『窮鼠はチーズの夢を見る』『ミッドウェイ』映画星取り【9月号映画コラム②】
今回の映画星取りは、漫画と史実に拠った2本。後者はともかく、星取りメンバーの前者への評価やいかに?
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)
<今回の評者>
柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:例年ならでかけているはずの砂漠のことを思う日々。
ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。言いたい放題最新映画情報番組「CINEMA NOON」を配信中。次回は9月29日(金)20時からhttps://m.twitch.tv/noon_cafeで。YouTubeにもアップしてますので検索を。
地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:NHK大河ドラマ「樅ノ木は残った」を今になって見ました。豪華すぎる役者陣と深いドラマに涙。佐藤慶さんやはり凄い。
『窮鼠はチーズの夢を見る』
監督/行定勲 脚本/堀泉杏 原作/水城せとな 出演/大倉忠義 成田凌 吉田志織 さとうほなみ 咲妃みゆ 小原徳子ほか
(2019年/アメリカ/109分)
●優柔不断な性格から不倫を重ねてきた恭一は、大学の後輩・今ヶ瀬と卒業以来の再会を果たすが、実は彼女は恭一の妻が派遣した、浮気調査員だった。昔から恭一に思いを寄せつつも不倫の事実を恭一に突き付けた今ヶ瀬は、事実の隠蔽の条件として自身の想いに応えるよう求める。2人は同棲し、恭一も心を開いていくが…。
9/11(金)より、TOHOシネマズ 日比谷 ほか全国ロードショー
©水城せとな・小学館/映画「窮鼠はチーズの夢を見る」製作委員会
配給/ファントム・フィルム
柳下毅一郎
粘着質で嫉妬深いゲイ
この主人公がなんでこんなにモテまくるのかさっぱりわからなかったんだけど、たぶんものすごく冷酷で酷薄なハンサムっていうことなんだよね? これだと単に弱いだけの男なので、本当に興味の持てない登場人物のどうでもいい恋愛模様なのだが、それがゲイなら映画になるという不思議。それにしても優柔不断なヘテロと粘着質で嫉妬深いゲイって、結局同性愛のステレオタイプを強化してるだけなんじゃないかという疑問が。
★★☆☆☆
ミルクマン斉藤
理想的なセックス・コメディが現れてしまった。
前作『劇場』とは対照的に、徹頭徹尾セックスに拘ったうえで、男女の感情が渦を巻き闘争しあうさまを丁寧に描く恋愛劇の逸品。犬ころのように寂しげな目をする恋愛至上主義者・成田凌と、女を口説くことがもはや自然体と化したようにも見えるヤリチン男・大倉忠義の愛憎模様がむろん軸ではあるが、女性陣のキャラも濃く、ことに吉田志織とさとうほなみ(=ほな・いこか)がイイ。ラストに及ぶ展開は残酷極まるのに、なぜか甘く爽やかで、その複雑さはアナーキーでさえある。
★★★★★
地畑寧子
恋愛映画の進化
同性愛と異性愛は等価、が前提で始まる、進化系恋愛ドラマ。いわゆるBLとも社会派ものとも波長が異なるのが新味。傷つけたくないばかりに優柔不断。でもモテる主人公恭一には共感不能だが、初めての本気ゆえか今ヶ瀬の世界を知ろうとする行動には心が動いた。そんな恭一に一途な今ヶ瀬が放った「心底惚れるとその人は例外」は名言。それにしても“ゲス乙女。”のドラマー、美人でびっくり。女子受けしそうな夏生役にぴったりです。
★★★半☆
『ミッドウェイ』
監督/ローランド・エメリッヒ 脚本/ウェス・トゥーク 出演/エド・スクライン パトリック・ウィルソン ルーク・エヴァンス アーロン・エッカート 豊川悦司 浅野忠信 國村隼 マンディ・ムーア デニス・クエイド ウディ・ハレルソンほか
(2019年/アメリカ・中国・香港・カナダ/138分)
●1941年12月、日本軍は連合艦隊司令官・山本五十六の命で真珠湾を攻撃し、大なる戦果を挙げる。アメリカ海軍はニミッツを新たに太平洋艦隊司令長官に任命、真珠湾の反省を生かして情報戦に注力し、ハワイ北西のミッドウェイ島での戦いに全戦力を投じての逆襲を企図する。監督は『インデペンデンス・デイ』などを手掛けたローランド・エメリッヒ。
9/11 (金) TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
Midway ©2019 Midway Island Productions, LLC All Rights Reserved.
配給/キノフィルムズ/木下グループ
柳下毅一郎
エメリッヒにしては……
日本がアメリカに勝てるわけはないとみんなわかっていて、そして実際勝てなかった結果もわかっているから、馬鹿な戦争と思いがちなんだけど、それと個々の戦いは別だったし、一人ひとりが生きるか死ぬかはまったく別な話なんだという当たり前のことを思い出さされた。「エメリッヒにしては」「思ったよりは」よくできていた、とみんな言うんだが、みんなエメリッヒのことをなんだと思っているのだ(オレも思っていたよりは楽しめた)。
★★★☆☆
ミルクマン斉藤
間違いなくエメリッヒの最高傑作。
例えば『ストーンウォール』のように私的な映画をたまに放つエメリッヒだが、正直ナメてました。ここまで真摯な戦記モノを作るとは。真珠湾攻撃以降の戦史を追いかけずっとドンパチしちゃいるのだけれど、情報戦を核とした人間たちのドラマがさまざまな小ネタ挟みつつ濃密。ミッドウェイ海戦に至ると、米軍と日本軍の描写がほぼ同率となるのはやはり画期的で、これもドイツの血なんだろうなあと思わせる。記録映画を撮ったジョン・フォードが出てくるのも唸りましたね。
★★★★☆
地畑寧子
戦争映画の進化
空中戦、爆撃など外連味たっぷりのアクションシーンとドキュメンタリーかと錯覚してしまいそうな綿密な史実が両立している新機軸の大作。明暗を分けたのが情報戦だったという明解な流れも好もしい。それらしい散り際や日本陸軍との軋轢まで描き込んだ日本海軍への理解度の深さも好ましい。”西部劇の真似“”復讐“を揶揄しつつ米国をも客観的に描き切れたのは、監督自身のポリシーはもとより彼がドイツ人であることが大きいと思う。
★★★半☆
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