第30回 屁理屈、揚げ足取り、開き直り、それは闇の合気!
かつてこの世は「混沌」だった。そこから陰と陽の気が分離して世界が形成されたときに、陽の気は人間となり、そして下に溜まった陰の「大声の屁理屈で開き直られたのに勢いで丸め込まれてしまった」とか「一方的にルールを押し付けられた2択の中で、自分なりにマシな方を選んでしまった」とかのモヤモヤを自分で自分が許せなくて数日後に発狂しそうになる気が『ゴクシンカ』となった。
ピエール手塚 『ゴクシンカ(1)』(KADOKAWA)※コミックビームで連載中
ということで読みましたか『ゴクシンカ』。
合気道の開祖、植芝盛平は「合気道はただ敵と戦い敵を破る術ではない。世界を和合させ人類を一家たらしめる道である。合気の極意は、おのれを宇宙の動きと調和させること」というようなことを説いておられますが、このマンガは完全にそれで、「人体の多くの部分は、単純な筋力ではなく骨格の構造で姿勢を保たれているので、その構造の一部を崩す仕組みを理解すれば容易に転がすことができる」という本来肉体に作用する合気の仕組みを、如何に精神に応用するか? みたいなことが延々と描かれており、要するに「異常に頭が回る人間が一冊丸ごと余計なことを考えている」という身も蓋もない褒め方をするしかない最高の一冊です。
野球をやっている人がよくしゃべる野球マンガを読んだときに思う「いや、ピッチャーが投げてからバッターが振り始めるまでに、その量の思考は無理やろ」みたいな違和感がないので、生の人間が生の世界から引っ張り込んできたドライブ感がある。必読!
それとはまったく別方向での会話の妙が炸裂しているのが『 異世界プロレスラーマキト』で、これには「口から脳に伝える言葉と、魂から魂に伝える言葉は同じではない」ということが、それこそ小学生でも分かるように描かれていて、とにかく作中で叫ばれている一見理解不能な謎のセリフが全部、問答無用で理解できてしまう。
ジェントルメン中村『異世界プロレスラーマキト(2)』(ソルマーレ編集部)※2巻完結
いつもこの作者のことを「ゆでたまご/ゆで理論の正統後継者の一人」と言ってるんですが、とにかく「へのつっぱりはいらんですよ」のバリエーションを1000万個持っているぞ感がすごくて、本当にこの人はデビューから最新作まで一貫して完成している。
もう本人の絵柄じゃなくても構わないので、とにかくジェントルメン中村節を読みたい! とすら思うので、今後は原作仕事もどんどん増やして「令和の倉科遼」になってほしいし、小学校の道徳で習った「客人に恥をかかせないようにフィンガーボールの水を飲み干した話」のコミカライズもしてほしい。
あと、先月に1巻が発売されたものの中だと『サンダー3』のインパクトがすごくて、
池田祐輝『サンダー3(1)』(講談社)※月刊少年マガジンで連載中
これについてはとにかく第一話(https://comic-days.com/episode/3269754496887933824)を読んでくれ以外の説明は営業妨害になってしまいかねない仕込みになっていると思うので、ぜひ読んでみてほしいのと、『リバイアサン』です。これは完全に「これしかない! という気持ちが全部失敗して、全選択を間違って破滅に向かっていく閉鎖環境の子供たち」が大好きな者としては外せないことになっており、私はやさしさ方面での精神の成長を拒否した大人なので、大悲劇を希望します。
成長は、未来がある人間だけがすればいいものだからな!
黒井 白『リバイアサン (1)』(集英社)※ジャンプ+で連載中
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