カタールW杯レビュー:グループA セネガル×オランダ
どうも、ちくわ(@ckwisb)です!はじめましての方ははじめまして。本記事は #ワールドカップアーカイブ化計画 という"ワールドカップグループリーグの48試合に対して48人で分析記事をアーカイブしていこう!"という壮大な企画の一端で作成したものになります。
分析官や選手育成を生業にしているようなプロの方も参加するような本企画。私は木っ端ブロガーに過ぎないので比べられちゃうとクオリティの荒さが目立ちますが、4年に1度のお祭りですので楽しんでやっていこうと思います!私が担当するのは大会2日目、セネガルvsオランダ。
ざっくり両国の事前情報整理
セネガルは直近のアフリカネーションズカップで優勝した、現時点でのアフリカ大陸タイトルホルダー。FIFAランキングも18位と出場アフリカ国のなかでトップ。欧州5大リーグを主戦場にする選手がチームの大多数を占め、選手個々のレベルも高い水準にあることが伺えます。
しかし大会前にチームの大黒柱であるワールドクラスのフォワード、サディオ・マネが負傷の影響により離脱。チームでも絶対的な選手として認識されているはずなので、彼の不在をどのようにカバーしていくかが大会のテーマといえるでしょう。
一方のオランダ。2010年南ア大会では準優勝、2014年ブラジル大会では3位まで上り詰めましたが、ひとつのサイクルが終わり世代交代を推し進める中で前回ロシア大会の出場権を逃し、今回が2大会ぶりの出場。一度は36位まで落としたFIFAランクも8位まで戻してきています。
世界最高のセンターバックとの呼び声も高いファン・ダイクは今大会がW杯初出場。チャンピオンズリーグで躍進したアヤックスなど国内チームの強化も好調で、質の高い選手が揃っている今大会のダークホースです。
スターティングメンバー
オランダのスタメンで気になるのは中盤の編成。ベルハイス、デ・ヨング、ガクポと、所属チームでも攻撃的な役割を担う攻撃偏重のセット。その分のリスクはデ・リフト、ファン・ダイク、アケと並んだ3バックが一手に引き受けるリスクマネジメントのようです。
セネガル、マネの定位置だった左WGには「ワトフォードをやれ(cf.アオアシ)」でお馴染み()のサールが入り、空いた右にはスピードが特徴のディアッタが入っています。特筆すべき点は、平時であれば左CBとして起用されるディアロが左SBとして起用されていること。後述する右偏重なオランダの攻撃パターンへの対応を意図していたように感じます。
オランダの「外切り5-2-1-2ディフェンス」
オランダのキックオフで始まったこの試合。
オランダは5-2-1-2のような形を基本の守備フォーメーションにしていたようですが、保持局面になるとダンフリースが前線に張り付いてデ・リフトが右サイドに広がり4バック化、4-2-4のような形に変化していました。
基本的にはフレンキー・デ・ヨングが受け手となってボールを引き出しながら、ブロックの間に降りる選手を経由して高い位置に上がるダンフリースにボールを届け、そこからのハイクロスや、同サイドに集まってきたガクポも交えたダイレクトプレーで右のポケットを攻略していくのが主な攻撃パターンになっていました。
それに対するセネガルは4-2-3-1のような形を基本に、ゲイェが前線のディアと並んで4-2-4のような形でプレスを敢行。
左にディアロが入っていることもあり最終ラインの空中戦で明確な弱点はない状況だったので、高い位置で詰めて蹴らせて回収、といった形を志向しているようでした。
そうしてボールを回収できればサイドに張ったウイングにボールを届け、IHとSBのサポートでトライアングルを形成しながらローテーションの動きでDFラインの裏にボールを届け、ロークロスやカットインからの巻きシュート、マイナスからのミドルなどでゴールに迫りました。デ・リフト、ファン・ダイク、アケといったクオリティのあるCBが鎮座することもあってか、あまりシンプルにクロスを蹴るシーンは少なかった印象です。
