『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』『日本独立』映画星取り【12月号映画コラム①】
キアヌ・リーヴスの意外な(とはいえ原点でもある)一面が見られる快作に、日本の戦後を考える秀作の2本立てであります。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)
<今回の評者>
柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:マダム信子の映画『やまない雨はない』をようやく見れて感無量。
ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。ぶった斬り最新映画情報番組「CINEMA NOON」を配信中。次回は12月25日(金)20時からYouTubeチャンネルで生放送します。
地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:Netflixで続々配信のインド映画にはまり、見逃していたアーミル・カーン作品にどっぷり。『ラガーン』『地上の星たち』に泣。
『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』
監督/ディーン・パリソット 脚本/クリス・マシスン エド・ソロモン 出演/キアヌ・リーヴス アレックス・ウィンター ブリジット・ランディ=ペイン サマラ・ウィーヴィング ウィリアム・サドラーほか
(2020年/アメリカ/91分)
●「2人の音楽が世界を救う」と予言されて30年。ロックバンド「ワイルド・スタリオンズ」のメンバー、ビルとテッドはそれを信じて活動してきたが、人気も下火に。そんな中、未来の使者が現れ、世界の消滅まであとわずかしかないことを知らされる。2人は世界を救う音楽を作るため、伝説のミュージシャンにバンド結成を持ち掛ける。主演のキアヌ・リーヴスの原点であり、思い入れのあるコメディ『ビルとテッドの大冒険』シリーズ第3作にして29年ぶりの新作。
12/18(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
© 2020 Bill & Ted FTM, LLC. All rights reserved.
配給/ファントム・フィルム
柳下毅一郎
音楽は世界を救うのだ
『地獄旅行』から30年、大スターになったキアヌ・リーヴスが見事にアレックス・ウィンターと同じレベルのボンクラに戻っていることにまず感動する。同時にこれが二人の子供世代、娘たちのシスターフッドとエンパワーメントを謳う今の映画になっている奇跡。
★★★★☆
ミルクマン斉藤
いきなりキアヌのテルミンから最高。
30年経ってもな~んも変わってないキアヌとアレックスだけでもう感動ものなのだが、今回は二人の娘たちがタメ張って大活躍。親父たちよりはしっかりしてるけど、その血は確かに継いでいて実に頼もしい。ちゃんと前作の続編になっているのもいいが(脚本も同じ)、その上で胸アツの音楽賛歌としてきちんと完結してみせる初志貫徹の出来。最高の『スター・トレック』トリビュート作『ギャラクシー・クエスト』を撮ったD.パリソットを監督に雇っただけでセンスが判ろうというものだ。
★★★★半
地畑寧子
エクセレントな続編
おバカ映画ファンには堪らない、バイブル的な“ビル&テッド”シリーズ。ここにきてなんで続編? と思わせない、前2作へのリスペクト&愛情が満載で大満足。大作のパロディを挟みつつ、細かいことは気にしない能天気を一貫しているのがいい。主人公は当然老けた二人だが、二人の遺伝子を受け継いだ娘たちにも見せ場を作っているのも好感度大。個人的には死神さんのファンでもあるので、二人と別れひとりで石けりしている姿にキュンときました。
★★★★★
『日本独立』
監督・脚本/伊藤俊也 出演/浅野忠信 宮沢りえ 小林薫ほか
(2020年/日本/127分)
●第2次世界大戦直後のGHQ占領下の日本。外務大臣の吉田茂は、実業の第一線を退いていた白洲次郎にGHQとの交渉役の仕事を託す。一方、GHQは憲法改正に取り組んでいた近衛文麿を戦犯指定し、米国主導の憲法改正を推進しようとしていた。日本の一刻も早い独立を目指した吉田茂と白洲次郎の人間ドラマを描く。
12 / 18 (⾦)より TOHO シネマズ シャンテ他全国順次公開
©2020「日本独立」製作委員会
配給/株式会社シネメディア
柳下毅一郎
おっさんたちの憲法改正
『戦艦大和ノ最期』の舞台劇とかいきなり「敦盛」を舞う宮沢りえとか素っ頓狂な描写が伊藤俊也の作家性を見せてはいるが、ベアテ・シロタの描写に代表される女性像が決定的に古いのが限界でもある。白洲次郎をもちあげるおっさんダンディズムも飽きた。
★★★☆☆
ミルクマン斉藤
伊藤俊也執念の憲法成立裏話。
伊藤俊也にとって『プライド 運命の瞬間』と対になるのは明らか。あれが理不尽なまでに左翼に叩かれたのと同様、「GHQに押しつけられた日本国憲法」の次第を描くものだけにアレルギーを起こす人はいそうだが、べらんめえの白洲を演じる浅野、特殊メイクで小林薫とは判らん吉田茂はじめ、憤死しそうな勢いの柄本明、石橋蓮司ら見どころてんこ盛り。吉田満(渡辺大)のエピソードは本筋に巧く絡んではいないが、小林秀雄(青木崇高)との問答などどうしてもこれを入れたいという伊藤のこだわりを感じさせる。
★★★★☆
地畑寧子
日本の俳優陣はいいのに…
日本国憲法改正を巡る日米の対峙という非常にいい題材。吉田茂と白洲次郎、GHQの検閲の不条理を示す吉田満と小林秀雄のシーンなど心打つ場面もあるのに、視点が双方からなのか日本側からなのか定まらず、不要なシーンもあり、中盤まで不透明なのがもったいない。双方ならば『ミッドウェイ』並みに、米国側の役者を揃えてほしかったのが本音。日本の俳優陣がみないいだけに残念。特に吉田茂に扮した小林薫が素晴らしいので、小林薫版の吉田茂に特化した作品を見たいと思った。
★★★☆☆
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