2024 J1 第31節 京都サンガ × ガンバ大阪 レビュー
スタメン
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前回対戦時とはもはや別のチームになった感のある京都。来日後8戦7発とかいうおかしな数字を叩き出し、今年のベスト夏補強であることは疑いようのないラファエル・エリアスが目立つが、センターバックも機動力重視の新戦力に置き換わっている。
ガンバは前節から3名のスタメン交代。両翼は左ウェルトン・右山下の組み合わせに。坂本一彩がベンチに回り、山田康太がトップ下でスタメン。累積警告で欠場となったダワンに代わって美藤。また、アラーノと中野伸哉が1か月ぶりにベンチに復帰している。
レビュー
序盤は落ち着かない展開が続いた。キックオフ直後、京都のセットプレー攻勢をしのぐと、ガンバもセットプレーで押し込む。お互いの狙いが見えてくるのは10分を過ぎたころからだったろうか。
京都は4-3-3(4-1-2-3)を基本フォーメーションとしていたが、特徴的なのはウイングの幅。一般的なウイングという単語で想起されるタッチラインを踏むイメージと異なり、原・エリアス・トゥーリオの3人が近い距離を保っていた。これは、ロングボールで敵陣の奥を取り、ハイプレスで窒息させる京都の戦術あっての配置だったろう。地上戦で繋いでいくシーンはほぼなく、ターゲットとなる原へのロングボールが主な前進手段だった。ガンバの保持に対する守備も、ロングボール後のハイプレスという戦術と一貫性を持たせているかのように、ウイングがナローに中央を塞ぎながら高い位置からガンガンプレスを掛けにくる様式だった。
このような前提を持つ京都のセット守備において、必然前から詰めるウイングと最終ラインをキープするサイドバックの距離は広がる。このスペースを梃に京都を攻略していくことがガンバの狙いだったようだ。上述のスペースケアは京都のインサイドハーフが行う場合が多かったが、そうなればインサイドハーフが動いた裏にスペースが生まれる(いわゆる「アンカー脇」)。ここを山田・宇佐美といった選手が使う。特に山田康太の、ボールの勢いを使いながら潰しに来た選手をかわすターンが目立った。
「アンカー脇」のスペースを潰しに出るのは、主に京都のセンターバック。つまり、京都のサイドバックは迎撃に出ていったセンターバックのスペースを埋めるため内に絞る意識が高くなる。そうすると外への意識を弱めざるを得ないのでウイングへのロングボールが活きる。中を意識させるか、外を意識させるか。ナカミテ、ソトミテ、ナカミテ……とは、ポヤトスの物真似をする福岡の持ちネタだが、まさにそのような二択を迫りながら前進するガンバ。ポヤトス監督が試合後のインタビューで「グラウンド全体を使うことを意識した」と述べた通り、こうした二択を迫っていくために、中断期間以降の基本戦術となっていたウイングをハーフスペースに格納する形ではなく、サイドに張らせる形を採用していたようだ。
先制シーンは中谷から山下へのロングボールが起点。ここでは京都の意識が整っていなかった。中谷がプレッシャーを受けていない状況にもかかわらず、ハイプレスを行う前提でDFラインを上げた裏を山下が突いた形。セオリーで考えるなら京都がDFラインを上げたのは疑問だが、京都の守備の振る舞いを踏まえればここではプレスに行っていない前線の責任が大きいのかもしれない。山下のクロスに飛び込んだのは山田康太。美藤がつぶれた裏でフリーになっており、無人のゴールに流し込んだ。
美藤はこのシーンではエリア内に飛び込んでいたり、保持では京都のハイプレスを恐れずにターン、体をぶつけてキープなど球際の強みを発揮していたりとアグレッシブ。ダワンの累積警告とネタラヴィの負傷によって得た出場機会ではあるが、天皇杯での奮闘以降、主力組のボランチが持ちえない彼固有の強みを活かして出場機会を伸ばしつつある。
このまま得点を重ねたいところだったが、京都のハイプレスに対してビルドアップのミスが出て追いつかれる。中断期間以降、少しずつビルドアップのミスによる失点が増えているのは気になるところ。
