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大根仁が語る、『エルピス』のキーパーソン・村井と俳優・岡部たかし【大根仁 連載 12月号】

今回は大根仁さんの連載コラムをお休みし、特別編としてドラマ『エルピスー希望、あるいは災いー』(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜午後10時)についてのインタビューをお送りします。トピックの中心は、ストーリーが佳境に入るにつれ、どんどん存在感が増しているキャラクター・村井。先日放送された9話でも鮮烈な印象を残した村井と、村井を演じる岡部たかしさんについて、『エルピス』の演出を務める大根さんにお聞きしました。12月26日(月)放送の最終回に備えて、ぜひお読みください。(聞き手/前田隆弘)
『エルピス―希望、あるいは災い―』最終回あらすじ【TVガイドWeb】

なぜ渡辺あやは大根仁を指名したのか?

●今日は『エルピス』の中でも、特に村井(岡部たかし)についてお話を伺いたいと思います。メインキャストではないのに、回を追うごとに存在感が高まっている人物なので。

スタートした当初は嫌なセクハラ・パワハラ上司だったけど、どんどん実像が見えてきて、かなりのキーパーソンになってきた……みたいなことですよね。この役は言ってしまえば“おいしい役”なので、前半でどれだけ露悪的に描いたとしても大丈夫だろうとは思っていました。


6話あたりから彼の実像が見えてきて、Twitterでも“#村井さん”がトレンド入りしてましたよね。最初に脚本を読んだとき、村井というキャラクターは自分と年齢が近いし、僕のいた場所は(かつて村井が所属していた)報道部とは違うけれど、バブル期にこの業界に入って、その臭いをなんとなくは体験しているわけですよね。バブルというのは“調子に乗っていた時代”という以外に、“業界全体が元気だった”という側面もある。そういった“テレビ業界に勢いがあった時代”を知っているというのもあるし。当時の自分自身の位置は、岸本拓朗だったかもしれないけど、現状の自分に一番近いのはやっぱり村井なので、やはり僕も感情移入しやすいキャラクターだったんですよね。

最初にこのドラマの話をいただいたとき、佐野さん(佐野亜裕美プロデューサー)が事務所に来てくださって。渡辺あやさんの脚本で長澤まさみちゃん主演で、というところはもう決まっていて、出来上がっていた脚本をその日に読んだんです。その時点では8話完結で、のちに10話になったんですけど、いまドラマで描かれている最終回に至るまでの要素はすべて入っていて、まずは「めちゃくちゃ面白い!」と思いました。それで「このドラマは絶対やろう」と思って、まさみちゃんとあやさんに連絡したんです。


まさみちゃんは映画『モテキ』以来、一緒に仕事をしてなくて。『モテキ』は僕にとっても彼女にとっても転機になった作品ですけど、「次、一緒に何かやろう」という話はずっとなかったんですね。あの映画は森山未來と長澤まさみのダブル主演のような作品で、矜持というほどではないですが、僕は主役に関しては「やる以上は彼・彼女の代表作にするぞ」という気持ちが常にあるわけです。でも役者にとって代表作となる作品って、生涯にそう何本もあるわけじゃないですよね。

だから「同じ主演俳優を別の作品で」というのは、僕にとって難しいことなんです。どうしても前の仕事と比べられてしまうから。ぶっちゃけて言えば、「『モテキ』における長澤まさみの魅力の引き出し方を、自分は次の作品でもできるのか?」という葛藤があって、それで仕事をしてなかったんです。でも今回は自分に話が来た時点で、彼女のキャスティングが決まっていたので、改めてまさみちゃんに「俺だけどいい?」と連絡して。「もちろんやりたいです。大根さんがやってくれるならうれしい」と返事が来て、まずそこはクリアできた。


それからすぐ、あやさんにも電話しました。佐野さんからお話をいただいたとき、あやさんが僕の名前を挙げてくださったと聞いたので、まずは「ぜひやりたいと思っています」という話をして。ただ、これまで僕は社会派・事件系の作品はほとんどやっていなかったので、若干のハードルの高さを感じていて。それで「この題材、僕で大丈夫ですかね? なぜ僕を指名してくれたんですか?」と聞いたんです。理由はいくつかあったんですけど、印象的だったのが「だって大根さん、おじさんをかわいく撮れるじゃん」ということでした。おじさんをかわいく撮った記憶って、自分の中ではないんだけど(笑)。

