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“第2波”こそ見るべき映画【6月号映画コラム②】

コロナ禍での緊急事態宣言も解かれた今、再び日常に戻ったかと思いきや、“第2波”の予兆も見られ、まだまだ不安は尽きない。
そんな“第2波”という言葉、恐れるだけではもったいない。映画にとって“第2波”なる作品にこそ見るべきものがある、ということで、いろんな“第2波”としての注目映画をご紹介します。


「第2」の重要性を熟知していた
デヴィッド・フィンチャー第2作『セブン』

文/渡辺麻紀(映画ライター)

<プロフィール>
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。

最近、コロナ的な世間でよく囁かれている言葉は「第2波」。現在もっとネガティブな響きを持っているかもしれないが、映画の場合は「セカンドチャンス」と解釈できないこともない。処女作で失敗した者が、次なる第2弾で勝負に出るという意味であり、「重要」という点でも重なり合うのでは?

さて、そんな監督をひとり挙げるとするならデヴィッド・フィンチャーである。27歳の長編デビュー作『エイリアン3』(1992年)でミソクソ言われ、3年の沈黙を破って発表した『セブン』(1995年)で見事ハリウッドのトップ監督に躍り出た。カイル・クーパーによるスタイリッシュなオープニング、雨が降り続く匿名化された街、そこで起きる象徴的な連続殺人事件、謎に挑む熱血刑事と引退を前にしたベテラン刑事、驚くべき犯人の正体とその目的。そして、何といってもフィンチャーのこだわりまくった世界観と映像美。これまで観たこともないサイコサスペンスの誕生だったのだ。「世界観」という概念を最初にSF映画に持ち込んだのはリドリー・スコットだったが、サイコサスペンスに世界観を持ち込んだのはフィンチャーが初めて。その「世界観」へのこだわりのおかげでダークファンタジーや寓話のような味わいも生まれたと言ってもいいだろう。

これで大成功を収めたフィンチャーは、続く「第3弾」「第4弾」もモノにしてハリウッドのトップクラスの座をキープし続けている。
すべては「第2」の重要性を熟知していたから。私たちも絶対に「第2波」を侮ってはいけないということだ。

もはや別次元なシリーズ第2作
『アントワーヌとコレット/二十歳の恋』(1962年)

文/折田千鶴子

<プロフィール>
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」(https://lee.hpplus.jp/feature/193)を不定期連載中。

『大人は判ってくれない』(1959年)にはじまる“アントワーヌ・ドワネル”シリーズ第2弾、オムニバス映画『二十歳の恋』の中の一篇『アントワーヌとコレット』は、大傑作と誉れ高い『大人は~』とは別次元に位置する、記念すべき祝祭的な作品。“あの屈折少年が…”という驚きと興味深さに絡み、ここから傑作シリーズが始まったんだ~(製作時は『大人は~』の続編にする気がなかったというから、後追いゆえに噛みしめられる幸せかも!)と、感謝とワクワクを禁じ得ない祝祭的な映画だから。

かのアントワーヌも、17歳。どうにか無事に社会復帰できたようで、レコード工場で働くことに。ある日、コンサートで美少女コレットと出会い、一目惚れをしたアントワーヌは……。一見草食系なのに超女好き。しかも意外にグイグイいく姿が可愛くも、振り回されて空回る姿が滑稽やら可哀想やら…。もう、このダメっぷりがたまらない!! 続きを観ずにはいられない、クセになる面白さ(ちなみに『二十歳の恋』は国際オムニバス作品で、日本篇として石原慎太郎が監督した一篇も収録されてます)。

「きらきらした未来」は何処へ?
『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』

文/森直人(映画ライター)

<プロフィール>
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。


ファースト超えの出来と評される第2波(続編)映画は結構世にたくさんある。だがそれ以前の問題として、基本的に筆者はパート2作品が大好きなのだ。それは初期設定やキャラクラー紹介などの手続きがすでに済んでおり、世界観に馴染んだ状態から観始めることができるから。あらかじめこちらの心のエンジンが掛かっているので、まさに“話が早い”のである。

その中でも自分にとってベスト・オブ・ベストな第2波映画といえば『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』に尽きる。1989年の公開作だが、お話の起点は1985年。高校生マーティ(マイケル・J・フォックス)はデロリアンに乗って「30年後の未来」である2015年にタイムスリップする。それは『ドラえもん』が描いた22世紀よりワクワクする光景だ。

いつしか近未来映画はディストピアが前提となってしまった。本作は「きらきらした未来」を描いた最後の傑作かもしれない。もっとも悪役ビフのモデル、不動産王のドナルド・トランプが、アメリカ合衆国大統領になるという皮肉な現実とのクロスオーバーも潜んでいるのだが……。2020年の今になっても、過去の設定になってしまったこの明るい未来にアクセスしたくなる。

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