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武田砂鉄 「ずっと言葉を大切にしてきたラジオだからこそ、 “力”を持った人たちの乱暴な言葉の扱いを許しちゃいけない」

現在発売中の「TV Bros. 2月号 ラジオ特集号」に掲載されている記事の中から、TBSラジオ『アシタノカレッジ』の金曜パーソナリティを務める武田砂鉄さんのインタビューを公開。本誌から一部を抜粋し、このTV Bros. note版だけで読めるテキストも加えた再編集版です。ぜひ本誌とあわせて、お読みください。

TBSラジオで22時から放送されている帯番組『アシタノカレッジ』。月曜日から木曜日はキニマンス塚本ニキが、そして金曜日は『ACTION』でもパーソナリティを務めていた武田砂鉄が引き続き担当している。平日22時といえば、これまで、夜のニュース番組として好評を得ていた『荻上チキ・session-22』が放送されていた枠である。それだけに、この『アシタノカレッジ』は、TBSラジオからも、TBSラジオリスナーからも、大きな期待を寄せられている。そんな大役の一翼を担うことになった武田砂鉄は、いまラジオについて何を思っているのか。

撮影/石垣星児
取材・編集/おぐらりゅうじ

ラジオは人々の体の中に染み込んでいるメディア

——ラジオは学生時代からずっと聴いていましたか?

 家ではずっとTBSラジオが流れていて、大沢悠里さん、森本毅郎さん、小沢昭一さん、伊集院光さんの番組をよく聴いてましたね。

——ライターとしての武田砂鉄さんの文章は、ある物事を裏側や別の角度から考察したり、しつこく遠回りするような構成が1つの特徴ですが、ラジオの生放送ではその手法は使えないですよね?

 自分が書く原稿の特徴は、こじつけです。ばらまいたものをどうやってまとめていくか、という。そうやって回収していくやり方は、たしかにラジオではやりにくいですね。

——それなのに、武田砂鉄の個性であり作家性は、文章でもラジオでも、それほど印象が変わらないのは不思議だなと。

 そこはもう、自分という存在の作られ方の問題なんだと思いますよ。どんな物事でも真っ直ぐに見ない性格は、変えようがないので。目の前のものを直視することができない体なんです。斜めや後ろから見るような視点は、ラジオのリスナーとの相性はいいはずだと勝手に思ってます。

——文章を書くときに想定する読者と、ラジオで話すときのリスナーとでは、違いを意識したりはしますか?

 とくに意識はしないです。いまは情報が流れていくスピードがものすごく速くて、常に何かしらの問題があり、いくつものことに対して疑問を感じている、その状態にイライラしている人が多いと思うんです。「あれって結局どうなったんだ?」という、わだかまりが解消されないままの事案が頻発していますから。そういう人たちは、長いテキストでも読んでくれるし、ラジオにもじっくり耳を傾けてくださる。なので、文章とラジオの親和性は高いと思っています。

——ラジオというメディアの特性として、パーソナリティで番組を選ぶだけではなく、聴くこと自体が習慣になっている方も多い。ゆえに、新番組がはじまるときには、大なり小なり、常に波紋を呼びます。

 それこそ『ACTION』がはじまった時には、24年間続いてきた『荒川強啓 デイ・キャッチ!』の後継でしたから、大きい波紋を呼びました。僕自身、『ACTION』という新番組がはじまることを知らない状態で、『荒川強啓 デイ・キャッチ!』が終わるとだけ聞いた時には、いちリスナーとして、「おい、なんで終わるんだ!」と思いましたからね。

——それがまさか、自分が後継者として番組パーソナリティに就任するとは。

 とはいえ、自分の担当は金曜日の1日だけで、ほかの曜日はバラエティに富んだパーソナリティの方々が4人いましたから、あくまで5人のうちの一人なだけで、「後継者」というプレッシャーは感じていなかったです。1つの番組を長年聴き続けてきた人たちの気持ちというのは、自分なんかがどうこうできるものではありません。

 テレビでも、長寿番組が終わって新番組がはじまると、それなりにショックを受けますが、ラジオはそれよりも根がとっても深い。体内の血流をいじられたかのような感覚にもなる。ここ何十年もうまく血流がまわっていたのに、急に変えないでよ、と。当然、拒否反応が出ます。馴染めないのは仕方がない。と同時に、誰かにとっての血流になるぐらい、ラジオというのは、人々の体の中に染み込んでいるメディアだということ。それはとてもすごいことですよね。

 『ACTION』に限らず、この『アシタノカレッジ』でも、「まだやってほしかったのに」という状態にわざわざ入ってやっている、という自覚を持っています。ただ、それを表に出して「こんなにがんばってます!」とアピールするつもりはありませんし、逆に、わざわざ自分や番組を卑下するつもりもありません。

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「時間が経てば忘れるよ」と言って同じ問題を起こす

——リスナーからの反響で、印象に残っている意見はありますか?

