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裏切られた映画たち(仮)【2024年8月号 押井守連載 #8『殺しの烙印』】

“裏切られた映画たち”とは、どんでん返しなどではなく、映画に対する価値観すら変えるかもしれない構造をもった作品のこと。そんな裏切り映画を語り尽くす本連載。今月は、宍戸錠が殺し屋を演じたハードボイルド作品『殺しの烙印』です。

取材・文/渡辺麻紀 撮影/ツダヒロキ

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本作に出会わなければ、今の自分は 100%なかったと言い切れる 『殺しの烙印』


――ちょっと空いてしまいましたが、今回で5度目の連載です。押井さんが選んだ〝裏切り映画〟は、鈴木清順の『殺しの烙印』(67)。宍戸錠が主演した日活のアクション映画というかクライムドラマ……ヘンな映画でした!

今の若い人って清順、知っているのかな? 映画ファンなら大丈夫だろうけど、そうじゃないとかなり怪しいかもしれない。
私たちの世代にとって彼は、伝説的な監督のひとりだけどね。大学生のとき、オールナイトの特集上映で観たのが初めての清順体験だった。そうやって観た人は大体二種類に分けられるんだよ。ハマるヤツと、わけがわかんなくて怒るヤツ。私はハマって狂喜しちゃったタイプで10回どころか、何度観たかも憶えてないほど観まくった。

――押井さんが清順作品を観るの、大学時代が初めてというのはちょっと意外な気がしますが。

私は中高時代、ほとんど映画を観てないんだよ。中学時代 はSFにハマってSF小説ばかり読みふけっていたし、映画やTVも特撮ものやSF系が中心。高校に入学してからは学生運動が忙しかったんだけど、運動を抑え込まれてしまい、学校にも行きたくないというときにまた劇場通いを始めた。その ときハマっていたのはアートシ アターの映画。その流れで大学のときは映研に入り、清順に出会った。
私はやはり洋画の人で、高校時代には(ジャン=リュック・) ゴダールを観ていたからね。で、 大学の映研で「清順も観てないとは!」とボロクソに言われ、文芸坐に通うようになった。今村昌平、新藤兼人、篠田正浩、吉田喜重、大島渚等々、みんな文芸坐でお世話になった監督たち。 文芸坐のおかげで松竹ヌーベルバーグから清順まで全部網羅したわけ。

―― そういうなかでもっともハマったのが清順だったわけですね……で、押井さん、その清順の『殺しの烙印』のどこに裏切られたんですか?

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