宇宙を夢見た時代のデザインにあふれた書籍『スペースエイジ・インテリア』と『中銀カプセルスタイル』
今、全然ブームじゃないスペイシーなインテリアですが、そんな流行度外視なインテリア本が2冊、立て続けに出版。どちらも自分の思うがままの暮らしを貫く人たちの様子が伝わってくる楽しい本。そもそもスペースエイジって? というところから、宇宙的インテリア&建造物をテーマにした2冊をご紹介します!
取材・文/西村依莉
普通に人が生活しているとは思えない空間満載の『スペースエイジ・インテリア』。
ここ数年1990年代カルチャーのリバイバルブームですが、そもそも90年代って1960-70年代カルチャーのリバイバル期でもありました。90年代アイコンとして今紹介されているものには、1960-70年代が初出だったものが混ざってたりしてて、2000年前後に多感なハイティーン期を過ごした筆者からすると、流行は繰り返されるという言葉通りの現象を体感しているのが感慨深くもあり、そんな年数生きてきたんだと恐ろしくもあります。
今から20年ほど前に巻き起こったムーブメントのひとつに“レトロフューチャー”があります。1990年代中頃から、じわじわと1960-70年代カルチャーへ注目が集まり、映画のリバイバル上映や書籍の復刻、音楽の再発掘&リミックス、ファッションでもパッチワークデニムに厚底シューズを合わせるヒッピー風ファッションやネオネオMODSファッション、ギャルの神様・浜崎あゆみも60s風ファッションに身を包み、その流れでのクレージュやバービーのリバイバルetc…。2003年には1960年代ミニスカートブームのアイコン的モデル・ツィギーの来日もありました。
そんな中において、“レトロフューチャー”とは? ずばり“昔の人が考えた、未来”。1960-70年代というと、宇宙開発競争時代でもありました。当時は、そう遠くない将来、目覚ましい科学の発展とともに人類は宇宙旅行に出かけていると思い描かれていて、宇宙や未来的なエッセンスとして丸みを帯びた有機的なデザインがあらゆるところで取り入れられていました。そういった宇宙ブームが“スペースエイジ”です。最先端のファッションやプロダクトだけでなく、もっと日常的な安価な食器や、家電、街の建物などの市井のデザインにまで角アールや丸モチーフが使われていることからも、スペースエイジが単なるブームで終わったものではなかったのだと感じます。
オーディオ機器までこんな丸っこくてスペイシーなものが。
そんな時代にデザインされたスペイシーなデザインの家具と、それらを今、実際に使った人たちの家を紹介している書籍が今月発売したばかりの書籍『スペースエイジ・インテリア』です。
スペースエイジデザインな家具は、著名なデザイナーが手がけた名作家具を中心に掲載。ボールチェアやパントンチェアはTV番組やCMのセットでもよく使われているので、見かけたことがある人も多いはず。
近年のインテリアに多いナチュラル、断捨離などとは真逆な感じの色とものにあふれた刺激的なお部屋が11例載っているので、真似はなかなかできないと思いますが、イマジネーションが掻き立てられてとても楽しい内容になっています。もちろん、実例だけでなく、名作家具もたくさん掲載しております!
ブロス読者の中には、20年前のブーム期にこういった家具を集めていたり、雑誌でよく見かけて憧れていた〜という人も多いのではないでしょうか。スペースエイジな世界は、若い世代にはどんな風に見えるのか、気になるところです。
ところで『スペースエイジ・インテリア』には、建物そのものがスペースエイジだよ、というコーナーもあります。そこで紹介しているのがTV Bros.編集部からも程近い銀座と汐留と築地の間あたり、とにかく都内一等地にある「中銀タワーカプセルビル」。
丸い窓のついた四角いブロックが積み重なっているそのビルは、一目見ればピンとくる人も多いと思います。そう、首都高を走っていたら目にしたことがある(人はきっとわかるはず)あの建物です。
ひとつの四角い箱(カプセル)がひと部屋なので、個室はとても狭いのですが、このビルには今も実際に暮らしている人がいます。住んでいる人もいれば、オフィス使いしている人、セカンドハウスとして週末住宅にしている人と様々ですが、そういった20人のカプセルの様子をレポートした書籍『中銀カプセルスタイル』も年末に発売したばかり。同じ形、同じ広さの空間の20通りのアレンジを見ることができます。
この中銀カプセルタワーとは、1972年に建築家・黒川紀章が手がけたメタボリズム(新陳代謝)建築の代表作。メタボリズムというだけに、カプセルが古くなったら交換することを前提に設計されているのですが、50年近く経った今もまだ、交換されたことは一度もありません。なので、すごく前衛的で近未来的なデザインなのにボロボロというデストピア感がたまらない! という見方をするファンも。日本国内でよりも海外からの評価が高いという理由のひとつかもしれません。
昨年末、このビルが97億円で販売中とSNSで話題にもなりましたが、これははっきり言ってガセネタ。地主が売りに出していたわけではなく、その金額を出してもいいよ、という人が現れたら不動産会社がビルの持ち主に交渉しますよ、ということだったので、販売しているわけではありません。
各カプセルごとにオーナーがいるこのビルは、なかなか連絡がつかない所有者がいたこともあり、カプセルの交換や補修がうまくいかず、未来的廃墟化待ったなしという状況でした。が、しかし新型コロナウィルスの影響もあり、そしてすべての所有者と連絡を取ることができ、少し状況が変わって来たのです。
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