アリシア・キーズ、BLACK PINK、ドジャ・キャット。世界を席巻するスーパーウーマン!
文/井上由紀子
いのうえ・ゆきこ●雑誌「nero」編集長、音楽ライター。大学在学中にバンド、ロリポップ・ソニックを結成。名義をフリッパーズ・ギターに変え、『three cheers for our side ~海へ行くつもりじゃなかった』でメジャーデビュー。脱退後、音楽ライターとしてのキャリアをスタートする。
「<今書きたいもの><今の気分で>3曲」を選んで欲しい。
編集さんから、そうしたかなり漠然としたお題をふられて、慌てて自分の気分について考えてみる。
ぶっちゃけ最も関心があることと言われたなら、海外に出る機会も多く、いろんな国籍の人と仕事をする私にとっては〈BLACK LIVES MATTER〉、この問題に尽きる。
否、もっと自身の身近な問題として考えるのであれば、〈YELLOW LIVES MATTER〉、ひいてはすべての人種差別や人権問題を無視することはできない。
しかしながらこの問題について語るのであれば、いろんな角度からの考察や深い知識が必要であると思うので、今回はあえて世界を席巻する、今最も輝いていると思う女性アーティスト、私の思うスーパーウーマンたちについて紹介しようと思う。
結局、それも前述の問題と繋がるポジティヴな光なのだけれど。
実のところこのコロナ禍、STAY HOMEで時間を持て余していたのにもかかわらず、なぜかあまり積極的に音楽を聴く気になれなかった。
エネルギーは無駄に余っているし、気持ちにも余裕があるから、精神的にも肉体的にもヘルシーな状態ではあったのだけれど、どういうわけか、目にする、耳にする音楽の多くが、どれもこれもあざとく聞こえる、あるいはエネルギーを感じられない。
元気だからこそ、心や身体が欲するのは、予定調和ではない、ビジネスではない、プリミティヴで純粋な新しい音楽で。
ここ最近耳にするものほとんどすべてが無味乾燥に感じてしまい、軽い音楽自粛モード(笑)に入っていたというわけ。
そんな不感症になりつつある私の心を捕らえたのが以下紹介する世界中の逞しく、美しい女性アーティストたちである。
まずは、ファイストと並ぶ私のミューズ、マスター、アリシア・キーズから。
「世界中の誰に生まれ変わりたい?」と尋ねられたなら、真っ先に思い付くのがアリシア♡
見惚れる容姿とセンスの良さ、才能、その母性的な懐の深さ、包容力と……もはや私的には女神(超越したもの)の域にある。
差別の問題は実のところ肌の色だけではない。
女性、ホームレス、クィアやゲイといった何らその人格に欠陥が見当たらないにも関わらず、虐げられる社会的弱者においてもそれは深刻な問題だ。
彼女の近作『Underdog』はそうした社会的弱者やこの絶望と共存する現代社会で夢を追う若者達に光をあてた生への讃歌。
ブラッドオレンジ『Sandra’s Smile』やケンドリック・ラマー『Alright』など、BLACK LIVES MATTERについて考えさせられる名曲はたくさんあるけれど、アリシアのこの曲もその延長にある傑作だ。
「やりたいことを続けなさい/必ず報われる日が来るから」「私たちは変えていくことができるはず」
信念をもって突き進めば、貧困や不当な差別など、どんな過酷な状況も突破できるとメッセージするアリシア。
彼女のシャウトにはいつも最大級の温かい愛が溢れている。
それはリアルな心の叫びであり、祈りを投影したソウル&レベル・ミュージックと呼べる。
最近観たトレイ・エドワード・シュルツの話題映画『WAVES』(日本公開は7月10日)にも感じた、痛みや悲しみを凌駕するような何とも言葉にし難い優しい、愛のフィーリング。
決して憎しみに捕われず、懸命に自身の生を謳歌することで、今この瞬間掴みとる。
この歌はそうした人間の持つ、底力、ポジティヴなエナジーを奨励するような作品であると思う。
続いては目下最高に輝いている、コリアン・ガールズ、BLACK PINK。
今やアジアに終らず、世界を席巻するアーティストへと成長した彼女たちの活躍は同じエイジアン、女性として、頼もしくもあり、希望の光でもある。
まず、素晴しいと思うのは四者四様にそのスタイル=キャラが確立しているということ。
また、その音楽によりフォーカスしてみると楽曲のヴァースは各々を際立たせた個性的なものであるとはいうものの、そもそも曲としての展開、繋がりが歪だし、楽典的には無秩序なものであるようにすら感じる。
しかしながら本来クリエイティヴとは未知のものであり、何でもありなわけで、その目線で言うならばそれは“新しい”。
何者にも似ていないBLACK PINKとしての個性が気付けばそこに完成しているのだ。
もちろん、それはプロデューサーであるパク・テディの手腕による部分も大きいし、振り付けや衣装、演出など、その細部に渡るまでのプロダクションも言うまでもなくパーフェクトであり、超プロフェッショナルであるがゆえ。
チームBLACK PINKとしての功績も大きい。
そして、そのスケール感も身内や半径数メートルのエイジアン・マーケットを意識したものではなく、ワールドワイド。
