2024 J1 第13節 名古屋グランパス × ガンバ大阪 レビュー
レビュー
3-4-2-1で守る名古屋は中央にパトリック、左シャドーに永井、右シャドーに森島を配置。ガンバが中谷サイドにボールを動かすと永井がプレス、森島がスライドしてボランチ(主に鈴木徳真)をマークするが、ガンバが一森を絡めて福岡サイドにボールを振っても永井は前残りして中谷のマークに付くことが多く、森島がそのまま鈴木徳真をマークしながらスライド、という守備の振る舞いになっていた。パトリックが左右のやり直しに対応して福岡にプレスをかけるのは体力的に難しそうだったので、森島が鈴木徳真を見つつ福岡を見なければいけない状況が生まれる。1人で2人を見なければいけない森島の周辺をどう活用するかが、前半のガンバのテーマとなっていたようだ。この動きを踏まえたガンバの前進ルートは主に2つ。①岸本へのロングボール と ②ボランチ裏の活用。
①岸本へのロングボール:前述のメカニズムで福岡には時間の余裕があった。彼の持ち味である高精度フィードが狙うのは主に対角の岸本。前述の通り永井は前残りする傾向にあったので、永井のサポートが少ない分、そのままハイプレスに移行してボールを奪いにいきやすい局面も生まれていた。プレスを引き込む⇒岸本へのロングフィード⇒繋がれば良しだが相手ボールになっても有利な盤面でハイプレス、という両面作戦。
②ボランチ裏の活用:森島が福岡のチェックに出て、鈴木徳真を名古屋のボランチがマークするのであれば、一森まで戻してミドルパスを蹴り、ボランチの背面にできるスペースを坂本一彩が活用できる。今節は坂本一彩のポストプレーがよく機能していた。マーカー(ハチャンレ)に寄せられない距離の保ち方、敵のプレッシャーがかかっていない角度へのトラップ、ターンで逆を突いて前を向くなど巧みなテクニックを見せてくれたが、名古屋の守備の連動に対してチームとして使うスペース・タイミングを共有できていたことも彼のポストプレーが機能した要因だろう。
名古屋がプレスを緩めブロックを固めに来るのであれば、宇佐美・倉田がフリーマンとなってボールを引き出す。彼らを放置できずに名古屋のボランチが持ち場を離れれば、その後ろにできるスペースにダワンや鈴木徳真が入り込む。押し込んで名古屋の脚が止まればコンビネーションで中央打開を試みる。時間をかけて攻めるため名古屋の強固なブロックを真正面から攻略する必要があったが、逆に言えば時間をかけているだけカウンター対応は万全。守備に強みのある名古屋の特徴を踏まえれば、先制点を取るより取られるリスクを評価し、ゲームコントロール、言い換えれば「不確実性の排除」を重視したプランだったとみられる。
ただ、盤面を動かす工夫が全くなかったわけではない。キーマンは右SBの半田。時間が経過するにつれ、半田の動きで名古屋を揺さぶるシーンが増えてくる。自陣では登里ナイズドされたかのようなポジション移動。永井のハイプレスに合わせてプレッシングに来た和泉を引き連れてインサイドに移り、WG岸本へのパスコースを生み出す。敵陣では毎熊ナイズドされたかのようなポケット突撃。5枚で構える名古屋DFの裏に飛び出し決定的なクロスを供給した。これらは今期当初から半田が取り組んできたことではあるが、ここまでの試合ではいまひとつ機能していなかった。U-23日本代表や大阪ダービーにおけるライバルとの邂逅を経た影響か、チャレンジがようやく実を結びつつある印象だ。
一方名古屋のボール保持。パトリックへのロングボールを除けば、名古屋は主に右サイドからの前進がメインとなっていた。特に違いを見せていたのは右のシャドーに入った森島。森島はWBとスイッチしてボールを引き出す動きが巧みで、この日右WBに入った中山と好連携をみせていた。倉田も、中山に付けばいいのか森島に付けばいいのかで迷いを見せているシーンが多く、プレスを外された結果中山と黒川の1対1の局面を多く作られていた。クロスのターゲットであるパトリックにはしっかり体をぶつけることができフリーでのヘディングは許していなかったが、サイドの仕掛けをファウルで止めてしまうシーンも多く、セットプレーからあわやというシーンを作られることもあった。
