2024 J1 第27節 ヴィッセル神戸 × ガンバ大阪 レビュー

スタメン

 ガンバはスコアレスドローに終わった前節柏戦から3名のスタメン交代。両ウイングが倉田・山下からウェルトン・アラーノの助っ人2名に変更。前節はベンチスタートとなったダワンも今節は先発。

 一方の神戸は累積警告でサスペンションとなった扇原の代わりに鍬先がリーグ戦で2度目の先発。国立競技場でのスパーズ戦において印象的なプレーをして以降少しずつプレータイムを伸ばしている。また、前々節の退場で1試合の出場停止だったトゥーレルがスタメンに復帰している。サブを見ても、負傷離脱していた(らしい)宮代や初瀬が復帰。


レビュー

 今節のガンバは、アラーノが左、ウェルトンが右というスタートの配置。要因としては色々と考えられる。本職センターバックの本多が左、広瀬が右であり神戸の攻撃は右偏重になることが予想された。運動量が担保できるアラーノを左に置いて守備面でのバランスを保とうとしたのかもしれない。またボール保持の局面においても、中断期間以降黒川をオーバーラップさせて外側を使う形が多く見られるようになってきたことを踏まえると、外に張らせたいウェルトンを右に、中央でも仕事ができるアラーノを左に、ということだったのかもしれない。

 上位対決は慎重な入り。前回対戦では、3バック化で3-2-5のような形で幅を取り、対角へのロングボールから陣地を取りにきていたヴィッセルだったが、今回対戦ではサイドバックの上がりは控えめ。4バックのまま鍬先がアンカーになって井出・井手口がインサイドハーフになる4-3-3の形でビルドアップを行っていた。前進は大迫をサイドに流してのロングボール中心ではあったが、ターゲットを増やして前線でのカウンタープレスを企図していた前回対戦と比べるとローリスクローリターンなやり方に感じた。

 神戸の守備は4-4-2。トップ下の井出が大迫と並んで2トップを形成する。ハイプレスに行くシーンは少なく構えて守る形が中心。ガンバはセンターバック間のパス交換からブロックを左右に振って前進するいつもの形で前進を企図していたが、それだけではなく中断期間後はゴールキックからの定位置攻撃にかなり力を入れていたようだ。センターバックがちょんと一森に返すゴールキックで神戸のプレッシングを誘き寄せ、その裏のスペースに降りてくる選手を使って速攻を仕掛けるパターンもみられた。

 静かな立ち上がりだったが15分に武藤が負傷交代。代わって飯野が右サイドハーフに入る。予想外の選手交代で調整が難しかったのか、以降はガンバがボールを持って神戸を押し込む展開に。左サイドでボールを保持して神戸の両ボランチを引き寄せてから、逆サイドから中に入ってきた松田をちらつかせながら前残りしているパトリッキが足りない右サイドを使う形がチャンスに繋がっていた。かなり深いところまで侵入できていたが、クロスの精度や飛び込む人数に乏しく、決定的なチャンスには繋がらない。

 優勢にゲームを進めつつあったガンバだったが、25分のセットプレーからウェルトンとアラーノが左右のポジションを入れ替え。この入れ替えがガンバの歯車を狂わせる。ウェルトンの横パスミスからカウンターを生んだり(ウェルトンがイエローカード責任払い)、33分にはマーカーがズレて速攻の局面からパトリッキのシュートというピンチを招く。35分には一度左右を元に戻すが、セットプレー後には再び左右が入れ替わっている状況。41分、井出が左サイドでボールを引き取ってガンバのプレッシングを裏返す。松田はパトリッキにピン留めされており下がるしかない局面。たっぷりと時間を作ってクロスを放つと、逆サイドに飛び込んだのはサイドバックの広瀬。一森のセーブで事なきを得たが、ここでは左サイドに移っていたウェルトンの戻りの遅さが目立ってしまった。前節と比べると山田康太のプレスバックも復活していたためブロックの強度は保てるようになっていたはずだが、このサイドの入れ替えが想定していた守備のデザインとのズレを生んだのか、良い守備ができずに神戸にペースを握られるガンバ。

 前半アディショナルタイムの失点シーンもこのポジション交代が起点になった。縦パスを入れる福岡とウェルトンの息が合わずカウンターを招く。1枚もらっていたので強く出れないウェルトンが飯野の縦突破からのクロスを許す。ペナルティエリア内に同数の状況を作られており、クリアしきれなかったこぼれ球が大迫に転がってしまい神戸が先制。

 前半はお互いセーフティに試合を進めようとしていたはずで、ポジション交代までは神戸の攻撃を封じ込められていたはずだが、自らバランスを崩したことで手痛いダメージを負うことになった。




