2024 J1 第25節 ガンバ大阪 × FC東京 レビュー
スタメン
中断期間を挟んだ再開の一戦は前半戦の台風の目となった宇佐美貴史を累積警告で欠くこととなったガンバ。宇佐美のポジションにはジェバリが入り、それ以外はいつものメンバー、と言える顔ぶれになった。
一方のFC東京は中断期間を挟んでメンバー5人が入れ替え。五輪代表帰りの野澤大志ブランドン、センターバックは開幕当初はスタメンに入っていた土肥、中村帆高・小柏など、怪我で離脱していた選手の復帰が目立った。
レビュー
試合開始直後から一方的にガンバのペースが続いた。その最も大きな要因はガンバの前進ロジックに対してFC東京が制限をかけられなかったことだろう。4-4-2で守る東京に対して、ガンバはボランチのひとり(主に鈴木徳真)が2トップの間に陣取り、最終ラインとゴールキーパーで「ひし形」を作ってビルドアップを始める。そこに対する東京のリアクションは「アンカーを消しながらセンターバックに寄せていく」ことだったが、そのプレスに合わせて鈴木徳真がボールを持つセンターバックに寄っていくことで「消しながら寄せる」2トップをまるごとボールサイドにスライドさせることができていた。ボールを持つセンターバックがこのタイミングで反対側のセンターバックにパスを通せば、東京の2トップがスライドして空いたスペースを使って完全にフリーで前を向ける状態が作れるようになる。
前半のガンバは、この前を向いたセンターバックから多彩なパターンの前進を行うことができていた。福岡のサイドを例に取ると、そのまま持ち上がって対面の安斎を引き付けながらサイドの高い位置を取った黒川に付ける、安斎が動けないようであればライン間のウェルトンや坂本への縦パスから相手陣に切り込む、逆サイドの状況をみて一発でサイドチェンジを決める(長友を山下がピン留めしてその外の松田陸に通す)、あるいはそのまま持ち上がって相手陣内まで入っていくなど、おおよそ考えうるあらゆる前進パターンがみられた。左サイドの福岡を例に取ったが決して左サイドだけに偏っていたわけではなく、同様のセンターバックを解放するロジックで右サイドから前進することもできていた。右サイドはキックに強みのある松田陸が担っていたため、どちらかと言えば高い位置を取って仕掛けるよりは、すこし低い位置をとってフォワードに対する斜めのパスを通したり、ポケットに抜ける山下へのスルーパスを狙うことが多かった。
センターバックのところで時間を作って前進できるので、チーム全体で相手陣内に入っていくことができていたガンバ。そうなると、仮に敵陣でボールを奪われても近い位置にガンバの選手が揃っているケースが多く、素早い攻守の切り替えで即座にボールを奪い返すことができていた。惜しむらくはシュートが入らなかったことだろう。五輪帰りで即スタメンの野澤大志ブランドンが再三の好セーブで東京を救っていた。
ガンバは前線からの守備でも東京を苦しめることができていた。FC東京は、DFラインの4枚とボランチの2枚でビルドアップを行い、詰まってこればトップ下の原川がボールを受けに来るというパターンだったが、そのビルドアップを機能不全にしていたのはこの日出場停止の宇佐美に代わってトップに入ったジェバリの働きだろう。FC東京がボールを持っている時のジェバリの動きに注目すると、必ずといっていいほどセンターバックの間に立ち、センターバック間のパスコースを消してからプレスに出ていた。ジェバリの動きによってFC東京の攻撃サイドは限定されているので、ガンバの守備陣としては逆サイドを捨てて思い切ってプレスに出ることができていた。イメージとしてはホーム新潟戦に近いだろう。それでもFC東京が地上戦にこだわったことで、ガンバは高い位置でのボール奪取からショートカウンター、という形を何度も決めていた。ガンバの守備が刺さったもう一つの要因は東京の前線のキャラクターにあったとみられる。この日のFC東京の前線は左から遠藤・仲川・安斎となっており、トップ下に入っていた原川を含めても蹴っ飛ばして何とかしてくれるタイプの選手はいなかった。そういった理由でか、東京は地上戦での前進を選ばざるを得なかったのではないだろうか。降りていく原川を起点に疑似カウンターのような形で前進できるシーンはあったが、回数は少なかった。
