菅田将暉、北村匠海、三浦春馬に見る。演技だけでなく歌でも魅了! “歌う俳優”3人のすごさ
文/片貝久美子
かたがい・くみこ●おもに音楽やカルチャー、エンターテインメント全般を得意とするライター・エディター。
最近音楽番組を観ていて、ふと気付いたことがある。
それは、“歌う俳優”が多いということ。歌う俳優とは少々大雑把なくくりだが、少なくとも筆者の中で俳優だと思っていた人が、ごく自然にアーティストとして音楽番組で歌を披露することが以前より増えたように感じるのだ。
もちろん、俳優が歌うことはこれまでにもあった。なかでもトレンディドラマ全盛期の1980〜1990年代は、主演俳優が主題歌で歌手デビューといったことも多かったように思う。当時のそんな状況に対して、まだ社会にも出ていない未熟な私は「あ〜あ。また俳優が歌出してるよ……」と、やや斜に構えた目線で見ていた(それでもいまだに口ずさめる歌が多いのだから、それはそれですごい)。
それがどうだろう。近年の“歌う俳優”たちに対して、そんな感情は微塵もない。それどころか、「演技に加えて歌も歌えるなんて多才!」と思うのだから、人の心(正確には自分の心)というのは不思議なものだ。
そんなふうに感じ方が変わったのにはいくつか思い当たる理由があるのだが、そこは個人的かつ長くなりそうなので割愛し、ここでは今こそその声を聴きたい俳優3人を紹介したいと思う。
菅田将暉
映画『何者』(2016年)や『キセキ –あの日のソビト–』(2017年)でバンドマン役を演じ、その歌声を披露していた菅田将暉。2017年にシングル「見たこともない景色」でデビューした後、現在までに2枚のアルバムに加え、シングル4作、配信限定曲3作(「見たこともない景色」を除く)のほか、2度の全国ツアーを成功させるなど活躍を見せている。
そんな菅田の音楽活動において見逃せないのが、さまざまなアーティストが楽曲提供を行っていること。米津玄師(「まちがいさがし」ほか)や石崎ひゅーい(「さよならエレジー」ほか)、あいみょん(「キスだけで feat. あいみょん」)、ドレスコーズの志磨遼平(「りびんぐでっど」)など、ちょっと書き出しただけでも豪華な顔ぶれだ。最近では自身の作詞作曲による楽曲も増えているが、それだけ「菅田将暉と一緒に音楽を作りたい」「菅田将暉にこの曲を歌ってほしい」と思うアーティストが多いという証拠だろう。
そんなふうに多くのアーティストが彼に惹き付けられるのと同様、私たちリスナーも彼の声、そして表現する力に惹き付けられる。例えば、彼が楽曲によってまったく異なる表情を見せるのは、さすが! のひとこと。とはいえ、一見何でもこなせる器用さがありそうに思えつつ、その愚直なまでに真っ直ぐな歌声や、自らが紡いだ歌詞からは、不器用な一面も感じさせる。そういったある種の“人間臭さ”みたいなものが、俳優として役を演じているとき以上に際立つのが、アーティスト・菅田将暉の魅力ではないだろうか。
今年は7月1日にCreepy Nutsとのコラボ曲「サントラ」を配信限定でリリースしたのに続き、同月17日には自身が主演を務める映画『糸』の応援ソングとして、中島みゆきの楽曲「糸」のカバーを石崎ひゅーいと共に発表するなど、精力的な音楽活動を繰り広げている菅田。
さらに8月7日にはOKAMOTO’Sとのコラボ曲「Keep On Running」が配信にてリリースされる。こちらはすでに菅田とOKAMOTO’Sが出演するトヨタ自動車 カローラツーリングの新CMでも流れており、リラックスした曲調と、何やら楽しそうな雰囲気に惹き付けられたという人も多いのでは? 今年は新型コロナウイルスの影響で日本中、いや世界中が疲弊している。そんなときに「この曲でリラックスしてよ」と語りかけるような楽曲を世に送り出すのもまた、菅田将暉の人間力が為せることなのかもしれない。
北村匠海
