繋がってしまいます。
 川崎戦をクリーンシートで乗り切れた理由は、早い段階でロングボールを蹴ることで自陣におけるネガティブトランジションの局面をなるべく少なくしたことと、「耐えて戦う」という意識の共有が全体でできていたことによるものだと考えています。こちらがボール保持できる相手を前にした場合にどのような解決策を作っていくのか。今後の宮本監督の取り組みに注目したい部分です。

4局面のまとめ

 ここまでの説明をまとめると下記の通りです。
 まとめてみると、当たり前のことしか書いていないように見えてきますね。他のチームと比べてみたい。

(仮説としての)GAMBAISMの定義と進捗

 宮本ガンバのこれまでを追いかけていると、どの局面にウエイトを置くのか、各ゲームごとに違った狙いが持ち込まれていることが分かります。
 3節名古屋戦のレビューにおいて、宮本ガンバの目指すチームを「臨機応変」と表現したことがありましたが、この表現を採用するにあたって、宮本監督が考える「GAMBAISM」を端的に表現していると感じたセンテンスが過去のインタビューにあったので、以下引用したいと思います。

ボールを保持しながら相手を圧倒する、保持してなくても相手からしっかりボールを奪い取る。今日はどういう勝ち方をしようかと思い描きながら、選手たちにはスタジアムに向かってほしいんです。そしてファンのみなさんに対して、また観に来たいと思わせるパフォーマンスをいつも提供したい。

(※上記記事からの抜粋。太字強調は筆者による)

 今日はどういう勝ち方をしようか?をそれぞれが思い描く――
 言い方を変えれば、「自分と相手を比べてどこで優位性を作り、勝利を掴むかをそれぞれが考え、共有し、実行する」となるでしょうか。
 この「優位性の発現」がGAMBAISMだというのが、私の仮説です。

 翻って、現状のガンバの進捗はどうか。

 まず、「どこで優位性を作るか?」という考え方の部分については、「宮本監督がしっかり介入する45分単位ならできる」という状況だと思います。45分単位でチームの狙いが見えなかった試合はあまり思いつきません。
 一方で、横浜戦や名古屋戦の前半など、プランが崩れたときピッチの中だけでどう立て直すかという部分については道半ばだとも感じます。前節川崎戦では、80分からいつもの442に戻して決勝ゴールを得ることができましたが、今後45分単位の取り組みを通してレパートリーを増やしながら、川崎戦のようにピッチ内での修正もできるようになっていけばいいと思います。

 次に「何を優位性とするか?」という部分。ここに関してはすごく属人的だなーと感じます。言ってしまえば遠藤保仁であり、アデミウソンであり、ファン・ウィジョ。スペシャルな選手に依存するのは当たり前といえば当たり前なのですが、その選手が抜けてしまったときに優位性を作れるのか。
 ここまでの試合を見た後だと特に遠藤への依存が半端ないので、「ポスト遠藤」どないすりゃええんや……と頭を抱えたくもなります。サブメンバーが中心だったルヴァン磐田戦で攻撃が沈黙してしまったのはよくない兆候。
 「ISM」を冠するのであれば、特定の個人ではなく誰が出ても表現できるようになる必要があります。前項で説明した「どこで優位性を作るか?」をチームに落とし込んでいく監督の手腕に期待したいです。
 とはいえ、選手の質に頼らずにやっていくのは不可能です。宇佐美貴史や堂安律、井手口陽介など、圧倒的な優位性を作れるような選手は引き抜かれていくのが世の常。 U-23チームの活用や強化ネットワークの構築など、優位性を作れる選手を常に供給し続ける仕組みについてはまだまだ改善の余地がありそうです。
 シーズン終了時にこの記事をプラス方向にアップデートできるようになっていると嬉しいですね。

おわりに

 いかがでしたか?(まとめ記事なのでまとめサイトっぽい締め)
 改めて整理してみることで今後自分がガンバを見ていくベースを作ることもできたような気がします。
 できるだけ丁寧な言語化を試みてみましたが、ガンバサポなら自明な部分はかなりざっくり説明してしまったような気もするので、分かりやすく読んでいただけたかどうか。ガンバサポでなく、この記事を読んでいただいた方。わかりやすかったかどうか是非教えてください。
 それでは次節神戸戦の記事でまたお会いしましょう!

ちくわ(@ckwisb

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