でもその言葉の真意を考えたとき、『エルピス』には何人かのおじさんが出てきますけど、おそらく「村井を頼みますよ」ということだったんじゃないか、と思ったんです。たぶん村井はあやさんにとってかなり思い入れのあるキャラクターだと思いますし、後半の物語が展開していく上でのキーパーソンが村井なんですよね。というか、1話から見ると、何か物事が動くときの起点が常に村井になっている。

1話で恵那と拓朗の「冤罪事件を扱いたい」という提案に対して、パワハラに近い否定をするのが村井。そこで逆に恵那のスイッチが入ったわけですよね。3話で恵那が独断で冤罪事件のVTRを放送したとき、それを途中で止めずに最後まで流すという決断をしたのも村井。6話で拓朗が決定的な証言VTRを撮って、それを報道に渡さずに「フライデーボンボン」でやると決めたのも村井。

先日放送された9話だと、村井が「NEWS 8」のセットをぶっ壊したのを見て、事件に対してやや諦め気味だった恵那に、またスイッチが入るかどうか……というところで、村井が最終回への推進力になっている。トータルで見ると、ポイントポイントで村井が重要な役割を果たしているわけです。

パーソナリティについても、品性下劣・パワハラ・セクハラ上等みたいなところもありつつ、仕事に関しては1本筋が通っている。それでいて、妙に人間臭いところもある。そういう多面性を持ったキャラクターなので、「その村井を頼みますよ」と、あやさんは言われたのだと思います。


「この役は岡部さんの代表作になります。その覚悟でやってください」

●物語のキーパーソンであり、キャラクターとしても多面性がある村井だけに、岡部たかしさんをキャスティングすると決めたことには、かなり強い動機があったわけですか?

最初の段階では、まさみちゃんと鈴木亮平以外はまだ決まってなくて。なので、脚本を読むときには、なんとなく「脳内キャスティング」をイメージして読むんですね。で、僕は最初、村井を岩谷健司のイメージで読んでいたんです。『エルピス』の話をいただく前に、『共演NG』というドラマをやっていて、同じく業界ドラマだったんですけど、そのプロデューサー役を岩谷さんがやっていて。「プロデューサー役で2連投というのはないかな」と思いつつ、放送局も違うし、話も違うし、何よりプロデューサー役というところで、岩谷さんがイメージしやすかったんですよ。

拓朗の役はまだ決定していなかったんですけど、きっと若手でシュッとして、いわゆるイケメン枠だけど、ちょっとクセのある俳優が来るだろうと予想していて。僕はキャスティングをフォルムのバランスで考えるんですけど……メインキャストは(予想も含めて)シュッとした3人じゃないですか。そうなると村井役は、長年の怠惰な生活と業界のいろんな膿が溜まっている、だらしない体型の人、いびつなフォルムの人が合うだろうとイメージしたんです。

岩谷さんはそこまでいびつな体型じゃないですけど、意外といかついし、「ちょっとハゲてて太ったおじさん」というところが自分の中ではしっくりきたというか。『共演NG』のプロデューサー役は、村井とは真逆のキャラクターだったけど、岩谷さんが村井のような引き出しも持っていることは知っていたので、僕の脳内では岩谷さんをイメージして脚本を読んでいたんです。

そのうちにキャスティング会議が始まるんですけど、キャスティングの最終決定権は今回あやさんだったんです。脚本は全部上がっていたけど、そこから役者に合わせて微調整していくので、「イメージできる人で書きたい」ということで。


で、普通のTVドラマのキャスティングで考えると、村井の役はいわゆる「トメ」というか、世間的に名前と顔が一致する人、バイプレイヤークラスでもバリュー的に上の方の役者になるんです。会議ではそういうクラスの人たちが挙がったんですけど、あやさんの中で「村井のイメージとはちょっと違う」ということで決まらなくて。そうこうするうちに主要キャストは決まっていったんですけど、村井のキャスティングは難航したんです。