気になったのはセネガルのビルドアップに対するオランダの守備。
セネガルは相手DFライン背後のスペースを持ち前のスピードを活かして攻略したいので、敵を引き込むために保持の際は自陣深くからビルドアップを開始します。
それに対してオランダの2トップはCBに対して外側のパスコースを切りながら詰めていく、いわゆる外切りの動きで詰めていこうとしていました。
そうするとGKからボールを渡されたCBの選択肢は「降りてきた中盤の選手に渡す」か「ロングボールで逃げる」かの二択になりますが、2トップを除いたオランダの選手はブロックを敷いて備えるのではなくマンマークの意識強めで臨んでおり、とにかくマーカーの背中に陣取り、セネガルに対して前向きにアプローチをかけられることを重視していたようです。
恐らく、スプリント勝負になってしまうと分が悪い状況を警戒してのことではないかと思いますが、コンパクトなハイライン・ハイプレスが基本実装された現代サッカーを見慣れている我々にとって、この状況はかなり新鮮に映ったのではないでしょうか。
選手の同質性が生まれやすい国対国のコンペティション、チームの力関係を把握しにくい大会序盤であるからこそ生まれた状況かもしれず、個人的にはまさにワールドカップ!を感じた瞬間でした。
セネガルの3センターは中盤で捕まっている状況を独力で搔い潜る能力はあまりないようで、上述の前向きのプレスをまともに食らって危険なシーンを作ってしまうこともありました。
そうなるとセネガルが選ぶのはロングボール。タイミングによっては上がったダンフリースの裏を使って一気に前進できることもありましたが、素直に蹴ってしまうとオランダの3バックにはじき返されてしまうことが多かったです。
ファン・ダイクを中心に、空中戦で勝てればセカンドボールもオランダに傾き、オランダがボール保持に回れることになります。ここで目立っていたのがデ・ヨング。デ・ヨングは最終ラインまで下りて受けにきたり、1stラインの裏でボールを受けたりと、比較的自由な振る舞いが許されているようでした。
それもそのはず。いったんフリーで持って前を向けば、対面の選手をドリブルで剥がしてぐいぐい前に進めてしまう。おそらくこういう運ぶドリブルをやらせたら世界でも有数の選手。セネガルは彼の前進にはかなり手を焼いていたと思います。
前半を振り返ると、より「ゲーム対策」の色が濃かったのはオランダ。セネガルの特徴を出させないことで危険度は下げられた一方、前進はデ・ヨング個人の引き出しに頼ることが多く、すすんでリスクを取ることもなかったので、ゴールに迫る回数としてはそれほど多くない状況でした。
セネガルの変化・オランダのリスクマネジメント
後半、戦い方に変更が見られたのはセネガル。まずは前半取り組んでいたゲイェを押し上げる形での4-2-4でのプレッシングをやめ、4-5-1でブロックを組み相手の前進を待ち構える形が多くなります。前半の終盤では、1stラインの裏を起点にデ・ヨングに自由な前進を許していたので、その手当てを施したとみられます。
一方で、この変更によってプレッシャーがなくなり、オランダのCBは余裕を持てるようになります。バックラインでのボール回しの間にダンフリースを前線に張り付かせ、アケから対角のロングボールを通そうとする形もみられました。
ただ、ゲームメイクの主体をCBに寄せるというわけではなく、タクトを振るうのは引き続きデ・ヨング。DFラインの間に落ちたり自由にポジションを変えながらボールを引き受けます。
プレスの来ないバックラインでは余裕を持てますが、整っているセネガルの守備ブロックに数的不利で挑んでいく形になるので、デ・ヨング周辺からのボールロスト、そこからのセネガルのカウンターが目立つようになっていきます。
ただ、カウンターで盤面をひっくり返されても、デ・ヨング主体の数的不利な前進であるが故にCBはポジションを崩していないので、自陣深くまで前進されるものの常に数が足りている状況ではあり、xGの高いシュートが打たれることはありませんでした。
