chelmicoと過ごす2020年夏ーchelmicoサマーソング集
文/高木”JET”晋一郎
たかぎ”じぇっと”しんいちろう●男の墓場プロダクション/レキシネーム:門仲町一郎/モノホンHIPHOP物書(トージン認定)/サ上と中江マイメンNo.1/サイプレス上野「ジャポニカヒップホップ練習帳」構成/Amebreak「Beat Scientist」連載/R-指定(Creepy Nuts)トークイベント「Rの異常な愛情」進行/オワコンないと
オーシーツクツクの夏なんです、という情緒的な表現をするには、あまりにもさんさんさんおてんとさまさま過ぎる毎日、お変わりありませんでしょうか。比喩表現ではなく、リアルに39度のとろけそうな毎日は、はしゃぎすぎてる夏の子供になるには暑すぎるわ! 君がいた夏は超熱帯夜の夢の中ですわ! という夏です。そしてお祭りも盆踊りも花火大会も甲子園もない夏です。
……気が晴れないにも程があるっつーの!
そんなただ暑いだけの夏ですが、日本語ラップのリリースラッシュも熱いことになっております。
Awitchは「Partition」でメジャーデビューし、メジャー進出済ながらアルバムにはなかなか辿り着かなかったKEIJUも「T.A.T.O.」をリリース。どちらもマジでブレない作品で激シブでした。BAD HOPも横アリ無観客を回収するクラファンのリターンとして制作された「BAD HOP WORLD」をドロップし、CreepyNutsは「かつて天才だった俺たちへ」をリリースし武道館ワンマンに弾みをつけ、20代のラップ勢がワンマンでホールライヴをするなんて全く珍しくないという状況を可視化。梅田サイファーのテークエムはBACHLOGICとタッグ作をリリースし、RockasenのISSACもソロリリース、MOUSOU PAGERはアルバムリリース&「タマフル」出演でネタキャラで無いことを証明し、PUNPEEは秋元才加さんと結婚するわアルバムも出すわで大わらわ、般若は12枚目(!)のフルアルバムを……と、直近のリリースだけでも追いつけないよ!というぐらいのラッシュです。これにYou TubeやBandcampリリース、単曲リリースを入れたら膨大な数に上り、ラップはホントにポップミュージックとして市民権を得たなと。
そんな中、我らがchelmicoも、本日8月26日にアルバム「maze」(マゼ)をリリース。
chelmico史上最高傑作なのは発売中のTV Bros.本誌10月号とTV Bros.note版で8月28日にアップされる予定のリリース・インタビューをお目通しいただきたいのですが(宣伝)、インタビューでも語られている通り、夏曲の多いchelmico、今作にも「Premium・夏mansion」などの夏曲が収録されております。そんなchelmicoの夏曲を本稿ではレコメンドいたします!
「Summer Holiday」(1st album『chelmico』収録)
TOKYO HEALTH CLUBのTSUBAMEプロデュースのオールドスクール「まぁいっか」、そして今でもライヴでおなじみのchelmicoクラシック「Love Is Over」に挟まれてのラス前曲は、三毛猫ホームレスのプロデュースによる「Summer Holiday」。本作リリースの2016年の段階から、明確に「夏曲」を制作していたchelmico。1stアルバムには今に繋がるchelmicoの魅力の萌芽がそこここに散りばめられているが、この曲でその部分が感じられるのは、2人の「楽器としての声の良さ」でしょう。曲冒頭&フックのメロディアスなヴォーカルはもちろん、Mamikoのメロディアスなフロウと、いまよりもハイトーンでクリアスピーキンなラップを聴かせるRachelと、そのラップを表現する2人とも、まあ声が良い! その後の快進撃もむべなるかなと思わせる1曲です。
「サマータイム」(2nd album『POWER』収録)
PARKGOLFプロデュース。BPM135をオンで取るノリの良いファースト・ヴァースと、半分の拍でとって訥々と言葉をハメていくセカンド・ヴァース、そして2人のユニゾンが気持ちいいフックと、ラップ・スキルや構成への好奇心を感じさせる1曲。「楽園ベイベー」の歌詞をオマージュ的に織り込み、RIPSLYMEへの愛を曲に込めるMamikoと、「指の間の砂がいなくなるまで」とポエジーに夏の終わりへの想像を表現するRachelという、「夏の解放」をテーマにしながらも、陰陽をつけた表現の広がりに「夏、いいよね……」と思わされるのであります。タイで撮影された「Highlight」のMVも夏感あります。
「Summer Day」(3rd album「Fishing」収録)
chelmicoのハウス・プロデュース・チームといっても過言ではないほど楽曲を提供しているPistachio StudioよりESME MORI/ryo takahashiがプロデュースした「Summer Day」。「無駄に早いBPM」とMamikoもラップしてる通り(「無駄に早い」で三連のスネアを入れて、「BPM」でビートを抜くトラックの構成、最高)、BPM144(÷2)で疾走するサマーソング。もはや2人のユニフォームなツナギ姿で撮られたMVは、「ストレンジャー・シングス」や「未知との遭遇」テイストを感じる内容だが、「やっぱり夏といえば冒険じゃね?」というとこだろうか。1stヴァースのRachelの韻の踏みかた、間を大事にしたMamikoの2ndヴァースにも注目。このアルバムには、この曲とは対をなすような、センチメンタルで気だるい夏ソング「Navy Love」も収録。
「Premium・夏mansion」「どうやら、私は」(4th album「maze」収録)
そして最新作に収録された夏曲がこの2曲。前述の「Navy Love」の続編的な「どうやら、私は」、勢いの良さは「Summer Days」に通じる「Premium・夏mansion」と、「盛夏/晩夏」「真っ昼間/マジックアワー」のような対比がchelmicoの夏表現の肝なのかもと思わされます。とはいえ、「どうやら、私は」は厳密に言うと夏ソングというよりは海ソングであり、海で疲れを癒やす……というと非常にチープになってしまうが、精神亢進と自律が日々求められる状況、つまり「強くあらねばならない」という圧力からの離脱という、心の調律を海に求めるような感触の1曲。しかしただ逃避するのではなく「ご確認のほどよろしくお願いします」と最後に現実に戻っていくのがchelmico流かと。クレイジーケンバンドの「せぷてんばぁ」も思い出します。
事程左様に、という強引なつなげ方をすれば、chelmicoの夏曲を通して、天気はいいけど心が晴れにくいぼんやりした夏を、「ちゃんとした夏」にしましょう! そして来年こそはハシャゲる夏に!
そんなchelmicoですが、本日(8月26日)19:30OPEN/20:00STARTでアルバム『maze』発売記念の生配信バーチャルライブを開催! きっと一筋縄ではいかないゴチャ混ぜなライブを見せてくれることでしょう!
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