それで、こう言うと失礼な言い方になっちゃうんですけど……「顔は知られているけど、名前はそこまで知られていない」という候補が挙がりはじめて、僕も「岩谷さんはどうでしょう?」と提案していたんです。その中で、あやさんが「岡部さんがいいと思う」とおっしゃったんですね。あやさんは岡部さんと何度か仕事をしているので(*)、イメージしやすかったのかもしれない。

*渡辺あや脚本『ストレンジャー〜上海の芥川龍之介〜』『今ここにある危機とぼくの好感度について』に、岡部たかしが出演している。


でも僕は正直、「うーん」と思ったんです。さっきのフォルムの問題もそうですけど、岡部さんとはいろいろ仕事をしてきて、僕の中で「岡部さんの村井」というのがちょっと見えなかったというか。本当に器用な人なので、その器用さが逆に村井とマッチしないのではないか、と思ったんですね。岩谷さんはものすごく不器用な人なので、その不器用さが村井にはマッチするんじゃないかなと思っていて。でも、あやさんが「岡部さんで(村井のイメージが)見えた」とおっしゃったので、岡部さんに決まったんです。

ここから先は、僕と彼らとの個人的な関係になってくるんですけども……岡部さんに決まって、3話くらいまで脚本を渡したんですよ。3話までの村井って、まだ実像が見えないというか、パワハラ・セクハラおじさんいうポジションですよね。その段階で岡部さんに連絡したんです。「よろしくお願いします。読みました?」「読みました。面白いです」みたいなやり取りをしたんですけど、その時点で岡部さんは3話までのイメージで村井を考えていたんです。「いつもの感じ」とまでは言わないけど、「主人公に時々絡んでいくクセの強いおじさん役ですね」みたいな。


僕は当然、ストーリーを最後まで知っていたので、その気持ちで来られたら困るというか、「いやいやちょっと違いますよ。1回会って話しましょう」と言って。そのついでと言っちゃなんだけど、岡部さんと岩谷さんが出演した『共演NG』って、コロナ禍が一番厳しい頃に撮影した作品だったので、打ち上げをやってなかったんですよ。今も打ち上げやるところあんまりないと思うけど。で、「せっかくだから『共演NG』の打ち上げがてら、岩谷さんも含めて3人で会いましょう」と提案して。


それで3人で会って、岡部さんに「まだ3話までしか読んでないと思うけど、この先、村井は超重要で、ひょっとしたら……いや、ひょっとしたらじゃなくて間違いなくキーパーソンになるし、岡部さんの代表作になります。そのくらいの覚悟でやりましょう」と伝えて。「えーーっ、そうなんですか!」みたいな感じですごく驚かれてましたけど。


彼らとは何でも話せる仲なので、その流れで「ぶっちゃけて言うと、オレは岩谷さんでイメージしてた」と明かしたんです。岩谷・岡部の2人は30年来の盟友というか、お互いに売れない頃からずっと一緒にやってきて、無二の親友みたいなところがあるので、それを言ったところでどうこうなるわけじゃない。


それで「この役は2人のうち、どちらがやっても絶対に世間に認知されるし、役者人生の転機になる役だから、オレがイメージしていた岩谷さんの分までしっかりやってほしい」と岡部さんに言いました。


岩谷さんも「頼むぞ岡部。本来は俺だったんだからな」みたいなことを言って。オレが勝手にイメージしていただけなので、本来も何もないんだけど(笑)。でも結果として岡部さんで大正解だったし、「やっぱりあやさんは見えているものが違っていたんだな」と今になっては思います。


僕の中で「売れてもらわなきゃ困る」というバイプレイヤー的な役者が何人かいて、たとえば赤堀雅秋もそうだし、今回刑事役で出てもらった谷川昭一朗さんや中野英樹さん、安井順平さんもそう。マキタスポーツ……はもうかなり認知されてるか。その上位にいるのが岩谷・岡部なんですよ。自分の才能はさておき、他人の才能を見つけることに関しては、ものすごく自信のあるオレが「この人はいいぞ」と思ってるのに売れていない状況がちょっと許せないというか。


「岡部さんの村井」が決定的になったシーン

●村井役が岡部さんに決まって、大根さんの脳内キャスティングもすんなり差し替えができたんですか?

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