魅力的な死
◆序文「介錯」
母の日と父の日のお祝いを兼ねて、両親を行きつけの天ぷら屋に連れて行きご馳走することにした。
両親はいわゆる「花より団子」派で、我が子からカーネーションなどを贈られるくらいなら、その金で美味いものを喰わせろと言わんばかりの大変通俗的な感性の持ち主たちである。
テーブル席が空いていなかったため、全員横並びのカウンター席に座って飲み物を注文し、乾杯を済ませる。
その場に於ける会話の殆どは、何気ない世間話や近況報告であったが、いつかは来るであろう両親の終末期についても話の及ぶこととなった。
「親父お袋がさらにヨボヨボになってから寝たきりにするような事態はなるべく避けるつもりだ。延命治療も胃ろうも基本的にはしない。食えなくなった時が死ぬ時と思っておいてくれ。もちろん殺したくて言っているわけではない。これは俺なりの恩返しであり、優しさであり、介錯である。人間死ぬべき時に死ねないほうが余程残酷であろう」
俺がそう告げると、お袋は
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