 後半は、ポヤトス監督からの檄もあって改めて左右のポジションを戻すことになったウェルトンとアラーノ(※書いちゃだめだったのか、リンク先記事が更新されて「左右入れ替えやめろ」の件が消えている。笑)。

 早速、斜めから裏に抜けるウェルトンへのロングボールなど、本来右サイドのウェルトンに期待したかったであろうプレーが増えていく。前述した「左で作って右で刺す」の形も復活し、53分はポジションが入れ替わってはいたが右の大外で待っていた宇佐美の決定機に繋がった。

 一方の神戸も、後半はサイドフローに味を占めた井出の動きからサイドを経由してゴールに迫るが、保持に人数を掛ける形になってしまい決定的なシュートには繋がらない。ややガンバがペースを握りつつある中で、宇佐美のミドルシュートがゴールに吸い込まれてガンバがタイスコアに戻す。ゴールキックのセカンドボールを拾って運び出した形だったが、宇佐美のドリブルのコース取りが絶妙だった。ドリブルで相手を押し下げてシュートエリアまで運び、カットインでフリーになって足を振り抜く。ボールはトゥーレルの脚に当たってゴールに吸い込まれた。

 以降、双方が選手交代でペースを握りにかかる。60分にパトリッキが宮代に、広瀬が初瀬に交代。初瀬が右サイドバックに入り、宮代が左サイドハーフに。64分にアラーノが坂本一彩と交代。メインポジションではない左サイドハーフに入る。ポストプレーが計算できる坂本の投入後はGKからの誘引の形が増えるが、つなぎのミスからのピンチも増える。ビルドアップが決まればアンカーを経由して左右を変えながら前進して攻め込めていたが、イーシャンテン(麻雀用語:チャンスになるちょっと手前のイメージ)ぐらいで決定機には繋がらない。76分のガンバは右サイドのユニットを入れ替え。ウェルトン・松田→山下・岸本に。80分には山田康太→倉田、ダワン→ネタラヴィで運動量の底上げ。一方の神戸も、本多に替えて菊池流帆、井出に替えて佐々木。右SBに菊池流帆、左SBに初瀬、左サイドハーフに佐々木が入り、宮代と大迫の2トップに。

 ガンバがイーシャンテンの状況を続けていた中で追加点を決めたのは神戸。空中戦で競り勝った大迫がボールを裏に流し中谷が引っ張り出される。佐々木は中谷と正対してタイミングを計りながらオーバーラップしてきた初瀬へ。初瀬のクロスにエリア内で宮代がアイデア抜群のヒールキックで合わせた。

 神戸の崩しの形は見事だったが、中谷のインタビューによると大迫との競り合いにサイドバックが出てしまったことが失点に繋がったと捉えているようだ。1失点目と同様、ディテールの部分が徹底できていなかった結果が重くのしかかる。

2失点目に関しては、完全に戦術的に神戸が狙ってきた形でした。「そこでSBが出てはダメだ」と試合前から話をしていたし、ああいう試合展開の中で、そういうことができないと失点につながります。ディテールというか、やるべきことをやれなかった結果かなと思います。

https://www.jleague.jp/match/j1/2024/081708/live/#player


 先行した神戸は試合をクローズしにかかりたいところだったろうが、今節は後ろにも中盤にも前線にもボールを持って落ち着かせられるメンバーがあまり揃っていなかったようで、なかなか時間を潰すプレーができない。敵陣で時間を過ごすどころか、オープンな局面でガンバのチャンスを招くことさえあった。

 そのような局面において最終盤は宇佐美がチャンスメイカーと化し、ペナルティエリアに中谷が入っていく文字通りのパワープレーで神戸ゴールに迫るガンバ。94分、坂本のシュートが中谷のモモに当たってゴールに吸い込まれ、土壇場でガンバがゲームを振り出しに戻す。ゴール自体はラッキーな形だったが、ポケットに飛び込んだ坂本にダイレクトのアウトサイドパスという技巧的なプレーで繋げた宇佐美による美しい崩しが起点だった。その後も再逆転を狙いにいくガンバはカウンターから同数の局面を作るがパスが通らずに2-2のまま試合終了。


まとめ

 試合の流れを踏まえれば、ディフェンディングチャンピオン相手にアウェーで勝ち点1は望外の結果だったと言えるだろう。一方失点の形はどちらもディシプリンの徹底ができておらずディテールにこだわれなかったことから生まれたものとなっており、チームとしてバランスを失いつつある状況に見えるのは気がかり。今節の結果を踏まえて、再び連勝時のようなディシプリンを纏ったチームに戻ってくれることを望みたい。天皇杯でサブ組が台頭し、スタメン陣の気を引き締めてくれることにも期待。



ちくわ(@ckwisb

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