スコアが動いた後も試合のテンポは変わらず。この試合のガンバのスプリントは160回とシーズン最多。京都のハイプレスによって自陣でゆったりボールを持つシーンがあまり作れなかったことに加え、プレスを剥がせてしまえばシュートチャンスに直結していたので、チーム全体で素早く敵陣に向かうシーンが多かったことがその要因とみられる。この試合では、押し込んだ際にサイドバックやボランチがどんどん敵陣に飛び込んでいくことも印象的だった。前節浦和戦の反省もあってか、量も増やしていこう、となったのかもしれない。これは予想だが、攻撃については選手に裁量を与えているのがポヤトス監督なので、選手の意向が反映された結果のような気がする。
当たり前の話だが、前線に送り込む人数を増やせば後ろに残る人数が減るリスクもある。後半の失点シーンでは、実に7人の選手が京都の敵陣に送り込まれていたのに対し、京都は原・トゥーリオ・エリアスの3名を前残りさせていたので、ボールを奪われた後に3対3の数的同数の局面が生まれていた。どこかで減速させて味方の戻りを待てればよかったが、中谷の味方に繋ごうとしたクリアは原に拾われ、宇佐美のタックルも交わされ、エリアスと福岡の1対1の局面まで減速できずに進まれてしまった。決めたエリアスの質を褒めるべきシーンかもしれないが、潰し切ると判断したなら潰し切らなければいけないし、そうでなければしっかり減速させるべきだろう。ここ数戦勝てていないのは、この判断のばらつきに要因がありそうな気がする。
終盤は疲れからか京都のハイプレスがほとんど機能しなくなる。京都にはそうなった時のプランBがあるわけではなさそうで、ブロックの間延びが顕著だった。交代投入された坂本がライン間で暴れ回り、クソンユンのビッグセーブで何とか持ち堪えている状況。ガンバも選手交代を経てカオティックになってはいたが、セットプレーから中谷のゴールで同点に追いつくと、直後にセットプレーで再び中谷。連続得点で逆転、と見えたがVARの結果ウェルトンがハンドの判定を受けスコアは動かず。最終盤も黒川のクロスがPKの判定を受けたがVARで覆り、2対2の引き分けに終わった。
まとめ
ガンバの今期全ゲームの中で最もインテンシティが高くオープンなゲームだった。逆に言えば、オープンな局面で活きる京都の強みを最大化してしまったとも言えそう。ただ、局面にツッコミどころはあるものの、90分通して見ればガンバのゲームだったように思う。直近10戦で7勝2分1敗と、首位の広島に次いで勝ち点を稼いでいる京都。その京都の強みを受けながら内容面で上回り勝ち寸前まで持ち込めたことは評価したい。が、これでリーグ戦では7戦勝ちから遠ざかってしまうことになった。
これはオカルトとして受け止めてほしいが、この"試行錯誤"感は前半戦の勝ちきれない時期に近いものを感じる。逆に言えば、一度結果が出さえすれば一気に突き抜けられそうなイメージもある。幸いにも首位との勝ち点差は前節と変わっておらず、けが人の復帰というプラス要素も見込まれる。なんとかもう一度上昇気流に乗ってもらいたい。
ところで、試合後につぶやいたジャッジへの不満がそれなりにリポストされてしまった。試合直後の高ぶった感情のままにつぶやいてしまったことを反省している。
主審はディフレクションなことも理解してハンドの笛吹いてたでしょ。何でOFRが入るのよ。「正しい判定を探しに行くな」。
— ちくわ (@ckwisb) September 22, 2024
ジャッジについての議論は、判定そのもの、プロセス、エンターテイメントの受容者としての感情など立脚点は様々で、加えてそれが混在してもいる。自分はプロの審判員よりルールが分かっているなどとのたまうつもりは更々ないので、判定については下されたものを受け入れるスタンスでいる。ただ、一人のフットボール好きとして、分からないことを知りたい、という欲求はある。そしてその欲求は、白か黒かを知りたいというものではない。フットボールの世界において、"正しい判定"にもグラデーションがあることは承知している。自分は、そのグラデーションの機微が知りたいはずだった。残念ながら自分のポストは、そのような機微を知りたいという欲求ではなく、白と黒を明らかにして、対面を悪魔化しようとする欲求を誘発してしまった。自分が発した言葉の攻撃性を恥じる一方で、沈黙は金、と利口ぶってエントロピーを下げていくのがフットボールに向かう"正しい態度"とも思えない。難しいっすね。オチはありません。
ちくわ(@ckwisb)