押井守のサブぃカルチャー70年「YouTubeの巻 その28」 【2023年3月号 押井守 連載第63回】
今回ご紹介いただく押井さんおすすめのYouTubeチャンネルは、前回に引き続き『ももじオンライン』。「下手なんだけど、ゲームを本当に楽しんでいる姿に情が移っちゃった(笑)」と語る押井さんですが、ゲームが上手になることに価値を置かず、楽しむ「ももじさん」の姿は、“幸福論の実践者”として映ったようです。
押井さんにとって、幸福とは? 早速、お話をお伺いしてみましょう。
取材・構成/渡辺麻紀
撮影/ツダヒロキ
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動画を通じて、それを作っているおじさんやおばさん、おねえさんやおにいさんに出会う場がYouTube
――押井さんがYouTubeにハマるきっかけになった『ももじオンライン』について語っていただいています。そのためには『Fallout4』がどんなゲームなのかを説明するとおっしゃっていて、前回はそのゲームに登場するモンスターというかクリーチャー、デスクローについて途中までお伺いしていました。
デスクローは最初のほうに出てくる。ファンの間では「デスクロー先輩」とか「デスクロー先生」とか呼ばれている強力なモンスターなんですよ。誰もが何度も何度も挑戦して殺され、その間に勝つ方法を見つけてやっと勝利出来る相手。まともに闘って勝てる相手じゃない。パワーアーマーを着け、ガトリングガンを武器に立ち向かうしかない。これが最低限。デスクロー先生は大変狡猾なので、自分がヤバくなると逃げる。でも、これを追いかけて行くと返り討ちに遭っちゃうから気長に待つしかない。
でも、ももじのおっさんは、これらをまるで守らない。何度やっても守らない。弾数が限られているにもかかわらず、雨あられと撃つからすぐに弾切れになる。絶好のタイミングで的確に撃つことでしか勝てないのに、毎回これをやらかすんです。追いかけちゃダメなのにいつも追いかけるし、たとえ物陰に隠れたりしても、ちゃんと隠れてないから見つかって殺されることもある。もっと奥で隠れろよ! と言いたくなるんです。
――もしかして、ヘタなことを楽しんでいる?
何度も言うけど、小学生以下だからね。戦訓もなければ、卑怯ワザも裏ワザも何もない。私も最初はイライラして見るのを止めようと思ったんだけど、情が移った。ひと言でいうとこれですよ。
――判るような気がします(笑)。
喋ることに夢中で、足元に重要なアイテムが転がっていても気付かないとか、マイクのスイッチを入れ忘れることもある。YouTube的にもデタラメ。私は『fallout4』のチャンネルをたくさん見たけど、そのなかでは異色ですよ。お役立ち要素が皆無という意味ではユニークなんです。
もうひとつ面白かったのは私生活が垣間見えるという点。ゲームをやっていると「あ、すみません。いま家の者が帰って来たので一旦中断します」ということがある。多分、奥さんのことで、奥さんにばれないようにプレイしているんだよ。私のような職業だと1日中やっていても怒られないけど、普通の社会人がゲームにハマるのはなかなかハードルが高い。おそらく、普通の勤め人なんじゃないの? そういう雰囲気が切なかったりするし、登録者数がまったく増えないのに、めげることなくやっているじゃない? このおじさん、本当にゲームが好きなんだなと思うようにもなって、どんどん情が移っていっちゃった(笑)。
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