後半開始直後はFC東京がセットプレーでガンバのゴールを脅かすが、そこを切り抜けたあとは前半と同様ガンバのペースで試合は進んでいった。しかしことごとくゴールに結びつかない。55分、この日一番の決定機と言えそうなジェバリのポストプレーからのパス→ダワンのスルー→山下がフリーでシュートを迎えたシーン。ここもクリーンにヒットせず野澤の正面に転がる形となってしまった。
ペースを握られていた東京は選手交代によってモメンタムを引き戻しにかかっていたようだ。63分に遠藤と原川に代えて俵積田と荒木が入る。荒木の投入により、降りてきてのポストプレーやターンなどで潰しに出てくるガンバのボランチを交わして前を向けるシーンが増えていく。また、俵積田はカウンターの局面で対面のディフェンダーに対してスピードを落としたドリブルを仕掛けられるため、ここで時間を作って味方の上がりを待つことで敵陣でボールを持てるようになっていった東京。
カウンターからオープンな展開を作り、テクニカルな選手たちが輝く局面を増やそうとしていたであろうFC東京。ただ、ガンバはオープンな殴り合いに付き合おうとはせず、前述した横パスからの展開を愚直にやり続けていた。ガンバがバランスを崩して攻めに出ていくのは、あくまで相手を敵陣に押し込んでから。センターバックが前線に切り込んでいくシーンはこれまでのガンバではあまり見られない傾向だった。サイズよりスピードに強みがある東京の前線に対してはサイドバックを残しておいたほうがいい、という判断だったかもしれない。
ガンバも飲水タイム直後に坂本一彩に代えてアラーノを投入。アラーノは、怪我からの復帰後はトップ下で起用されるシーンが増えている。
80分に山下に代えて食野、松田に代えて岸本。同じタイミングで足を攣ったダワンに代えてネタラヴィ。東京も同タイミングで安斎に代えて小柏、仲川に代えて白井を投入する。白井が右のサイドハーフ、荒木と小柏が2トップのような形になる。
投入直後のプレーでネタラヴィがクロスバー直撃のミドルシュート。入りそうで入らない。ただ、小柏の投入によって両サイドで仕掛けられるようになったことで、サイドを制圧してカウンターでの陣地回復を許さず、ガンバを押し込む東京。ただ、一度ボールを持てればしっかり押し込むことができるのが今節のガンバだったので、東京の選手の持ち味が出る時間はそれほど長くなかったのではなかろうか。アディショナルタイムも押し込むガンバだったが、トランジションから東京にコーナーキックを与えてしまう。そのカウンターによってアラーノが決定機を迎えるがここもゴールは捉えられず。スコアレスドローでの引き分けとなった。
まとめ
FC東京が望んでいたであろう後半のオープンな展開もいなし、90分を通して自分たちのゲームに持ち込めていただけに、文字通り「あとはゴールだけ」という試合だった。ただ、高さのない前線をディフェンダー陣が封殺していたように、今日のFC東京はガンバにとって最も相性のいいスカッドだったようにも感じる。次の柏も4-4-2で守るチームだが、前線の個のフィジカルは今日の東京とは少し違ってくる。
今日のガンバの戦いを見て強く印象に残ったのは「キャンセル」の動き。直前でプレーをキャンセルしてやりなおすことで、東京の守備の狙いをぎりぎりまで絞らせず、自分たちに時間とスペースをもたらす盤面を作っていた。この落ち着きをなんとかファイナルサードまで持ち込むことで、次はゴールまで繋げてほしいところだ。
ちくわ(@ckwisb)