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YOASOBI、Mrs. GREEN APPLE、[Alexandros]。「終わりの始まり」を強く感じた3曲

未曾有のパンデミックによって急速に世界が変容していく中、当たり前のようにアーティストのあり方、表現にも大きな変化が訪れている。ということで、個人的に強く「終わりの始まり」を感じた楽曲3曲をご紹介します。

文/小松香里

こまつ・かおり●編集者/ライター。2019年8月、ロッキング・オンから独立。音楽・映画・アート関連の記事を中心に幅広く携わる。

まずは、YOASOBI「夜に駆ける」

2019年11月にYOASOBIのファーストシングルとしてリリースされた「夜に駆ける」はTikTokを基点にジワジワと広がり、約半年後の2020年6月にBillboard JAPAN 総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”で3週連続総合首位を獲得するという快挙を達成した。
そもそもYOASOBIはソニー・ミュージックエンタテインメントが運営する物語投稿サイト「monogatary.com」において、「小説を楽曲化するアーティスト」というコンセプトのもと生まれたユニットで、ボカロPとして活躍していたAyaseと本名の幾田りら名義でシンガーソングライターとして活動していたikuraのふたりからなる。Ayaseが作るネットライクな美しくセンチメンタルなメロディと軽快さを宿したトラックとikuraの透明感のある安定した歌の魅力のみならず、「ボカロP」「ボーカリスト」「ユーザー参加型の小説を原作にした楽曲」「アニメーションによるMV」といった、広がりのあるハッシュタグ的な要素が複数ちりばめられており、強い拡散力があったこともヒットの要因にあげられる。ユニット自体の成り立ちが今の時代にとても有効な新しさを持ちつつ、そしてAyaseの代表曲「ラストリゾート」と同じテーマを内包した「夜に駆ける」が描く物語にも、時代の終わりと始まりを強く感じる。


次はMrs. GREEN APPLE「Theater」

この曲はバンドのデビュー5周年記念日である7月8日にリリースされたベストアルバム『5』に収録された3曲もの新曲のうちの1曲で、発売日当日にミュージックビデオが公開された。そこにはミセスのメジャーデビューからの5年間の貴重な映像が凝縮されていて、すべてがキラキラと輝く名シーンばかりで、これまでの膨大な出会いへの感謝の気持ちに溢れている。
初のベストアルバムをもってミセスは活動休止と事務所独立と新プロジェクトの始動を発表したわけだが、「Theater」のコーラスクレジットには、メンバーが結成当初の2013年からずっと所属していた事務所・テアトルアカデミーのマネージャー等とともに、鈴木福、鈴木夢、神崎風花(sora tob sakana)といったテアトルアカデミー所属の俳優/アーティストの名前も載っている。それを考えると、曲名の「Theater」をフランス語及びイギリス英語にすると「theatre」=テアトル、つまりこれまで苦楽をともにしてきた事務所との別れの気持ちも詰まった曲であると思える。
「電車に揺られて/憧れ焦がれて/少年はただ広がる夢を見た」という歌い出しの歌詞には、ミュージシャンとしてやっていくことを夢見て中学生の時にテアトルアカデミーのオーディションに応募し、足しげくレッスンに通っていたバンドの創始者・大森元貴(Vo・G)の姿が浮かぶし、「いつか近い将来で/人は温もりと共に歌うんだ」というサビの歌詞は、パワーアップするための活動休止を経たミセスの未来を指し示しているようだ。ひとつのフェーズを自ら終わらせ、新たな始まりへと歩を進めたMrs. GREEN APPLEのアティチュードを象徴する1曲と言えよう。


最後は、[Alexandros]「rooftop」

コロナ禍において、多くのアーティストはあらゆる活動のストップを余儀なくされた。デビュー10周年を迎えた[Alexandros]も例に漏れず、ライブや制作活動を中止せざるを得なかったわけだが、その自粛期間中に8曲入りのリモートアルバム『Bedroom Joule』を作り上げてしまった。「Starrrrrrr」や「Run Away」といった人気曲に、この巨大な苦難の中、少しでもリラックスして聴いてもらえるようなチルなアレンジを1から施した曲が収められていて、「rooftop」は『Bedroom Joule』唯一の新曲だ。
活動が制限される中、ポジティブで大胆なアクションを起こすという動きには、これまでも多くの困難とぶつかっても決して止まらず、むしろスピードを加速させるようにして高みを目指してきた[Alexandros]のバイタリティが明確に表れている。そして、「rooftop」という新曲自体、今はリモートでしか繋がることのできない恋人同士のもどかしさや愛おしさが滲む情景をしっとりと描いた新たな名ラブソングでありながら、ライブという生のコミュニケーションの場が失われてしまったことへの喪失感も描かれている。「また会えたら これ以上にない景色を」という切実な願いをこめた歌詞に再会への気持ちが募り、この「rooftop」がアルバムの最後に響くことによって直接会うことへの尊さがより高まる。ひとつの段階の終わりと始まりを強く予感させられた楽曲だ。


それぞれのスタイル、存在感、メッセージを鮮烈に印象付けながらも、多くの人々を新たな季節に導く──そんな3曲だと思う。

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