見出し画像

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜 ①

「受粉を蝿でやってるんです。銀蝿を呼び込むためにお刺身屋さんから魚のアラをもらって来て、ハウスに入れておきます。沖縄では一般的なやり方です。蜜蜂は理想的ですが、コストが高いわりにマンゴーの花粉の匂いを好まないんです。」

石垣島の中部、嵩田(たけだ)でご両親とともにマンゴー農家を営む金城龍太郎さん(29)。2代目のハルサー(沖縄の方言で、畑仕事をする人)である龍太郎さんに、ハウス栽培中のマンゴーを見せてもらった。

とは言え収穫は7月から8月頃。花穂に蕾がついた2月末のこの時期の日課は、1本1本の茎を紐で吊り上げること。

「伸びてくると倒れて陽が当たらずマンゴーの実の赤色が出なくなってしまうので、花の時期から1本1本に光を当ててあげるようにしています。」

画像1

案内してもらうあいだ、重機で岩を砕く音が絶え間なく聞こえていた。昨年3月に始まった、陸上自衛隊駐屯地建設のための造成工事だ。朝8時からこの音が聞こえてくるという。このまま工事が進むと予定地はここから300メートルから400メートルほどの場所まで迫ってくることになる。

「(工事の音は)ストレスですよね?」

誘導尋問のようで気が引けたが、聞いてみた。

「そうですね、以前はなかった音なので・・」

龍太郎さんは言葉数の少ない人だ。けれど不思議と寡黙な印象ではない。そしてこのあと約1時間の対話の中で、誰かや何かを全面的に否定するような発言が一切なかったように思う。それはそのまま彼と仲間たちが伝え続けているメッセージの根っこにあるものと重なっている。


市民の理解は本当に得られたのか

龍太郎さんが陸自配備の候補地が農園にすぐ近い平得大俣(ひらえおおまた)だと初めて知ったのは、2015年11月の新聞記事からだった。衝撃を受けたものの、判断材料がなく、それがいいものか悪いものかもわからないため、自分の意見を表すことに慎重だったという。

早くから候補地周辺の4つの集落(開南、嵩田、於茂登、川原)の公民館では反対の声が上がっていた。一方で、観光業がますます盛り上がりを見せる市街地では陸自配備に関する話題が上がることは少なく、周辺地域との温度差があった。これは2018年の観光繁盛期に半年間、島に短期移住をしていた私自身、感じていたことでもある。

そんな中、2018年7月に石垣市の中山義隆市長が陸自の受け入れを正式に表明、

「配備計画は国の専権事項なので受け入れないという選択肢は基本的にない」

賛成・反対の意見は出尽くしたかと思う」

と会見で発言している。この時、龍太郎さんは疑問に思う。市民の理解が得られたのかをどのように判断したのだろう。市長選でも争点にならず、議会発議の住民投票案が否決された経緯もある。配備を進めるプロセスの中でも住民の声を聴く機会は必要なのではないか。

「それぞれの意見を示しませんか、という運動であれば僕も声をあげられる。市長もしない、議会もしないのならば、市民の発議で住民投票を行おうと思いました。」

「僕自身はこの場所(平得大俣)が選ばれた理由が明確になっていないのが、ずっと疑問だった。けれど石垣島のみんなが考えて“ここがいい”というのであれば、それでいいと思うし、そうでなければ考え直すべき。率直にみんなはどう思ってるのか知りたいという、その思いがいちばん強かったです。」

こうして2018年10月、若者たちを中心に「石垣市住民投票を求める会」は誕生した。

私事と重ねさせてもらうなら、それは私が無力感を持ちながら大荷物を抱えて東京に戻ったその翌月のことだった。

そのデビューは、なかなかに鮮烈だった。

つづく 

文・写真 / 蔵原実花子


【関連イベントのお知らせ】※こちらのイベントは終了いたしました。
TOKYO WOMEN's FILM FESTIVALでは、石垣島の住民投票について一緒に考えていただく機会として、オンラインでのトークイベントを企画しました。
当記事第8・9回でも登場していただいた「求める会」の宮良麻奈美さんにもゲストとしてご参加いただきます。
◉7月18日土曜日 19:00〜20:30
無料でご参加いただけますが、お申し込みが必要です。(先着30名)
ぜひご参加ください。


■石垣市住民投票を求める会
https://ishigaki-tohyo.com
https://www.facebook.com/ishigaki.tohyo
https://twitter.com/ForIshigaki
https://www.instagram.com/ishigakijumintohyo2018/

■ハルサーとは、沖縄の方言で「畑仕事をする人」の意味。石垣島の中心部への陸上自衛隊基地配備計画。地元のハルサーである同世代の若者たちが、住民投票をおこなうことで、自由に語ることが難しい閉鎖的な空気を変えて、計画への賛否ともに意見を言い合える、認め合えるそんな島にしたいと行動してる。


ーArchiveー

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜②

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜③

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜④

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑤

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑥

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑦

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑧

この島の人たちが本音で話せるように〜石垣島・ハルサーの闘わない闘い〜⑨

いいなと思ったら応援しよう!