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『KCIA 南山の部長たち』『アンチ・ライフ』映画星取り【2021年1月号映画コラム①】

本年も映画星取りコーナーをよろしくお願いいたします。今年も、大注目作品はもちろんですが、コアな作品にも目を向け、皆様が満足度の高い作品に出会える一助となれば、という所存です。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>

柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:正月は我が家でムシムシ映画大会を開催しました。
ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。ぶった斬り最新映画情報番組「CINEMA NOON」を配信中。次回は1月29日(金)20時からYouTubeチャンネルで生放送します。
地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:今年もよろしくお願いいたします。年初母校の快走を見て晴れやかになりましたが…。配信ひたすら見る日々になりそうです。


『KCIA 南山の部長たち』

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監督・脚本/ウ・ミンホ 原作/キム・チュンシク 脚本/イ・ジミン 出演/イ・ビョンホン イ・ソンミン クァク・ドウォン イ・ヒジュン キム・ソジンほか
(2019年/韓国/114分)
●1979年10月、韓国大統領の直属機関である中央情報部(KCIA)のキム部長が大統領を射殺。その40日前、アメリカに亡命していたKCIA元部長がアメリカの下院議会聴聞会で韓国大統領の腐敗を告発する証言を行っていた。激怒した韓国大統領に事態の収拾を命じられたキム部長は、アメリカに向かう。朴正煕大統領暗殺をもとに映画化した実録サスペンス。

1月22日(金) シネマート新宿ほか全国ロードショー
COPYRIGHT © 2020 SHOWBOX, HIVE MEDIA CORP AND GEMSTONE PICTURES ALL RIGHTS RESERVED.
配給/クロックワークス

柳下毅一郎
韓国名産ポリティカル・フィクション
韓国のポリティカル・フィクションにはずれなし。民主化勢力側の話が多かったけれど、これは権力サイド。1979年に発生した朴正煕大統領暗殺事件を実話ベースで描き、緊張感たっぷりに見せる。軍事政権内での権力者の暗闘っぷりがすさまじく、なんせ諜報部が自国の大統領を盗聴しようとするのだ。仁義もへったくれもあったもんじゃない。主役のイ・ビョンホンがあまりにも見事に化けていて刮目。
★★★★☆

ミルクマン斉藤
これってまるで本能寺の変だよ。
権力闘争と身内の裏切りの渦に巻き込まれ、やがて朴大統領暗殺に至るイ・ビョンホンの心情の変化が丹念に描かれてはいくけれど、もともと大統領を崇拝し、それと同等に第二次大戦後韓国体制の革命を信じる愛国者であり、またKCIA内での地位にあくまで固執するエリートであるってことで、どこか旧来の解釈に拠るところの信長を討った光秀の面影がチラついてしまう。硬派なタッチで面白くはあるがやっぱひとつの解釈でしかない印象。同じフィクションならイム・サンス『ユゴ 大統領有故』のほうが好み。
★★★半☆

地畑寧子
君のそばには私がいる
パク・チョンヒ(朴正煕)大統領暗殺の内幕を金戴圭(キム・ジェギュ。劇中は金規泙<キム・ギュピョン>)の立場から描いた実録サスペンスの秀作。翌年の光州事件の伏線になっている点も素晴らしい。日本との関わり、逃れられない米国の枷、金が絡んでくる長期政権の弊害の描き込みも巧く、大統領への不信を募らせていく金規泙の苦悶がより明解に。大統領の空恐ろしい心境を体現したイ・ソンミン(『未生』『工作』)が出色。同事件をブラックコメディで描いた『ユゴ 大統領有故』もぜひ併せて。
★★★★半

『アンチ・ライフ』

アンチライフ

監督/ジョン・スーツ 脚本/エドワード・ドレイク コーリー・ラージ 出演/コディ・カースリー ブルース・ウィリス カラン・マルヴェイ レイチェル・ニコルズ ティモシー・V・マーフィ トーマス・ジェーン カサンドラ・クレメンティほか
(2020年/カナダ/92分)
●西暦2242年。謎のウイルスの蔓延によって地球が滅亡の危機に陥る中、選ばれた富裕層5000人は、元軍人や現役兵士によって管理される宇宙船でニューアースへと避難する。その飛行の最中、船内で殺人事件が発生するが、その現場は人の手によるものとは思えないものだった。『パンデミック』を手掛けたジョン・スーツが監督を務めるSFアクションスリラー。

1月15日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
©2020 Anti-Life LLC.ALL RIGHTS RESERVED.
配給/プレシディオ

柳下毅一郎
いまどき『エイリアン』
えーいまどき『エイリアン』なのー? 『エイリアン』パクっても許されるのって小学生までだよねー! 嘘でしょと思うんだけど2021年になんのひねりもない『エイリアン』パクリとかさー! 星間移民船に「雑役夫」をつとめる乗員がいるとかいう世界観が謎すぎるし、登場人物の紹介が雑だから裏切り者を探すサスペンスもないし、宇宙船内で銃を撃ちまくるのもどうかと思う。ブルース・ウィリスも苦労してんな……。
★☆☆☆☆

ミルクマン斉藤
ラストのイメージは嫌いじゃないよ。
量子ジャンプが出来ることを除いてはとても220年後の未来とは思えんテクノロジー。ぶっちゃけゾンビの変種でしかないパラサイト。なんだか1980年代のエンパイア・ピクチャーズあたりを彷彿とさせる、これぞB級SFな空気が懐かしい。今やどんな映画でも出る俳優のひとりブルース・ウィリスが、がっつり顔見せっぱなしなのも清々しい (ま、彼はそれなりに出演作選んでる気もするが)。原題は“Breach”だが“Bleach”にカケてるのかなあ。
★★☆☆☆

地畑寧子
策はなりゆき?
数多ある近未来SFのコンテンツをいろいろ混ぜて、アルマゲドンで締めくくってみました、みたいな味わい。かつて二本立てで見たB級アクション&SF風で懐かしさも。選民に抗する意識や密室の宇宙船の設定はまずまず納得だが、エイリアンのゾンビ化、撃ってもダメならこれしかない的な大雑把な策、提督を起こすのが遅すぎなどツッコミどころもいっぱいで苦笑。酔いどれクレイ役のブルース・ウィリスの我が道を行く演技は安定してます。
★★半☆☆

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