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スカート、salami rose joe louis 、HAPPFAT&古川麦。聴いて、楽しみ、サポートする、Bandcampの魅力を伝える3曲【6月号音楽コラム】
文/松永良平
まつなが・りょうへい●音楽ライター。『ぼくの平成パンツ・ソックス・シューズ・ソングブック』(晶文社)が発売中。note→https://note.com/mrbq
Bandcampがまたおもしろくなってきてるという話は、すでに去年あたりから聞いていた。もともと設立は2007年と、音楽プラットフォームとしてはすでに古参の部類で、Apple MusicやSpotifyなどサブスクリプション・サーヴィスの台頭で、なんなら一時期影が薄くなっていた感すらあった。
しかし、あまりにも情報量が多すぎて埋もれてしまいがちな巨大プラットフォームと違い、アーティスト自身の活動をよりフォーカスして見せる作りと、音源販売時の還元率も含めダイレクトなフィードバックが好感され、あらためて一大マーケットとして世界的に見直されている。
なおかつ、BandcampのCEOであるイーサン・ダイアモンドは、新型コロナウィルスの影響でライヴ活動などが事実上不可能となった世界中のインディー・アーティストたちの生活維持を目標に、Bandcampを通じて販売する音源の利益100%をアーティストやレーベルに還元するという24時間限定のサービスを行った。
そして、そのインパクトは大きかった。
最初に行われたのが3月20日(北米時間)。さらにその成功を受けて、5月から7月にかけて毎月第一金曜日にサービスを実施すると発表(次回は7月3日に実施)。6月19日(金)の収益は、すべて黒人人種差別問題の解決に取り組むファンドに全額寄付されることが発表された。
もちろん、そうした動きをアクティブに行っていることも魅力的だが、ユーザーにとってさらに楽しめるのは、リンクの信頼性だろう。
YouTubeのアルゴリズムによって知らない世界に導かれるのもいいけれど、Bandcampのリンクには、もうちょっと親密にこっちを探ってくれる感覚がある。友達が教えてくれる音楽のありがたみを思い出すような匂いというか。
こういうことも、もしかしたらサブスク全盛の勢いを前に一度は音楽プラットフォームとしての最先端であることを降りかけたところから、もうちょっと真剣に「つながり」を考えたということもあるのかもしれない。
近年、日本のレーベルやアーティストも積極的にBandcampを再活用し始めている動きもあって、楽しい。聴き尽くすぞ、アーティストに貢献するぞ、みたいに気負う前に、まずは空いてる時間の楽しみでBandcampに触れて親しんでみてはいかがでしょうか。
では、最近ぼくが寝る前とか起き抜けにBandcampで聴いた音楽を紹介しておく。
スカート 「ラジオのように」(『在宅・月光密造の夜 Vol.3』収録)
まさに「ラジオのように」Bandcampを聴いている。〈在宅・月光密造の夜〉はコロナ禍により在宅を余儀なくされていたスカート澤部渡が自宅から映像配信で行なっているライヴ・レコーディング(今のところ全3回)。配信後に早速音源として販売されていて、購入特典としては演奏された全曲のコード譜がPDFでつくこと。シンプルで親しみやすいのにコードは鬼ほど変態的なスカートの世界を伝えるいちばんシンプルで伝わりやすい方法がこんなところにあったなんて。
salami rose joe louis 「 Octagonal Room」
カリフォルニア州サンディエゴ在住の宅録女子アーティスト。これまでもBandcampを通じて音源の発表やカセットテープ販売を行なってきた彼女は、まさにBandcamp世代そのものという存在。2019年のサード・アルバム『Zdenka 2080』は、なんとBrainfeederからのリリースで驚かされたが、内容は彼女らしいキラキラとした破片のような音楽で一貫していた。時代のほうが彼女に追いついたのだった。そして、Bandcamp経由でこのサードのカセット版が販売開始となったのはつい最近のこと。
HAPPFAT&古川麦 「 polū」
DJとして都内各所でプレイするHAPPFATと、ceroのサポートメンバーとして、自身もソロのシンガー・ソングライターとして活動している古川麦(ばく)のコラボ・シングルで、今月リリースされたばかり。2人が結びついたのはceroの橋本翼&HAPPFAT主催のDJパーティー〈SOM TAM CLUB〉での共演。もともと海洋的(瀬戸内海だったり、太平洋だったり)なサウンドに惹かれる2人の出会いが良い果実として実った。泳ぎに行けない今年の夏はこの曲を聴いて心のなかでクロールしよう(ウソです、本当は平泳ぎしかできない)。
古川麦のソロEP『each night, each morning』も同日リリース。こちらもぜひ。
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