人見知りにはネクストステージがある【連載 久保みねヒャダこじらせブロス】
「なにも気にしてない」と自分に言い聞かせるのは、つまり気にしているから
久保 今日ここに来るときに、カーラジオでかかってた曲があって。ラップ系で誰が歌ってるかわからなかったんですけど、サビをずっと繰り返して歌ってて。それが
I don't care なにも気にしてない
I don't care なにも気にしてない
I don't care なにも気にしてない
I don't care なにも気にしてない
というやつで、「いや気にしろよ!」ってマネージャーと一緒にツッコんでた(笑)。2回繰り返す時点ですごいなと思ったんだけど、まだ続くのかと思って。
ヒャダ 絶対気にしてますよね。
久保 こういうラップは若いうちに共感するものであって、40過ぎて共感しちゃいけないなって。確か、「最初にやったライブが客0人だったから全部自分のために歌った」みたいな内容だったと思う。
能町 それを「気にしてない」ってこと?
ヒャダ それは気にしようよ。
能町 (スマホで検索して)これじゃないですか? MCリトルの「I don’t care.」。
久保 あ、たぶんそれだ。
能町 札幌在住の19歳ラッパーらしいです。YouTubeに曲あるよ。聞いてみましょう。
久保 やっぱ若かったんだ。
能町 めっちゃ気にしてるじゃん。
久保 めっちゃ気にしてる。1、2、3、4、5、6、7回、8回言ってる。4回目くらいで気にしてほしい。でも歌詞が真っすぐすぎて、ちょっと心に残った。ディティールがちゃんと自分に根付いてるし。
能町 MCリトル、久保さんの好きな「ニートtokyo」に出てますよ。「忘れられない喧嘩」というテーマで語ってますけど、聞きます?
久保 マジで? 聞きたい。
能町 かわいい話。終わりです。
久保 とげとげの木って(笑)。
能町 かわいすぎる。
久保 とげとげの木はヤバい。ちょっと好きになってきた。他のラッパーみたいなケンカしてないのがいいよね。他はみんなすごいケンカしてるから。
能町 15歳から活動してますよ。
久保 15歳の頃に客が誰もいなくて、自分のために歌ったと。40過ぎてそれだったら、もうそれはきついけど、15の体験としては最高じゃないかな。
久保 (にわかにラップ調になり)ラジオからMCリトルの歌を聴いて、私の心に入り込んで今、ここでみんなにも伝わった。
能町 久保さんがもう紡いでる。
久保 紡ぐ。やはり紡ぐリトルの気持ち、俺、紡ぐ。弁当まだ食う。
ヒャダ めちゃめちゃスラスラ出るじゃないですか(笑)。
能町 久保さんがラッパーになってきた(笑)。
自分を守ったまま終わりを迎えられるか?
*この日は同じ会場で、こじらせライブの前の時間帯に「ガチャピン・ムック スプリングコンサート」が開催。取材中、ステージを終えたガチャピンとムックが舞台裏に戻ってきて取材は一時中断、全員それを見物に行く一コマがあり(結局見えなかった)、おそらくそのイメージが頭にありつつ取材を再開したため、次の話が出てきたと思われる。
能町 デーモン閣下が昔、オールナイトニッポンやってたじゃないですか。誰かが言ってたんだけど、昔はラジオのためにわざわざ塗……じゃなかった、「悪魔」の姿にならずに来てたらしいんです。「世を忍ぶ仮の姿」にサングラスをかける程度で。でもだんだん閣下の中で、そこのベールを分厚めにしたくなってきたっぽくて、そのうちラジオ局に来るときも「世を忍ぶ仮の姿」をまったく見せないようになったって。
ヒャダ すごいですね。徹底してますね。
能町 そこは徹底するんだって。
ヒャダ VTuberみたいなアプローチですね。
能町 でもジャガーさんで、いい例ができたなと思いましたね。ああいうふうに終わることができるんだなって。お星様に帰ったんでしたっけ?
ヒャダ ジャガー星に帰ったんですよね。
能町 ちゃんと「ジャガー星に帰った」で終わらせることができるんだと思って。
久保 こんなこと言っちゃあれだけど、「亡くなったときにどういう報道をされるのか」の準備って、みんなどう考えてるんだろう。
能町 どうなんだろう。考えてるんですかね?