ただ、攻め手を概ね右サイドに限定できていたと考えれば、全体として守備は機能していたと言えるのではないだろうか。名古屋の左サイドは永井の裏抜けとプレスに期待してか森島サイドよりWBとシャドーのスイッチ頻度は少なかった。そのような状況において、特に岸本の守備位置が絶妙だったように思う。和泉とCBの間に立ち、WBを使わせないポジションを取り続けた。中央はもはや定番となった宇佐美と坂本の献身的なコース切りとプレスバック。となると名古屋の攻め手は右に絞られる。前進において複数の選択肢を持っていたガンバと、そうでなかった名古屋。この違いが、前半のボール保持率の違いに影響したとみられる。
後半、名古屋は稲垣に代えて米本を投入。同じポジションでの入れ替えとなれば連戦での疲労を考慮した形だろうか。
後半はパトリックが福岡をマークする頻度が増える。福岡へのマークをはっきりさせることで、前半に蹴られていた高精度フィードを封じる意図があったかもしれない。前進ルートを一つ潰され、安定した保持ができないようになったガンバ。名古屋がボールを持ち、ガンバ陣内でプレーする時間が増える。
名古屋の修正を受けたガンバの対応は、一森へのバックパスを使ってパトリックのプレッシングを引き付けることだった。噛み合わせの改善をきっかけに名古屋はCBが積極的に迎撃に出るようになっていた(特に三國から倉田へのアタックが目立った)が、マンマーク志向が強まれば個々人の動く範囲も広がり、守備ブロックにズレが生まれやすくなる。ガンバは名古屋のマンマークをレイオフを絡めた3人目の動きで突破し、サイドを横断して疑似カウンターの形で名古屋ゴールに迫る(55分の岸本クロス→半田のハンド)。
また、名古屋の攻撃シーンが増えたことでガンバがカウンターを発動する機会も増える。後半の名古屋は、前半と比較すると前からのプレスは改善したものの自陣の守備に綻びが出始めている状況だった。
ガンバの先制点はそのような文脈がもたらしたものだった。自陣で倉田からボールを奪った三國がそのまま持ち上がるが、ボールが足につかず再びガンバボールに。三國は素早く自陣に戻ったが、流れでマークがズレており倉田のマークに付いたのは米本。DFラインに米本が吸収され、中央が薄くなりバイタルエリアに宇佐美が呼吸するスペースができる。宇佐美のシュートはカス当たりだったが、それが坂本への絶妙なスルーパスになる。坂本のシュートはランゲラックがスーパーなセーブで弾いたが、こぼれたボールに詰めていたのは岸本。ガンバがこの一戦で何よりも重要な先制点をもぎ取った。
そこからは今やリーグ最小失点を誇る守備の出番。中央のパスコースを塞ぎ、相手の攻撃をサイドに追いやる。相手の攻撃開始位置をサイドに限定できていれば、守備陣はマーカーとホルダーとボールを同一視野に収めながらプレーできるので落ち着いて対応できる。失点以降名古屋は次々と攻撃的な交代カードを切るが、ブロックの外で攻めあぐねる時間が長く選手の特性が活かされる機会は少なかった。セットプレーから決定機を作られてしまったのは課題だが、逆に言えばセットプレーしかなかったとも言える。
山下・食野の両翼交代も機能した。大阪ダービーで気迫の守備を見せた山下はいわずもがな、ルヴァンカップで良いところのなかった食野もエゴを捨ててサイドの守備を確実にこなした。最終盤にはダービーと同様5バックに切り替えて凌ぎ、1-0のまま試合をクローズ。ガンバは今年3度目の連勝で順位を5位まで押し上げた。
まとめ
Optaによると、両チームの合計シュート数12本(ガンバ8本、名古屋4本)は、今期のJ1で最少。動きの少ない"塩試合"と評価されそうなゲームだが、振り返ってみると、ガンバの「対応力」が際立つ勝利だった。
効果的なロングボールの活用、相手のプレスを逆手にとった前進、相手が構えるのであれば自分たちの動きでスペースを作って前進、相手のハーフタイムを挟んだチェンジ・オブ・ペースへの対応、ゲーム終盤の5バックへの変更——と、試合全体を通して、相手をみて、今何をやるべきか、チーム全体で同じ絵を描きながらゲームを進められていたように思う。
こうして対応を書き出していくと、この試合で起きた事象はここまでシーズンのどこかで経験してきたことばかり。前節の記事で「積み上げ」に対する鈴木徳真のコメントを引用したが、この試合は「積み上げ」というものの具体をよりはっきりと理解できるようなゲームだった。意味のある勝ちと負けを繰り返しながら、チーム全体に「あの時のあの局面」がアーカイブとして蓄積されていく。前節のようなカタルシスに溢れた勝利も良いが、今節のようなチームの成長が実感できるような勝利も、また良い。
ちくわ(@ckwisb)
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