ボタンは人差し指で押してはダメ:汚いよ!!!
最近はどこへ行っても、何をするときも、ボタンを押さなければならない。エレベータの乗り降り、銀行やコンビニのATM。
私たちは一日のうち何十回ボタンを押しているのかさえ分からない。そんな世の中になっても、以前の川上美祐は、ある程度、気にしていた程度で、それほど深刻には考えず、指でボタンを押していた。
ところが……である。
あるとき彼女は、見てしまったのだ。それは衝撃的などというものをはるかに超越していた。
エレベータで隣あわせになった男が、ハナクソをほじくって、しかもそのハナクソと一緒にエレベータの五階のボタンを押したのだ。
彼女はこのときから街のボタンを押すのが怖くなった。
ハナクソならまだいいかもしれない。世の中には大便のくっついた指で押しているヤツもいるだろうし、湿疹を掻きむしった血だらけの指のヤツもいるだろう。
しかし、ボタンを押さなくては毎日の生活ができない。
で、彼女は対応策を必死で考えた。
人差し指のハラというのは、自分の体の中で一番使う重宝な部位ではないか。場合によっては、口の中にだって入れることもある。
だから、他の部位で押せばいい。
あれこれ考えた末に、彼は「中指の甲の第二関節」に決めた。その部位で自分の体に触ることはないし、何かに使うこともない。しかも、ボタンを押しやすい。
それからというもの、ボタンはかならずそこで押すようになった。
やれやれ一件落着。
と、思いきや、これはとんでもない欠陥手段だったのだ。
脳みそというものは、よく使うところに愛着を感じてしまうのかもしれない。
ある日、彼女がテレビを見ているときに、無意識に、新しい部位、つまり「中指の甲の第二関節」に付いてしまったクリームを、ぺちゃぺちゃと舐めていたのだ。