ヒャダ でもちゃんと準備しておかないと、ニュースでめちゃめちゃ現実的に報道されるんじゃないですか。「デーモン閣下こと小暮●●さん」みたいな。
久保 しかも年齢まで言われて。やだやだやだ。
ヒャダ 「胃がんで亡くなりました。76歳でした」。
能町 うわー、それやだな。
ヒャダ 「デーモン閣下こと小暮●●さんは、人気バンド・聖飢魔IIのボーカルとして知られ……」。
久保・能町 やだやだやだやだ!
──でもデーモン閣下は、綿密な指示書を準備してそうな気がしますけど。
ヒャダ そうですね。法的に有効なやつを。
能町 そうですよね。今までも結構ちゃんとしてきましたもんね。
ヒャダ 比べるのもなんですけど、DJ KOOさんは「DJ KOO」であることを隠すつもりが全くないんですよね。新しい形だなと思います。
能町 普段もあれで歩いてるんですもんね。普通にお子さんもいるし。PTAの集まりにもあのまんま行ってそうですよね。
久保 それをやっても、すり減らないんでしょうね。
ヒャダ それが自分らしくいられる方法なのかもしれないですね。
久保 私、ほんとに「人の記憶に残りたくない」ってずっと思ってるんですけど、犬の散歩で日常的に出歩くようになって、「あいさつしてもこんなに無視されるんだ」って気付いて。DJ KOOさんみたいな目立つ人たちとは、真逆の生き方をしてる。能町さんも比較的派手目だから、声を掛けられたりするんじゃないですか?
能町 ごくたまに声を掛けられたりはします。でもワーッとたくさん人が寄ってくるような知名度でもキャラクターでもないから。1人がぽつっと声掛けてきて、それで終わり。
無視されてもあいさつを続ける理由
──さっきの久保さんの話ですけど、あいさつして無視されることがたびたびあるんですよね? へこたれて、「もうあいさつするの止めよう」と思うときはないんですか?
久保 そこはいろいろあって。めちゃくちゃへこむときもあるんですよ。でもかなり至近距離でお互いに犬を散歩させてるわけだから、「犬同士が仲良くするきっかけを飼い主が人見知りをして減らしちゃいけない」という気持ちであいさつしてます。
ヒャダ すごい親心!
久保 それをきっかけに、今後また会った時に(犬同士が)たくさん仲良くしてもらえたら……みたいな気持ちで私はあいさつをしてるんで。めっちゃ至近距離、1メートルの距離であいさつを無視されるときもあって、「ダイレクト無視、これはつらい……」となるんですけど、こっちは勝手にあいさつしたいからしてるので、もう空気、(犬の)影武者みたいに思われてるんだって受け止めてます。「あいさつされないからひどい」じゃなく、「あいさつしたいからしてる人間の一方的な傷付きだから」というふうに。
能町 でも向こうも犬連れてて、あいさつを無視することがあるって、ちょっとすごいですね。
久保 でも「マスクをしてるから口が動いてるかよく分からない」というのも、あるのかもしれない。こっちもそこまでハキハキ言ってるわけでもないし。
能町 「瞬間すぎて分からなかった」とかもあるのかな。
久保 「自分はあいさつされないだろう」と思って歩いてて、あいさつされても「他の人にしてるんじゃないかな」みたいなのとか。
能町 「自分へのあいさつじゃない」と思ってることはありますよね。
ヒャダ ありますよね。間違ってたら恥ずかしいし。
久保 でも自分がうまく返せないときもあるんですよ。公園で毎朝集まってる飼い主のグループがあって、それはすでにできあがってるグループだから、ちょっとあいさつには行けなくて。中には大きな声で犬をしつけてる人がいて、私そういう人は苦手なので、あまり近づかないようにしてたんですね。でもこないだ、遠くから「お茶あるよー」って声が私に向かって聞こえたんですよ。
能町・ヒャダ おおー。
久保 「え、私にしたの?」と思ったけど、近付きづらくて、思いっきり無視してすたすたすたと通り過ぎたことがあって。まあそのときの罪悪感たるや……。
ヒャダ それは罪悪感ありますよね。
久保 でもその後で「毎朝行く公園で気まずくなったらどうしよう」という気持ちも出てきて。飼い主の事情を犬に背負わせたくないわけだよ。ただでさえ家で飼い主と2人っきりなのに。だから私の中で、あいさつは「子供のためにどうするか」という問題に今はなってる。
共生のための強制、必要なのでは?