前半と比較するとボールが行き来する展開になっていましたが、オランダはカウンターに対してもCBが足りている、セネガルはブロック形成が早い。両チーム、ファン・ダイク、クリバリという強力なCBを抱え、運ばれてもラスト30m内は固い状態。
そんな中均衡を破ったのはオランダでした。
トランジションからの流れでしたが、セネガルのマークが一瞬ぼやけます。左サイドで受けたブリントに対しSBが出ていくのかウイングが出ていくのかがあいまいになり、そのタイミングで落としを受けたデ・ヨングが完全にフリーに。
一瞬のスキを突いたデ・ヨングのパス、デ・ヨングの意図を読み切りDFライン裏に駆け抜けたガクポ、ここしかない!といったタイミングで2人の意図がかみ合ったピンポイントクロスでオランダが先制します。
前に出ないといけなくなったセネガルは再び強くプレッシングに出るようになりますが、オランダはコープマイネルス、クラーセン、デ・ローンと、スターティングと比べるとフィジカルの強さが目立つ選手の起用を進めトランジションを制しにかかります。
焦るセネガルは強引にボールを奪おうとしファウルが嵩み、じわじわと進む時計の針。この試合が国際試合初出場という長身GKノペルトも安定したプレーを見せ、最後は彼からのロングボールをつないだところからデパイのミドルシュート、そのこぼれに詰めていたクラーセンのダメ押しゴールで勝負あり。オランダが難しい初戦を2-0で勝ち切りました。
まとめ:リアリストなオランダ、素直すぎたセネガル
見事初戦を制したオランダ。戦い方を振り返ると、「偶然」を排しながらゲームをコントロールしようとするファン・ハールの意図を強く感じました。オランダといえば、4-3-3!ウイングのカットイン!ロマン全振り!みたいな偏見があったのですが、今回のようにリアリスティックなサッカーに振り切っているのを見るといいところまでいけそうな予感がします。
ただ、前線の小粒感は否めませんでした。今回はデ・ヨングとガクポのピンポイントクロスでこじ開けることができましたが、途中から出てきたデパイはまだコンディションに問題がありそうで、誰が点を取るのかがはっきりしない状況。ガクポのような新しい力、若い力の台頭でここを乗り切れるかが、このチームの成否を分けることになりそうです。
一方のセネガルはちょっと素直すぎた印象。オランダの守備方式に対してビルドアップで解答を示せないままロングボール一辺倒になってしまいました。それでも終盤までイーブンでゲームを進められていたあたりポテンシャルの高さを感じますが、マネを基準にチームを作ってきたはずなので、彼がいないなかでどうゲームの変化に対応するのか、難しい舵取りが求められそうです。
また、中盤のキーマンだったクヤテが負傷離脱してしまったのも不安要素。セネガルはディアロも負傷離脱でしたが、今回のW杯は欧州のシーズン半ばで開催されたということもあり選手も消耗しがちです。選手層の厚さがより重要になるワールドカップになりそうだ、と感じました。
おまけ:「全体カメラ」で見えたオランダの意図
この試合の分析には、ABEMA配信で選べるカメラアングルのひとつである「全体カメラ」を使いましたが、これが非常に役立ちました。通常の画角だとボール周辺にフォーカスした映像になると思いますが、そうなると今回オランダが選んだ守備方法だとボランチ以下守備側の選手がほとんど映らず、中盤にぽっかりと穴が空いたように見えてしまいます。「全体カメラ」で見てようやくオランダの守り方と意図が把握できるようになりました。こういう特別な画角が使えるのもワールドカップならではですが、普通のリーグ戦でも画角を選べるようになるといろいろ楽しそう。実況やUI設計などいろいろなところでチャレンジングな取り組みが見られるABEMA。今後のサッカー配信にも期待したいです。
ちくわ(@ckwisb)