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裏切られた映画たち(仮)【2024年10月号 押井守連載 #10『ミスト』】

“裏切られた映画たち”とは、どんでん返しなどではなく、映画に対する価値観すら変えるかもしれない構造を持った作品のこと。そんな裏切り映画を語り尽くす本連載。今月は、驚愕のラストが大きな話題となった『ミスト』です。

取材・文/渡辺麻紀 撮影/ツダヒロキ

※この記事は『TV Bros.』本誌10月号(発売中)でも読むことができます。
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『ミスト』を胸糞映画なんて言ってしまうのが
誰でも何でも言える現代のダメなところなんです。

――今回、押井さんが選ばれたのは驚愕のラストが大きな話題となった『ミスト』(07)です。原作はスティーブン・キングの中編『霧』。監督と脚本はキングものを数多く手掛けているフランク・ダラボン。ある日突然、町が濃密な霧に包まれ、そのなかから異形のモンスターが出現。スーパーマーケットに逃げ込んだ人たちは果たして助かるか? というサスペンスホラーです。

エンディングはいくつかあると聞いたことがあるんだけど、どうなの?

――私は原作のほうを先に読んでいたんですが、最後は希望をもたせる感じで終わっていた。ただ、この映画が公開されたときキングが、本当は小説のほうも映画版と同じ終わり方にしたかったんだ、みたいなことを言っていた記憶が……。

原作はあのラストじゃなかったんだ。でも、原作通りの希望を持たせる感じだと、よくある映画ですぐに忘れられる。今回は、それを言いたいんです。つまり、バッドエンドというのはエンタテインメントの重要なテーマのひとつだということ。

――予想を覆すラストなんていう特集を組むときに、『ミスト』は必ずランクインする映画ですよね。

普通はそう思うよね? でも、多くの人があのエンディングは胸糞悪いと言ったんだよ。YouTubeやネットの若い人たちの言論を聞いていると、バッドエンド自体がもう犯罪的だって。金と時間を返せというの。彼らの価値観では、悪党は死に、いいヤツは報われるという映画がいい映画。

でも、人間の実人生なんてハッピーエンドは滅多にないんだからさ。優しくて理解ある両親に育てられ、希望した高校や大学に進学し、いい会社に就職し、すてきな人と結婚し、かわいくてクレバーな子を授かる。老後も悠々自適の生活……なんていう人生を歩める人が何パーセントいると思う? 人生というのは山あり谷ありどころじゃなく、基本的には谷ばかりなの。

――そ、そんな押井さん、辛すぎるじゃないですか。

そうだよ、生きるというのは辛いこと。それを学校の先生も親も教えてくれない。だから、その事実に気づくのが遅くなってしまう。

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