短編小説『死の芸術』⑨
柊さんが飛び降りたあと、その場にいた結月も一緒に飛び降りて死んだ。
後日、柊さんと結月が飛び降りたビルの屋上を調べると、日記があった。日記には、9月1日から、12月22日のその日までのことが書かれていた。
内容は柊さんについてがほとんどで、その日記を読んで分かることは、結月が柊さんをストーカーしていたこと。そしてその内容を日記に残していたこと。
不可解な点はいくつもある。まず、なぜ結月が柊さんをストーカーしようと思ったのか。そして、なにより不思議なのは日記の文体だ。結月が書いた日記なのだから、普通、結月を『私』として一人称で書くはずなのに、この日記は三人称視点で書かれている。まるで小説のように。
結月は正真正銘の天才であった。天才の考えることを凡人が理解しようとする時点でバカな話なのかもしれない。
そんなことを考えながら結月の部屋を漁っていると、数枚の紙切れを見つけた。
そこには、こう書かれていた。
この紙の内容は私、結月が12月21日に書いたものだよ。きっと明日柊が死んで私も一緒に死ぬから、あとに残った人のために種明かしをしようと思う。せっかくの私の計画が誰にも知られずじまいなんて嫌でしょう?
私、柊のことが好きなの。2年生になって、同じクラスになったそのときから今この瞬間も。直接関わろうとは思わなかった。柊が幸せならそれでいいと思った。
でもね、柊って夏休みのとき結構危なかったらしいじゃない。あと数分遅ければ今頃どうなっていたか。考えたくもない。原因は何だと思う?ひとりだったこと。柊がひとりだったことがいけないんだよ。ひとりじゃなければあんなギリギリにはならなかった。私はそれに気づいたの。だからね、柊を守るナイトになるって決めたの。