 『ACTION』が放送を重ねていくうちに、リスナーの方々が自発的に『ACTION』を応援していこうよっていう声を上げてくれるようになったんです。今回の『アシタノカレッジ』にしても、月曜から木曜を担当しているキニマンス塚本ニキさんは、初めてラジオのパーソナリティを務める方なので、大変なご苦労もされていると思うのですが、それに対してリスナーの方々から「ニキさん、がんばって」という声が上がっていく。○か×かではなく、励ましの声が生まれてくる。それって、テレビなど他のメディアと比べてもかなり特殊で、ラジオならではの、いい部分ですよね。

——週に1回、生放送という環境でニュースを伝えることについては?

 放送が金曜日の夜なので、それに合わせて月曜日から金曜日までの間に起こったことをじっくり振り返ってみると、この数年は常に苛立ち案件が積もっている感じなんです。苛立つことのない平穏な日々が訪れることが理想ですけど、現実がそうではない以上、せめて週に1回、自分の番組では、そのまま放置されて忘れられてしまいそうなニュースをしっかりと伝えて、じっくり考えて、「見逃してないからな」と監視役をできればいいなと思っています。

 現状、権力に限らず、発言力や交渉力などの“力”を持っている人たちの多くが、言葉を非常に乱暴に扱っているのは明らかです。ずっと言葉を大切にしてきたラジオは、そういった乱暴な言葉の扱いを許しちゃいけないと思うんです。言葉のメディアであるラジオだからこそ、それについては口を酸っぱくして言い続けていくことが必要なのかなと。

——日々のニュースを見ていると、実際に起きた問題は違うとしても、構造自体は過去の問題と同じだったりすることも多いです。

 本当にその通りですよね。基本的に同じ構造、同じ要因で、あらゆる問題が起きている。ではなぜ同じになるかといえば、人々が忘れたり、放置したり、根本的な解決をしないままやり過ごしているからです。そうなると、問題を起こしている側は「どうせまた時間が経てば忘れるよ」と言いながら、再び同じ問題を起こす。この無限ループなんです。でも、だからと言って追及を諦めず、こちらも何度だって同じことを指摘し続けなければならないんですよね。

——番組の後半では、TBSラジオの政治記者・澤田大樹さんとのニュース談義のコーナーもあります。

 澤田さんとのコーナーは、放送時間が変わる前の『荻上チキ・Session-22』の最終回に僕がゲストで出させてもらって、放送後にソーシャルディスタンスを保った状態で「夜中のピザパーティ」をやったんですけど、どちらからともなく「一緒にやりましょうよ」との話になったんです。その時点では『アシタノカレッジ』の企画も定まっていなかったので、急きょ番組スタートの1週間前に決まりました。

 澤田さんは毎日様々な政治の現場へ取材に行っているので、各番組では概要を速報的に伝えているところを、『アシタノカレッジ』では取材の奥や裏を話してくれるので、そういう意味でも貴重ですね。尺としては20〜25分間という時間を使ってニュースを掘り下げるのも、テレビではなかなかできないですから。

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音楽雑誌の編集者いわく「メタル的な文章ですね」

——『ACTION』からの大きな変化として、『アシタノカレッジ』では好きな曲を1曲かけられるようになりました。

 本当にありがたい限りです。いつも愛聴しているヘヴィ・メタルやハード・ロックの曲をかけているのですが、自分では局地的に注目を浴びていると思ってますよ。メタルファンは忠誠心がありますから、ラジオでメタルの曲がかかったというだけで、その情報がファンの間で静かに広まります。

——いつも必ずバンドTシャツを着ていて、砂鉄さんがヘヴィ・メタル/ハード・ロック好きなのは明らかなのに、その音楽性と、文体や作家性を関連付けて語られることって、ほぼないですよね。

 そうなんですよ。おっしゃる通り。実際、原稿を書くときは必ずメタルを爆音で聴いてますから。ただ、音楽雑誌の編集者には「非常にメタル的な文章ですね」とか「プログレ的な構成だね」と言われたことありますよ。

——「メタル的な文章」というのは……?

 メタルやプログレの曲っていうのは、基本的にくどいじゃないですか。たとえばパンクだったら、早いテンポで最後にドラムがダダンと鳴って、コンパクトに終わります。それがメタルになると、ドラムがダダンと鳴って終わったかと思いきや、そこからハイハットの音がシャリシャリ聞こえてきて、ドラムがドコドコ鳴りだして、ギターソロまではじまって、もう1回サビがきたりします。なかなか終わらない。イントロにしても、メタルはやたら荘厳な音からはじまって、なかなかAメロにもたどり着かない。あの感じです。

——なるほど……武田砂鉄の文章は、たしかにメタル的ですね。

 文体にしても、中学生の頃から愛読していた伊藤政則さん(音楽評論家でヘヴィメタル専門誌『BURRN!』の編集顧問)からの影響を多分に受けています。爽やかで気持ちのいい文章は書けないんですよ。何かしらのメッセージなり、自分の考えを伝えるときには、曲でたとえると、3〜4分では足りなくて、どうしても10分以上、できれば17分くらいの曲にしたいですね。なので、僕の文章はよく「くどい」とか言われますけど、そこはメタルを聴くように、くどさの中にある旋律を感じてほしいです。

