知らずに損した(?)割増賃金の話
「残業をしたら給与に割増がつく」
会社勤めの経験がある方にとって、ご存知のことかもしれません。
残業時間に対し25%(月60時間超に対しては50%)、休日労働に対し35%の割増賃金が支払われます。
では、どんな「残業」であっても、割増がつくのでしょうか?
私自身の苦い思い出を振り返りながら、お伝えします。
20年以上前、あるアルバイトをしていたときのことです。自分と同じ仕事内容、同じ時給のパートさんが複数名いました。
パートさんの1日の所定時間は5~6時間。夕方前に帰られていきますが、仕事が終わらないときには「残業」されていました。そのパートさんの時給には、夕方の「残業」以降、割増がついていました。
一方、フルタイム8時間契約の私は、その時間が過ぎるまでは通常の時給。つまり、夕方の時間帯は、パートさんのほうが25%高い時給で働いていたわけです。
「え? それでいいの?」と思われた方、大当たりです。
「何かおかしい……」
そのときの私も違和感を覚えましたが、「残業は残業だから、そんな仕組みなのか」と素直に自分を納得させてしまいました。ハズレな私です。
「○○さんも、△時までの契約にして、あとは残業扱いにすればいいんだよ」
とパートさんたちから勧められ、会社に契約変更を持ちかけた直後です。
「すみません、間違えていました……。顧問の社労士から指摘されました」
会社の担当者が頭を下げてきました。
割増25%となるのは、あくまでも法律上の労働時間である、1日8時間を超えた分から。だから、パートさんは、いくら「残業」といっても、まだ8時間にならない間は、通常の時給でよかったのです。
パートさんが多く受け取っていた分は、返金というわけにはいかず。
私の契約時間変更の話も当然、なかったことに。いままでどおり、粛々と仕事に向かいながら、心の中では何かが起こっていました。
「法律を知らないと、損をするんだなあ」
厳密には、私が損したというよりも、パートさんが得したわけですが、このとき、まざまざと思い知らされました。
同時に、「さすが法律」。公平に作られているのだなと感心しました。
会社がパートさんに割増賃金を支払っていたことは、違法とは言えません。従業員に不利となっていないからです。しかし、他の従業員との均衡を考えると、適正とも言い切れません。
契約上の労働時間は、人それぞれ、異なることがあります。法律で、法定の1日8時間を過ぎた分から割増対象としますよ、と定められていることには、大きな意味が存在するのです。
この割増の出来事は、社労士試験に興味を持つ、1つのきっかけとなりました。1年後、試験勉強を始めました。
無知な人間が、合格したわけですから、人生、どうなるか分からないものです。
以後、20年来、「労働時間が1日8時間を過ぎるまでは割増をつけなくてもよい」というのは、私の中では、いわば常識となっています。
しかし、人に伝える立場でもあることを考えると、常識にとらわれ、独善的になってもいけません。
法律を知らなかった当時のことを、たまに懐かしく思い返しながら、「相手はご存知ないかも」と想像力を働かせていくことを忘れずに留めておきたいものです。