無敵の微笑みを見るまでの10年 その1
清澄だった。その声をこの耳で聞いたのは初めてだったのに、毎日聞いているせいか初めてに感じなかった。
丁寧だった。そのはっきりとした低音をこの耳で聞くのは初めてだったのに、毎日のようにその音色で感傷に浸っているせいか、初めてに感じなかった。
少年だった。その無邪気な姿をこの目で見るのは初めてだったのに、毎日のようにその姿を見ているせいか、初めてに感じなかった。
豪快だった。そのスティック捌きをこの目で見るのは初めてだったのに、毎日のようにその姿を見ているせいか、初めてに感じなかった。
小学5年生。多感な時期に私は母親からあるものを受け取った。母親は若い頃、CDショップで長く働いていた経験がある。結婚を機にショップを辞める際、試聴用で売り物にならなくなったCDを何百枚ももらったという。もうCDがメインの時代ではなくなり、家の物置に何年も眠らせていたらしい。
時代は70-90年代の様々なジャンルの曲のCDがあった。私はCDプレイヤーと共に、部屋でそのCDたちを聞きあさることにした。
今考えると、シャ乱Qや尾崎豊を小5で聴くなんてあまりにもませている。ませすぎている。尾崎豊を聞いたせいで、少しひねくれた時期があったのはここでは割愛する。
そんな大量のCDたちの中の1枚が、スピッツだった。しかし、その時はスピッツなど知る由もなく、聴きすらしなかった。
初めて聞いたのは、母親が運転する車の中だった。助手席に何気なく座っていた私。母親がかけていたCDは昭和名曲サビメドレーだった。(ヴィレヴァンとかに売ってるやつね。)
交差点で止まっている時だったっけ。
「だーーーーれもさわーれーなーいー」
聞いたことのないような透き通った声。思わず鳥肌がたった。そして、メロディ。言葉にできないような軽やかなリズムが脳内を覆う。(ちなみに今も言語化はできかねる模様)
他の曲とは比にならないくらい、直感で気に入った。この時はまだ、スピッツに興味が湧くというより、ロビンソンに興味が湧いたが近いのかな。
ロビンソンのサビから全てが始まったスピッツ人生。ここから全ての物語が動き出す。
その2へ続く。