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裏切られた映画たち(仮)【2023年9月号 押井守連載 #2『白馬城の花嫁』】
押井さんの連載のタイトルにもなっている“裏切られた映画たち”とは、どんでん返しなどではなく、映画に対する価値観すら変えるかもしれない構造をもった作品のこと。そんな「裏切り映画」を語りつくす2回目のラインナップは、美空ひばり主演作の『白馬城の花嫁』。さあ、語って頂きましょう!
なお、この記事は『TV Bros.』本誌10月号(発売中)でも読むことができます。
取材・文/渡辺麻紀
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『押井守の人生のツボ 2.0』
著者 押井守
構成・文 渡辺麻紀
発行:東京ニュース通信社 発売:講談社
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映画にはアンハッピーエンドもあるということを、初めて突き付けられた『白馬城の花嫁』
――さて、押井さんが美空ひばりというのも意外ですね。
そうだろうけど、当時、つまり10歳くらいの私は父親か母親、どちらかと一緒に劇場に行く場合がほとんどで、選ぶのはふたりなんですよ。それに当時は、今のようなレイティングはないから、子どもでも刺激的な映画を観ていた――『鹿島灘の女』(59)とかさ。いわゆる痴情のもつれ映画だからね。さすがに、私を連れて行った母親は「守には早すぎたかな」って言っていたけどさ(笑)。
そういう環境のなかで観た1本が美空ひばりのミュージカル風時代劇『白馬城の花嫁』(61)。私が「裏切られた」と感じた最初の映画でもある。麻紀さん、観たんだよね? どうだった?
――美空ひばりの映画は初めてでしたが、総天然色の色がきれいで、セットが豪華なのに驚きました。物語的には、白馬城のお殿様が自分を迎えに来てくれるに違いないと信じているみなしごの機織り娘の冒険譚ですよね。途中にミュージカルシーンや、彼女の夢らしきお姫様シーンが挿入されて明るい印象なんですが、ラストはたしかにびっくりでした。
ラスト、荒廃したお城にびっくりだったでしょ? それは強烈に憶えている。確か、ひばりが病気か何かで亡くなり、殿様と偽っていたチンピラが彼女の憧れていた白馬城に行ってみると荒廃しきっていた。すべては彼女の妄想だったんだということを知ったチンピラはそこで泣き崩れるというストーリー。それが65年間、ずっと頭に残っていた。そのとき以来、観直していないから。
――押井さん、ちょっと創作が入ってますね。正しいラストは、岡っ引きに、ひばりが殿様と信じていた鶴田浩二扮する殿様小僧というチンピラが城で待っていると言われて会いに行く。すると城は荒廃しきっていて、ひばりは大ショック。そこに殿様小僧が現れて、ふたりは泣きながら抱き合う。場面が変わって機織りするひばりに彼女の声がかぶり「私の殿さまの帰りを待っている」って。
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