久保 若い頃の人見知りって「自分は陰キャだから」とか、「自分から声掛けられない」とかだと思うけど、大人になってからの人見知りって、「いったんそこで仲良くなってヤバい人だったら切りづらいから」というのもあると思うんですよ。それなら最初から人見知りのフリをして、ちょっと付き合いを制限しよう……というほうにシフトしちゃったなって思います。
──いったん知り合いになって距離が詰まってしまうと、後で「おや?この人……」と思っても距離を取りづらい問題、確かにありますね。
久保 それは若いときの人見知りと違う、人生経験の蓄積から来るものなんですよね。
能町 仕事で会った人との距離の取り方、すごく難しいですよね。結局、仲良くなれるかどうかなんて、何回も会ってるうちにだんだん距離が詰まっていくものじゃないですか。1回会っただけでガンガン距離詰めてくる人って、ちょっとどうしたらいいかわからないんですよ。仲良くなってないのに、LINEで個人宛に「今度こういうイベントやるので是非」みたいなメッセージもらっても返答に困るし、そうしているうちにまたメッセージがどんどん来るから、既読無視が溜まっていくという。
ヒャダ 僕は心の中でそういう人を「マルチ野郎」と呼んでいます。「マルチ野郎だから既読無視が当然、僕は悪くない」と思うようにすれば、心が痛まないです。だってそういう人は絶対、マルチみたいにいろんな人に五月雨式に送ってるんですよ。
能町 たぶんそうですね。何十通と送ってるんでしょうね。
久保 人見知りはネクストステージが何段階もあるなと思わされるね。また10年くらいしたら違うステージが来るんだろうか。
能町 60、70になってもやっぱり人見知りするんですかね? いや、するんですよね。きっと。
ヒャダ よく独身の人が、「このまま1人でいて孤独死は嫌だから、みんなで老人ホーム建てようよ」とか言うじゃないですか。
久保 おおお、それはやだ。
能町 絶対何か起こるよ。
久保 私、相手が嫌というよりも、自分が他人に合わせなきゃいけないっていうのが駄目なんですよ。自分のチューニングを相手に合わせなきゃいけないのが日常の脅迫になるのがつらい。
ヒャダ まさしく。40代ですらしんどいのに、もうろくした70代とか80代で、そのチューニングができるわけがないじゃないですか。だからそういうこと考えてる人は、今からトレーニングしとかなきゃいけないのかもしれないです、強制的に。共生のための強制。
能町 何の準備もしないままだと、きっとケンカになりますよ。
久保 だから今、誰かと同居できてるのは素晴らしい経験だよ、能町さん。
ヒャダ ほんとにそう思いますよ。
能町 まあ、そうですね。チューニング合わせてる感覚、あんまりないですけどね。
ヒャダ でも絶対孤独死じゃないじゃないですか。
能町 今のところは。
久保 洗脳しない人と同居できるって素晴らしいことですよ。
ヒャダ だいたい洗脳じゃないですか。同棲とは洗脳である。
能町 でもたまに文句を言いたいときはどうしようかなって思います。難しいですね。
久保 それは難しいよね。毎日ケンカしてる夫婦の話とか聞くと、「そこまでして一緒にいるものかな」って思っちゃう。
ヒャダ ケンカするとか、怒るって、すごく嫌じゃないですか。暗くなるし、イライラするし、カッカするし。そういうのを毎日やってたら、早死にしますよ。
能町 早死にした人いるわ。
ヒャダ 身近にいます?
能町 昔バイトしてた出版社があるんですけど、すごく小さい零細出版社で、社長と経理のおばちゃんと、後は2〜3人しか社員がいないんです。で、社長とおばちゃんが毎日怒鳴り合ってるんですよ。夫婦じゃないけど、30~40年一緒にやってるのに毎日怒鳴り合ってる。で、その社長は確かに早死にしました。怒鳴ってるとストレスなさそうにも思えるけど、早死にするんですね。
久保 「怒りのエアロゾル」みたいなの、たぶんあるんだよ。
能町 溜まってたのかなー。
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