——伊藤政則さんは、ラジオもやってましたよね。

 当然、ラジオも聴いてました。政則さんのラジオというと、bayfmの『POWER ROCK TODAY』が知られていますけど、 僕が住んでいた東京都東大和市というのは、山梨県のほうがむしろ近いくらいだったので、FM FUJIの『ROCKADOM』もよく聴いていました。『POWER ROCK TODAY』は、新譜や話題の曲が中心だったんですが、『ROCKADOM』のほうが、政則さんの好きな70年代のハードロックやプログレッシブ・ロックをかけたり、レコード屋の店長を呼んでマイナーなバンドを紹介したりとか、濃厚な趣味性が反映されていました。そこで語られているマニアックな言葉遣いには憧れていましたし、中学時代から番組宛に曲のリクエストを出したりしてましたね。

——当時どんな曲をリクエストしていたんですか?

 どういう曲なら採用されるか考えつつ、高校生なのにこんなマニアックなバンド知ってるんだぞっていうのをアピールしたくて、わりとマイナーなブルー・オイスター・カルトというバンドとか、カナダのホワイト・ウルフという一発屋のバンドだったりとか。


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キニマンス塚本ニキさんと、幸坂理加さんのこと

——キニマンス塚本ニキさんのことも、ぜひ聞かせてください。

 ニキさんが担当されている月曜から木曜の放送は、いまのところ全部聴いてます。僕とはまったく違う経歴で、いろいろな経験をされている方ですよね。とくに気になるのは、デイヴィッド・リー・ロス(ヴァン・ヘイレンの初代ボーカル)が日本に滞在したときにアシスタントを務めたという経歴。そういったエピソードも、これから色々と出てくるのでしょうし、目の前の議題に対してはっきりものを言う姿勢も、これからもっと尖った形で現れてくるんだろうなと思って、楽しみにしています。とはいえ、いきなりTBSラジオの22時台の帯番組を任されたわけですから、相当に大変な思いもされているはずなので、無理せず馴染んでいってほしいなと。

——一方、『ACTION』時代にパートナーだった幸坂理加さんについては?

 最終的になぜか僕が幸坂さんの婚姻届の証人までやることになりました。最初、幸坂さんが『ACTION』のパーソナリティに決まった5人(宮藤官九郎・尾崎世界観・DJ松永・羽田圭介・武田砂鉄)を見たときの様子は、完全に動物園で珍しい動物を見るお客さんと同じ目をしていました。それがいつの間にか、ずけずけと檻の中に入って、どの曜日でも、立派な飼育員として振る舞ってましたよね。

——決して気の合う者同士という感じではないのに、妙な相性の良さがありました。

 学生時代だったら確実に仲良くならない二人です。幸坂さんは教室の真ん中で明るく元気におしゃべりしているタイプで、僕は教室の隅っこで気心知れたやつらとだけつるんでいるようなタイプ。そんな二人が、机を挟んで、強制的に2時間ずっと一緒にいて話さなきゃいけない状況ですから、すごくイレギュラーな体験ではありました。でも、だからといって、お互い別に仲良くなろうと思っていたわけではなく、「合わないよね〜」と言いながら関係を続けていって、リスナーの方もその関係性を許容してくれている雰囲気でしたので、それはありがたかったし、貴重な経験でした。おそらくこの先、ああいう経験をすることは滅多にないと思うので、そういう意味ではとても寂しいですね。

——そんな幸坂さんも、10月から『MUSIX』(TBSラジオ)でナビゲーターを務めています。

 日曜の明け方から、誰もツッコミがいない状態で、活き活きとしゃべってますね。この前も放送を聴いたら、太田裕美さんの『木綿のハンカチーフ』をかけながら「私はこれまで、木綿といえば豆腐でした」みたいこと言ってました。何も気にせず、あそこまであっけらかんとしゃべることができるって、相変わらず気持ちのいい人だなって思いましたね。

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【プロフィール】
たけだ・さてつ●1982年生まれ、東京都出身。出版社での編集者を経て、2014年からフリーのライター。著書『紋切型社会―言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。ほか『芸能人寛容論―テレビの中のわだかまり』(青弓社)、『コンプレックス文化論』(文藝春秋)、『日本の気配』(晶文社)など。最新刊は『わかりやすさの罪』(朝日新聞出版)。新聞や週刊誌、文芸誌やファッション誌などへの寄稿や連載も多数。

【番組情報】
TBSラジオ『アシタノカレッジ』
毎週(月)〜(金)後10・00〜11・55

<パーソナリティ>
月曜〜木曜:キニマンス塚本ニキ
金曜:武田砂鉄

「DIALOG FOR A BETTER TOMORROW」をキャッチフレーズに、新しい日常を生きる私たちに必要な知識を、楽しく学び、深く考える2時間のプログラム。モヤモヤをワクワクするアシタに変えていくように、社会と向き合い、次の100年を学ぶカレッジ。


【おまけ】

武田砂鉄 バンドTシャツ コレクション

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