2024 J1 第35節 ガンバ大阪 × 名古屋グランパス レビュー

スタメン

 ガンバは前節川崎戦から3名のスタメン交代。中4日で迎える今節、そして来る日曜に重要な天皇杯準決勝を控えていることもあり、出ずっぱりだった宇佐美・鈴木徳真は控えに回ることになった。前節負傷交代のウェルトンは休場、代わって食野が左WGに入る。

 対する名古屋グランパスは2名のスタメン交代。前節退場の三國がサスペンションで欠場しハチャンレがスタメン、前線に入っていた山岸がベンチに下がり、永井がトップに、そして和泉がシャドーに入った。


レビュー

 基本的には「ボールを持ちたいガンバと奪ってカウンターを狙うグランパス」という構図。ガンバのボール保持に対するグランパスの守備はマンマーク。スタメン図では3-4-2-1としたが、前線1トップ2シャドーがV字になり、ガンバのビルドアップの起点になる2CBとアンカーを抑えにかかる。基本配置では全員が名古屋のマーカーに捕まっている状態になるため、これをどう掻い潜っていくかが試合のテーマになっていた。

 加えて、名古屋がコーナーキックからハチャンレのヘッドで早々に先制。ハチャンレのマーカーは黒川。何故ミスマッチになる組み合わせにしたのか?と言われそうな失点だが、黒川が高身長の相手とマッチアップするのはシーズン当初から。寄せてフリーで叩かれないことを目指していたはずだが、ハチャンレの動きと徳元のキックがガッチリ噛み合ってしまった。

 よって自分たちから試合を動かしに行く必要があったガンバだが、序盤はなかなかうまくボールが繋げない。一森を使う、ボランチがサポートに降りる、半田がアンカーの位置に入るなど工夫はみられたが、流動性が高いことがビルドアップを妨げていたかもしれない。そして過剰な配置変更はカウンターを招くことにも繋がる。15分には美藤がCBの位置に落ち中谷が開いて前進を試みたが、パスがカットされて数的不利の局面ができ、名古屋に決定機を作られてしまった。

 このプレーで野上が負傷。名古屋側は即座の選手交代を行わなかったが、その間にモメンタムはガンバに傾く。特に坂本の動きが効果的だった。彼のマーカーはハチャンレだったが、付いてこれないエリアを見極め、縦パスを受けて前を向けるようになった。加えて野上が強いプレッシャーに出られなくなったのか右サイドのデュエルがガンバ優位に。野上を振り切ってポケットに飛び込んだ美藤が同点弾の起点となり、前半のうちにスコアをイーブンに戻すことに成功したガンバ。

 マンマークの外し方が見えてきたことで前進できるようになったガンバは即座に追加点。野上の負傷交代で名古屋は守備の塩梅を見つけにくかったかもしれない。コーナーキックのこぼれ球から実に15本のパスを繋いで放った坂本のシュートはディフレクションを呼び、名手ランゲラックも反応できないコースに吸い込まれていった。


 名古屋の保持に対するガンバの守備。前節の反省からか、CBがオープンな時はホルダーを抑える(山下の絞る動きが印象的だった)、バックパスに反応して全体でプレスをかけるといった形でメリハリがはっきりしていた。逆に言えば名古屋の攻撃はシンプルでメリハリが付けやすかったのかもしれない。名古屋はロングボールも含めて中央からは進みづらい情勢となっていたので、サイドに活路を見出す。1トップ・2シャドーが流れて起点となるが、ここで目立っていたのは名古屋右サイドの菊池。逆サイドの徳元と比較するとより縦に抜ける役割を期待されていたようで、森島とのコンビネーションで黒川を釣り、その裏に抜けだす動きが印象的だった。序盤はこの菊池の動きをどう処理するかで迷いがあった印象だが、前半の終わりごろには流れるシャドーに福岡が付くことで菊池を黒川が捕まえている状態を作れるようになっていた。

 ビハインドとなった名古屋はハイプレスの勢いを強めていくが、そうなるとより裏が空きやすくなる。ロングボールで山下・食野のウイングを走らせる形も使えるようになり、坂本の使えるスペースも広くなる。坂本は前回対戦時もハチャンレをアジリティで翻弄していたが、相性が良いのかも。 




 後半、名古屋は和泉に替えて山岸を投入。永井・山岸・森島で「2トップとトップ下」の関係性を分かりやすくし、よりハイプレスにいきやすくしたのかもしれない。そんな中、後半開始直後にコーナーキックから名古屋が同点に追いつく。前半はハチャンレの得点以外にもセットプレーからの決定機が多かった名古屋。ガンバとしても警戒していたはずだが、ボールが流れて吉田まで届いてしまった。吉田はこれがJ1初ゴール。

 追いついた名古屋だが、同点をよしとして受けには回らず、ハイプレスはやめなかった。そのため前半の終盤と同じような試合構造となり、これが59分の山下の決定機にも繋がる。

 直後にガンバは美藤・食野を下げ、鈴木徳真・宇佐美を投入。宇佐美が中央に入り、坂本が左WGの位置に移る。当然得点を取りに行く交代だったはずだが、ここからビルドアップが機能しなくなる。坂本は左サイドに移ったが、中央に入った宇佐美・山田は坂本ほど巧みに「ビルドアップの出口」になるタスクを担えていたわけではなかった。坂本が中央にポジションを移動して受けに来ていたが、中央からサイドに移動するのと違ってサイドから中央に移動する形だとマーカー(内田)を引き連れてきやすい。中央が渋滞した結果、名古屋のマンマークが機能しやすくなり、タックルやミスからターンオーバーを招くことが増えていく。

 68分に名古屋は永井に替えてユンカーを投入。ユンカーが右のトップ、山岸が左のトップに。またガンバも前段の状況を課題と捉えていたのか、このタイミングで坂本と山田が位置を入れ替える。このポジション変更によって中央の渋滞が解消され、再び試合のモメンタムはガンバに移る。

 ガンバは73分、左サイドに移った山田に代わって福田を投入。福田は投入直後にポストプレーから宇佐美とのワンツーを呼び込みカットインからのシュートで調子の良さを示したが、歓喜の瞬間はその直後に訪れる。78分、鈴木徳真の浮き球のパスを受けた坂本が宇佐美に落とし、宇佐美からのスルーパスに抜け出した福田が直前のシュートを布石にランゲラックのニアを抜くダイレクトシュートで再逆転。

 鈴木のパスも、坂本の落としも、宇佐美のスルーパスも、福田のシュートも全て素晴らしかったが、名古屋側の視点に立てば守備のエラーが起きやすい構造を示してもいた。後半から名古屋は3-4-1-2になっていたが、サイドのケアをシャドーが担えた前半の構成と比較するとWBのタスクが増える。ここでは菊池が直前のプレーでボランチのサポートに絞ることを選択していたため、福田がフリーになる構造ができていた。ただ、3-4-2-1で守っていれば……というのは結果論でしかない。穴が開きやすい構造を突いてゴールまでたどり着いたガンバの攻撃陣を褒めるべきシーンでもあるだろう。

 その後は選手交代を挟みながら決定機を作らせず時間を使い切り、ガンバが3-2で勝利。名古屋に対してはシーズンダブルとなった。



まとめ

 前後半とも立ち上がりにセットプレーから失点を喫してしまったことは反省点だが、名古屋がやりたかった(であろう)ことに試行錯誤しながら対応して寄り切ったガンバの貫録勝ちと言っていい内容だったのではないだろうか。この勢いで天皇杯も勝ち抜いてほしい。




ちくわ(@ckwisb

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