『アオラレ』『茜色に焼かれる』映画星取り【2021年5月号映画コラム①】
今回は一見共通項はなさそうですが、車の運転について改めて目を向けることになる2作です。
ところで、ブロス星取りメンバーの柳下毅一郎さんと渡辺麻紀さんのアカデミー賞にまつわる動画生配信企画が実は先日行われました。そちらもぜひ!
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)
<今回の評者>
渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:最近は古い映画を観ています。いろんな発見があって面白い。
折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。
近況:ソファに座ると足の間にも胸元にもニャンコが訪れ、猫山状態。幸せだけど動けずに、肩腰手足も超絶我慢!
森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:曖昧な緊急事態宣言に振り回されっ放し。パンフ寄稿した『アメリカン・ユートピア』の劇場公開を祈る日々。
『アオラレ』
監督/デリック・ボルテ 出演/ラッセル・クロウ カレン・ピストリアス ガブリエル・ベイトマン ジミ・シンプソン オースティン・マッケンジーほか
(2020年/アメリカ/90分)
●寝坊してしまい、慌てて息子を学校に送りながら職場へと向かうレイチェルは、車を運転中に青信号になっても発進しない車を追い越すが、車の男からマナーを指摘される。謝罪を求められるも、拒絶して先を急ぎ、息子を学校に送り届けるが、先ほどの男が尾けていることに気づき…。ラッセル・クロウがあおり運転の常習犯を演じるスリラー。
5/28 (金)全国ロードショー
©2021 SOLSTICE STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.
配給/KADOKAWA
渡辺麻紀
B級アクションで描いた今のアメリカ。
社会の底辺で生きるハメになった中年男がブチ切れてモンスターになってしまう物語。そのモンスターを演じるのがご贔屓ラッソーなのでファンとしては複雑な心境なのだが、極端に膨らんだ肉体はまさにモンスターの存在感。意表を突くブチ切れ方も含めて、次に何をやるか分からない恐ろしさがある。今の世の中をB級ホラーアクション風に描くとこの作品になるのかもしれない。上映時間も90分と短く、フツーに楽しめる。
★★★☆☆
折田千鶴子
飛んで火に入る煽られ女子
巨体化したラッセルの野獣っぷりが一番の衝撃! しかも前提で既にサイコな犯罪者だし。だから“獰猛な獣が来たぞ~!!”的なアオリ効果抜群で、怖い怖い。粘着質度もサイコっぷりも想像以上で、存分に“ひゃ~”と悲鳴を上げられる。とはいえ煽られるヒロインも、相当なトラブル引き寄せキャラで、自業自得な行動のオンパレード。そのイライラも上手く機能し、アトラクション的なお楽しみが最後まで持続。このテーマにして社会派ムードが皆無なのも、むしろ爽快。
★★★半☆
森直人
Mr.クレイジードライバー
でっぷり増量したラッセル・クロウが、いかにもワイドショーのニュース映像に出てきそうなサイコパスを怪演にして快演。ピリピリした現代社会Ver.の『激突!』といった趣だが、「不快さ」を「面白さ」に昇華する映画的テクニックに痺れた。「やられる側」のヒロイン、カレン・ピストリアスの鼻っ柱の強さも良し。90分の尺を30分ずつ「設定」「対立」「解決」で区切り、実質的に三幕構成のお手本と言える組成になっていることにも注目。暴力性に関してはやりすぎ感ハンパなし! だが、これくらいぶっちぎらないと今の現実を超えないんだろうってことでも正解!
★★★★☆
『茜色に焼かれる』
監督・脚本・編集/石井裕也 出演/尾野真千子 和田庵 片山友希 オダギリジョー 永瀬正敏ほか
(2021年/日本/144分)
●7年前に理不尽な事故で夫を亡くした母・良子は賠償金を受け取らずに、ひとりで息子の純平を育て、義父の面倒も見ていた。やがてコロナ禍で経営していたカフェは閉店し、アルバイトなどでやりくりするが家計は苦しくなり、純平もいじめに遭っていたが、そんな苦境でも二人には手放さないものがあった。『舟を編む』『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』を手掛けた石井裕也監督作。
5/21(金)、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
©2021『茜色に焼かれる』フィルムパートナーズ
配給/フィルムランド 朝日新聞社 スターサンズ
渡辺麻紀
真面目に描いた今のニッポン。
社会の底辺で生きるハメになった母親の人生との向き合い方を描いた物語。コロナ禍で撮られた作品で、今の日本の事件や社会事情がさまざまなかたちでこれでもかと織り込み、「リアル」という感覚を観客に覚えさせようとしている。とはいえ、映画的&映像的な魅力には乏しく、丁寧に撮ったTVの2時間ドラマと言った印象。上映時間が2時間24分と長いことも気になった。
★★半☆☆
折田千鶴子
庶民の怒り代弁する沸騰度
例の元官僚による人身事故を物語の起点に、立場が弱い側の訴えや思いがいかに踏みにじられ続ける社会システムなのかと、尾野真千子演じる遺されたシングルマザーが“これでもか!!”と体現。そんな中で、容易にゲス化する多数の男に反吐が出つつ、軽んじられても虐げられても息子への愛をつっかえ棒に、強く生き抜く母性の凄まじさに目が釘付け。息子の頑張りや切実な思いも、痛いほど愛しくて。痛みを知る者同士の労わりにウルウル、永瀬正敏が演じる風俗店の店長の男気に惚れた!
★★★★☆
森直人
Mrs.問題提起
ついにコロナ禍の現在――「マスクをつけた世界」を描く日本映画が登場する。しかも超重量級の傑作。2019年4月に池袋で元官僚の高齢者ドライバーが引き起こした過失運転事故をモデルにしたとおぼしきエピソードを起点に、監督・石井裕也の全身全霊の情念とエネルギーが叩きつけられる。尾野真千子扮するシングルマザーの田中良子は、この腐った社会の欺瞞や理不尽に対する巨大な疑問符だ。テロップで具体的に数字が提示される厳しい経済事情。あっけらかんとしたウソと直截な本音を往還し、「まあ、がんばりましょ」のひと言でぐちゃぐちゃな混沌を乗り切っていく。とことんピュアで凄まじい。ケイ役の片山友希も強烈!
★★★★半
ここから先は
TV Bros.note版
新規登録で初月無料!(キャリア決済を除く)】 テレビ雑誌「TV Bros.」の豪華連載陣によるコラムや様々な特集、テレビ、音楽、映画のレビ…