見出し画像

『ジェントルメン』『ビーチ・バム まじめに不真面目』映画星取り【2021年4月号映画コラム②】

今回は、マシュー・マコノヒー祭り! 1人の俳優が、監督や作風によってまったく様変わりするのを楽しめます。
4/26には不肖TV Bros.が洋画を応援すべく動画を生配信する企画もありますので、お楽しみに!
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:オスカー予想を柳下毅一郎さんとやりました。読んでみてください。
折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:再び毎朝お弁当作りに悪戦苦闘。しかも食欲旺盛な男子2人分で、みるみるうちに米びつ空みたいな薄~い恐怖。
森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:4/19(月)にヒューマントラストシネマ有楽町で、冨永昌敬監督と『戦メリ』についてトークします。

『ジェントルメン』

ジェントルメン

監督・脚本・製作/ガイ・リッチー 出演/マシュー・マコノヒー チャーリー・ハナム ヘンリー・ゴールディング ミシェル・ドッカリー ジェレミー・ストロング エディ・マーサン コリン・ファレル ヒュー・グラントほか
(2020年/イギリス・アメリカ/113分)

●イギリス・ロンドンの暗黒街で、一代で大麻王国を築き上げたミッキーが、大麻ビジネスを売却して引退する噂が駆け巡る。ユダヤ人の大富豪、ゴシップ誌の編集者、私立探偵やマフィアなどが、紳士の顔をしたその裏で、利権をめぐって動き出す。監督は『コードネーム U.N.C.L.E.』、『アラジン』などを手掛けたガイ・リッチー。

5/7(金)より、TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
© 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.
配給/キノフィルムズ

渡辺麻紀
大麻で儲けるマコノヒー
『アラジン』でディズニー映画だってこなせることを証明したガイ・リッチーが、その次に自分らしさ全開の本作を作ったのは面白い。時間やシチュエーションをシャッフルし、パズルのように物語を構成。“ジェントルメン”とはほど遠い英国ギャングたちの騙し合いをスタイリッシュに披露する。前半はちょっとまどろっこしいが、コリン・ファレルが登場してからフルスロットル。一気に最後まで駆け抜ける。後半に行けば行くほど面白くなる映画って充実感が違いますよ!
★★★★☆

折田千鶴子
相変わらずの節回しだけど
おや、予想外に楽しめないゾ。思惑や犯罪が混線&連鎖して予想外の方向へ転がっていくのは往年のリッチー節だけど、セルフパロディか!? “どうだ!”とでも言いたげなソレが鼻につくわ、分かりにくいわで、かつて味わったワクワク/ニヤニヤが湧き上がって来ない。“一番作ってて楽しかった頃の俺”追いかけてどうする! でもキャストは豪華。ヒュー・グラントの胡散臭さも楽しいし、コリン・ファレルの“垢抜けないスッとぼけ筋肉バカ”具合は期待通りでちょいニヤニヤ。
★★半☆☆

森直人
カッコばかりでも悪くない
これはすべてがガイ・リッチー監督らしさで溢れている。本作の宣伝コピーは「一流の、紳士(ワル)たち。」だが、リッチーにはB級ならぬ「二流の良さ」があると思う(褒め言葉です!)。適度に気取っていて、色気も遊び心もあって、まあ大した内容ではないけれど、一定以上の技はあってちゃんと映画を観ている感じがする。パリッと良い服を着ていて、中身はそんなにないけれど、憎めないヤツみたいな(笑)。唸るほどの豪華キャストを揃えながら、この気楽さこそが彼の持ち味。エンディング曲がザ・ジャムの『ザッツ・エンターテインメント』というベタなのか粋なのか判断しがたい選曲まで、どこまでもガイ・リッチー!
★★★☆☆


『ビーチ・バム まじめに不真面目』

画像2

監督・脚本/ハーモニー・コリン 出演/マシュー・マコノヒー スヌープ・ドッグ アイラ・フィッシャー ステファニア・オーウェン ザック・エフロン ジョナ・ヒル マーティン・ローレンス ジミー・バフェットほか
(2019年/アメリカ/95分)

●1冊だけ出版した詩集で成功したが、その後は資産家の妻に頼って酒やパーティー、ドラッグに溺れる放蕩生活を送る詩人ムーンドッグは、ある出来事をきっかけに、新しい詩集を出版しなければならない苦境に陥る。

4/30(金)よりキノシネマみなとみらい・立川・天神ほか全国順次公開
©2019 BEACH BUM FILM HOLDINGS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
提供/木下グループ 配給/キノシネマ

渡辺麻紀
大麻でラリるマコノヒー
今回はマコノヒー祭り! 本作ではフロリダ周辺のビーチを遊びまわる詩人の役。で、この映画は、クリエーターの理想を描いたファンタジーなんだと思う。酒とクスリと女をやりまくっている、かつて才能が輝いていた詩人が主人公なら、どん底に堕ちて再起をはかるというのが普通だが、これはお金はあるわ、理解ある家族もいるわ、そして……と、いいことずくめ。当人にも葛藤や苦悩はほぼないし、もう夢のような生活。でも、だから面白くない。最初から最後まで好き放題の人間が主人公の映画があまり作られない理由がよくわかった。
★☆☆☆☆

折田千鶴子
またマコノヒーかっ!
『ジェントルメン』に続き、またも主演だが、こっちの方がマコノヒーらしさ&魅力が生きている気はする。G・リッチーもH・コリンも90年代後半~00年初頭にいきなり一世を風靡した観があり、その2人が同じ男を主演に、自分らしさ模索みたいな共通する色んな符号にフムフムと。さて“永遠の中2病(あくまで個人的な印象)”コリンによる本作は、主人公のあまりの成長のなさに“おいおい”とツッコミつつ、最後は“こういう人も一人くらい必要かも”とちょい快哉したくなる。
★★★☆☆

森直人
快楽主義のストリート哲学
これはハーモニー・コリン監督ならではの明るい堕落論と言える傑作(『ジェントルメン』と同じく主演のマシュー・マコノヒーが、それぞれ監督の個性に沿った「不良キャラ」を完璧に体現しているのが凄い!)。ヘミングウェイが愛したフロリダ州キーウェストで、船と海と太陽の下を住居に古いタイプライターを打ち、釣りに興じる。ロレンスやボードレールの詩を引用し、酒瓶片手にスケボーでそこら辺を徘徊する。『KIDS』あるいは『ガンモ』から『スプリング・ブレイカーズ』を経たハーモニー・コリンの流浪は、何も変わらずただ逆説的な肯定への意志が増していく。最高。何でもいいから陽気にしていようじゃないか!
★★★★半
(5/12追記:星の表記に誤りがありましたので訂正しました)

ここから先は

0字
「TV Bros. note版」は、月額500円で最新のコンテンツ読み放題。さらに2020年5月以降の過去記事もアーカイブ配信中(※一部記事はアーカイブされない可能性があります)。独自の視点でとらえる特集はもちろん、本誌でおなじみの豪華連載陣のコラムに、テレビ・ラジオ・映画・音楽・アニメ・コミック・書籍……有名無名にかかわらず、数あるカルチャーを勝手な切り口でご紹介!

TV Bros.note版

¥500 / 月 初月無料

新規登録で初月無料!(キャリア決済を除く)】 テレビ雑誌「TV Bros.」の豪華連載陣によるコラムや様々な特集、テレビ、音楽、映画のレビ…

TV Bros.note版では毎月40以上のコラム、レビューを更新中!入会初月は無料です。(※キャリア決済は除く)