「可愛い」、「綺麗」といったありきたりの評価を得ようとコンパクトに収まろうとはせず、もっともっと大胆にそして妖艶に進化/深化している。
先週発表された新曲『How You Like That』もこれまでの彼女達の集大成のような良い意味でのケオス感が〈らしい〉。
日本のいわゆるアイドルのような男性目線の媚びた女性性の切り売りではない色気はゾクゾクする魅力があるし、可愛いというより、むしろ格好良い。
彼女達に限らずBTSにしても、私の個人的一推しの韓国のバンドHYUKOHにしてもその世界基準の完成度に驚かされるし、まるでコリアンフードのようなミックス(ごちゃまぜ)することに対する臆面の躊躇いもない新進カルチャーのパワーに魅せられる。
正直少し前にインフォメーションされた世界の歌姫レディ・ガガやデュア・リパとのコラボでも決して引けをとっていない。
そもそもよく言われることであるけれど、国の中でエンタテインメントを回すには日本と比べてもパイが小さ過ぎるゆえに生まれた外貨を稼ぐという慣習ゆえの〈完成度〉へのこだわり。
1プロダクションに対して注ぎ込まれるバジェットは日本ではおよそ考えられないものだし、だからこそそうした1つ1つのプロジェクトにはそれに見合った情熱と覚悟が感じとれる。
そうした志の高さがこの数年で彼らを世界水準に押し上げていったと思うし、国が小さい故に外に出て行くことで世界中に散らばった韓国コミュニティの結束の強さは淡白で個人主義の私たち日本人では生み出せない壮大な創造物を産み落としているように思う。
SE SO NEONやCAVIN GHOST(KOREANという名の新進ラッパー)など、インディー界にも次々と掟破りの才能が追随しているのも頼もしい限りだし、
音楽に限らず、映画『パラサイト』のアカデミー賞(第92回アカデミー賞、作品賞ほか監督賞、脚本賞、長編国際映画賞の4冠獲得)や、文学、あるいはアート等、もはやアジアのトップランナーとしてそのカルチャーを牽引する彼ら。
BLACK PINKはそんな韓国ニュー・ジェネレーションが生んだ今この時点における最高峰の芸術品と言っても過言ではないし、今後どこまで上り詰めるのか楽しみでしかない。
最後に紹介したい私の独断によるスーパーウーマンは前述の2組と比べると露骨に女性性を売りにしたキュートなビッチであるドジャ・キャット。
正直言うと私自身は「Say So」から夢中になったにわかファン(笑)。
もちろん、以前からその存在は知っていたけれど、ブレイクした「Juicy」のMVなどを観て、その安いビッチ感が苦手だった(ファンの方ごめんなさい)。
ただ、当時からその可愛いソング・プロダクションは乙女心をくすぐる魅力があって好みではあったし、単純にデカ尻、たれパイ、チープな衣装と言ったそのヴィジュアルに触手が伸びなかっただけ。
しかしながらジェネール・モネイやブルーノ・マーズの流れを汲む最新型のブラック・ポップ「Say So」はMVも本人のヴィジュアルや佇まいも垢抜けて一気に好きになってしまったという……。
むしろ社会的な問題をテーマにした歌や自分探しの歌など、音楽に意味や理由が問われることも少なくない2020年に、〈したいならしたいと言って〉などというエロ全開なリリック、女の子の可愛らしさや、お色気を売りにしているのも近年の女性ラッパーには珍しいのかも(笑)。
しかもそこがイヤミにならず、可愛げで通せるあたりにその人柄の良さも感じなくはない。
オノ・ヨーコのデカパイと等しくドジャのデカ尻に母性を感じる人も少なくないんじゃないかと(私にはデカ過ぎてちょっと怖いけど 笑)。
ドジャのこの楽曲、YouTubeでも1.6億回を越えるスマッシュヒットになっていて、そのカヴァーをブラジルやオーストラリア、韓国、日本、インドと世界中の若者がやっているのだけれど、中でも日本語のカヴァーがバズっている。こちらRainych Ranという親日のインドネシア人の少女によるもので、プロ顔負け、デビューも夢ではない完成度に。
ブルカを被ったイノセントな女の子がオリジナルのエロカワとは対象的なアニソン風ロリータヴォイスで「お互いに攻め合って/欲しいならほら叫べ」など、ちょっと奇妙な日本語を駆使して歌う「Say So」は何とも不思議かつ新鮮な魅力があるので、是非チェックしてみていただきたい。
紹介したどの女性アーティストに魅力を感じるかは人それぞれだけれど、いずれ劣らぬジ・オンリーワンの才能の持ち主なのではないかと思う。
そういえば、自粛期間中、政府よりも誰よりも東京で一番踏ん張っていた都知事も女性だった。
社会的地位や権力に捕われ、常に群れをなすメンズを余所目にドスンと構える女性たちを侮るなかれ。
いつの時代も時代に風穴を開け、切り開いてきたのは女性だった。
おかしな疫病に脅かされ、価値観すら根底から覆されそうな2020年。
さらなる女性の活躍を期待してしまうのは私だけではないのではないだろうか。
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