続いて紹介したいのが、2017年に公開された浜辺美波とのW主演映画『君の膵臓をたべたい』で、第41回日本アカデミー賞 新人俳優賞を受賞して以降、俳優として話題作への出演が続く北村匠海。2011年よりダンスロックバンド・DISH//のメンバー(北村はメインボーカルとギターを担当)として音楽活動も始めていたが、その美声が広く知られることになったきっかけは、一発録りのパフォーマンスを切り取るYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』で、北村が歌う「猫 〜THE FIRST TAKE ver.〜」が公開されたことだった。その後、6月5日に『ミュージックステーション』(テレビ朝日)に北村が単独出演、歌唱のラストで歌詞を飛ばしてしまったことも注目を集める結果となり、『THE FIRST TAKE』の映像は、3月20日の公開から約4カ月半が経った8月4日時点で3600万回を超える再生回数となっている。
彼が10代の頃からたびたび取材している者として思うのは、北村にとって音楽は、自分が自分であるために必要不可欠なものであるということ。というのも、俳優としての彼は、その演技力の高さからこれまで内向的なキャラクターの役を演じることが多かった。感情を表現するにしても、喜怒哀楽でいうところの「怒」と「哀」。けれども人間には本来「喜」も「楽」もあって当然で、その2つを享受できるのが、彼にとっては音楽なのではないかと思う。事実、音楽の話をするとき、DISH//としてステージに立つときの北村は、スクリーンの中とはまた違った輝きを見せる。
そして、おそらく今回の「猫 〜THE FIRST TAKE ver.〜」が大きな話題を呼んだことは、北村にとってターニングポイントの一つになったはず。その片鱗は8月12日に配信リリースされるDISH//の新曲「僕らが強く。」のMVティザー映像からも伝わってくるが、その全貌が明らかになるまで、「猫 〜THE FIRST TAKE ver.〜」で北村の美声(と顔面の美も!)を堪能しておいてほしい。
三浦春馬
7月18日、そのニュースは私たちを驚かせ、そして深い悲しみに包んだ。事実をうまく受け止められず、気持ちが落ち込むことに抗えないでいたところに、このMVが目に飛び込んできた。
三浦春馬の新曲「Night Diver」。
衝撃だった。美しくて、はかなくて、それでいて力強くて。とんでもないものを観た気持ちになった。
三浦が歌手デビューを果たしたのは2019年8月7日にリリースされたシングル「Fight for your heart」でのこと。とはいえ、2016年のミュージカル『キンキーブーツ』上演時には、本作の音楽・作詞を手掛けたシンディ・ローパーの専属トレーナーに指導を受けた経験もあり、その歌唱力の高さは歌手デビューする前から評判を呼んでいた。
ただ、先の2人と違うのは、菅田や北村が音楽で役とは異なる自分自身を解放しているのに対し、三浦の場合は音楽においても“表現者”であったということだろう。もちろん、どちらがいい/悪いという話ではない。私がこの「Night Diver」のMVを観て思ったのは、この曲のサウンドと歌詞が織りなす世界を、歌声のみならず、踏み込むステップ、伸ばした指先、カメラに向ける目線や表情、そのどれをとっても他に正解はないと思えるほど完璧な表現だったということだ。そして、今これをできるのは三浦春馬しかいないな、とも。
そう、彼はこんなにも素晴らしい作品を遺してくれたのだ。同じ時代に生き、彼が全身全霊で取り組んだ作品をこの目で見られることに感謝したい。
それが過去の作品であっても、すでに目にし、耳にした作品であっても、自分自身の成長とともにきっと新しい発見があるはずだ。
今月26日には、タイトル曲を含む全3曲が収録された2ndシングル「Night Diver」がリリースされる。そこには三浦が作詞・作曲を手掛けた楽曲「You & I」も入っているそうだ。
私たちはまだ、そして生きている限りずっと、新しい三浦春馬に出会うことができる。
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