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ケアリースミス渚の旅日記 002

India  インド徒然


 
南インドの小さな空港に着き一番最初に飛び込んで来る情報は匂いだった。スパイスの香り、土の匂い、家畜と公衆トイレの様な臭さ、遠くに磯の香りがしたような気もする。色とりどりの強烈な香りがすべて入り交じり、いっぺんに嗅覚を刺激する。それとほぼ同時に、べっとりとした湿気とまとわりつく暑さに包まれる。


入国ゲート前の人の多さと旅の疲れで睡魔に襲われ、その場で床に横になりちょっとだけ眠ることにした。1時間くらい眠っただろうか、セキュリティーガードのおじさんに起こされ、ゲートが閉まるから出てくれと急かされる。押し寄せる人でごった返し、列が動く気配もなかったゲート周辺は、いつの間にか誰もいなくなり広々としていた。入国審査ゲートの人たちは「床で寝る変わった外国人」をのぞきに集まってきて代わる代わる質問してきた。バスの乗り方を聞いたがあまりあてにはならなかった。案内が当てにならないのは想定内だったので、外に出て立っている人に聞いて回ることに。バスを待っている様子の人々に聞くと、どうももうすぐバスが来るらしいので待つことした。



朝の風景、立ち食い朝飯屋
仕事前に立ち寄り、温かい朝食を食べていく人たちに交じり、私も真似してみたが
熱いカレーを手で上手に食べきるのは時間がかかり、見かねた店主がスプーンを貸してくれた


漁から帰って来た漁師たちが収獲を仕分けしているところに出くわす



海岸の町までたどり着き、予約した宿(予約が通っているかはお楽しみ)探しをしながらぶらぶらと歩き回る。わざと細い裏道を歩き、人に話しかけ、水たまりを避けながらぬかるむ道を歩く。鶏が6羽ほど地面の草や虫をついばんでいるのを木の棒を持った女性がゆっくり追い立てて進んでいく風景、プラスチックの小さな椅子に座って井戸端会議を楽しむ人たち、道端のヤギの親子、トタン屋根とブルーシートで囲っただけの軽食屋などすべてが新鮮なものだった。この国に来て良かったと思った。
 


寺院に参拝に来た子どもたち



 朝5時半にまだ暗い部屋の中で目覚ましが鳴る。頭の中にはまだ夢の続きがぼんやりと流れては消えていく。消える前に記憶に留めておこうとするが、今朝私を待ち構えている事への期待感に押されてどこかへ行ってしまった。電気をつけずにさっとTシャツをかぶり外へ出る。コンクリートの建物の角から見える空はまだ暗かったが、遠くにほんのりと朝焼けのオレンジ色が見える。地面を見ると、日焼けした足は真っ黒に見え、その下の土は湿ってさらに黒かった。静かなインド。早朝だけに味わえる不思議な静けさだった。破れてボロボロのブルーシートが半分かけられている露店や錆びたシャッターが閉まった店並みからは、昨夜のカラフルな賑わいが嘘のように思えた。


量り売りの八百屋


舗装されていない道路のぬかるみや動物の糞、ゴミを避けながら、夢の続きのぼんやりとした静けさがずーっと保たれていることに気付く。
ああ、私は今、南インドの目覚めを感じながら、目的をもって歩いているんだな、という幸福感と誇りに満ち溢れる。

程無く着いた場所は地元のカルチャーセンター。朝6時から私にマンツーマンレッスンをしてくれるのはインドの伝統打楽器、タブラの奏者。私の突然の要求に二つ返事で快く引き受けてくれた。
タブラとは、手でたたくインドのふたつ太鼓で、世界の太鼓の中でも最も習得が難しい太鼓とも言われる。夢がまた一つ現実になる瞬間をかみしめながら丁寧なレッスンが始まる。一つ一つ基礎の知識を教わるたびに、頭の中の「タブラ習得への道」という本が分厚く重くなるのを感じた。果てしない分厚さの本の表紙をようやくチラリとめくったように感じた。心の底から将来への興奮と怖くもある楽しみが泡のように沸々と湧きあがってきた。やっぱり太鼓が好きだと思った。

私にレッスンをしてくれた先生のタブラと手


レッスンの後は毎朝、ラガと呼ばれる音楽の生演奏に浸る。座って聴いても寝そべって聴いてもいい。ステージに上り、プロミュージシャンたちと輪になって心地よい姿勢をとり、静かに朝のラガに心を洗われる、幸せな時間である。
 
今でも、朝のラガを聴くと私は身体ごとこのステージに飛ぶ。目をつぶると、目の前で奏でられる楽器と、ミュージシャンたちの息使いを感じられるような気がする。また行きたい。
 

ラガを演奏する奏者たち
夜のラガ演奏もある





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