「少子化」はなぜ起こるのか
社会保障や年金制度の破綻など、少子化のデメリットはそれなりに知れ渡っているが、そもそも「少子化はなぜ起こるのか?」については明確な形で周知されていないのではなかろうか。
よって、私の知る限りでなるたけ明瞭にまとめてみようと思う。なぜ「知る限り」なのかといえば、少子化は複数の要因が絡み合っており、統計や各種のデータを参照しても、全貌を把握しにくいためだ。
したがって、各論点に於いては疑義のある箇所も少なくない。以上踏まえたうえでお読みいただきたい。
また、少子化要因ごとの対策についても併記していくつもりだが、その対策がまさに「現代の人権意識、倫理観、政治的正しさ」とバッティングするケースが多々ある。
このことも「少子化要因とその対策」について語ることを躊躇しうる一因となり、結果、周知が進まない理由となっているものと考えられる。
本稿ではその「語りにくい部分」にも臆することなく、赤裸々に語っていこうと思う。
◆さまざまな少子化要因
1.女性の社会進出
女性進出による女性の高学歴化やハイキャリア化は当然晩婚化、未婚化、晩産化による少子化要因となる。
それに伴う「男女賃金平等化」も「女子上昇婚志向が堅持されたまま」では、少子化要因になりうる。
「収入の高い男性を好み、パートナーとして選びやすい」という女性全体としての傾向は、国内の現状に於いても未だ顕著であり、まずこれを前提とする。
その上で「男600万:女100万」という男女賃金不平等状態と「男350万:女350万」という男女賃金平等状態を比較してみよう。
当然、後者のほうが、女性の多くに好かれやすい高収入男性が少なくなることになる。
以上の理由により「女性上昇婚志向+男女賃金平等」という組み合わせは、男女のアンマッチを加速させ、少子化要因となりうるのである。
2.避妊・中絶
説明不要と思われる。生まれてくるはずの子供を事前に間引く以上、少子化要因になる。
また近年は避妊技術の向上や、出産をコントロールする意識の拡大によりさらなる出生への影響が懸念される。
3.人口の一極集中
「人が暮らすコスト=子供を持つコスト」が上がるため少子化要因になりうる。たとえば子供一人育てるのに500万の田舎と3000万の都心ならば、当然後者のほうが産みにくくなる。
4.教育コストの増大
3.とほぼ同じ理由で少子化要因になりうる。中卒でもそこそこ食える時代と、大卒じゃないとまともな働き口がない時代なら、当然後者の方が子供を持つコストは上がる。
5.工業化
原始狩猟・農業時代などにおける子供は労働力としての価値が高いため、産んだほうが得になる場合がある。当然多産を呼ぶ。裏返せば工業化、省力化は少子化要因になりうる。
6.少死化
子供が高確率で死ぬ時代だと、多目に産んでおくインセンティブが発生しやすい。一方であまり死なない時代ではその傾向が薄れる。
7.ポルノの発展
ポルノが蔓延すると、生身の女に向かう性欲が減るからである。特に昨今のネットポルノの隆盛は影響が拡大しうる。さらに将来、精巧なセクサロイドなどが実装された場合、この傾向は強まるおそれがある。
8.長寿化
医療費の増大を招くためである。社会資源の多くを高齢者医療に注入された場合、必然的に子育て世代がワリを受けることとなる。高齢者と現役世代の利害は、どう言いつくろっても相反していることになる。
9.個人主義(自由主義)の蔓延
本来、人間というのは群れをなす生き物である。しかし、昨今のハラスメント文化の拡張などにより、他者との衝突リスクが高まると、必然的に男女のマッチングも停滞しやすくなる。
・参考リンク
10.核家族化
核家族化により、祖父祖母に子育てを手伝ってもらうことが出来なくなれば、当然子供は産み育てにくくなるため少子化要因になりうる。
また、核家族化は5.工業化や3.人口の一極集中とも密接な関連がある。
農業は土地面積を必要とするため、主に郊外で行う必要があるが、工業やそれに付随するサービス業は、省地化が可能である。
必然的に、設備や人口を集約すればするほど、生産から売買までの効率は上がることになる。これが都市部一極集中のメカニズムである。
省地化、省力化が進めば進むほど、比較的狭い土地に設備と人間がひしめき合うことになるが、さらなる労働者を欲する都市部の企業は、郊外地からも人を呼び寄せるインセンティブが働く。
すると、郊外から出てきて、なるたけ都市部の近くに住もうとする労働者が大量発生し、これが核家族を形成しうる。
さらには、9.個人主義も核家族化とは関連する。嫁姑問題が典型的ではあるが、義実家との衝突を避けるために、核家族化を求めるケースが発生するためである。
嫁姑問題を例に取るならば1.女性の社会進出も無関係とはいえない。女性の社会進出は現役世代の女性の発言権を高めるからである。
そうなれば、嫁側の「姑拒否権」「同居拒否権」も高まるため、こちらも核家族化の要因となりうる。
11.格差拡大
子育てには一定のコストが掛かるため、低年収であればあるほど子供がいる世帯の割合は少なくなる。
「貧乏人の子だくさん」という通説は国内の現状の傾向としては、はっきりと誤りといえよう。
必然的に、貧富の格差が拡大する政策が採用されればされるほど、この傾向は強まる可能性が高い。消費税の増税や累進課税の緩和、社会保険料の上昇などがこれに当てはまる。
相対的に高年収であればあるほど、子どもがいる世帯の割合は高まる。
しかし、高年収世帯の多産性にも限界があり、1250万あたりを境に無子世帯の割合は増加していく。
「格差が拡大しても金持ちがたくさん産めば少子化問題は解決する」という言説は理屈としては正しいが、現状に於いてはまるで実現の目処が立っていないと言えるだろう。
◇◇◇
探せばもっとあるかもしれないが、以上が少子化要因の代表例である。
◆少子化は先進国病
上述のとおり、近代化、工業化、人権意識の高まり、男女平等、教育の高等化、技術発展などの殆どが少子化要因といえる。全て先進国の民が求めたものだ。 必然的に世界中の先進国が同時多発的に少子化する理由も、お分かりいただけると思う。
逆に今でも高い出生率を保っている国は、アフリカや中東など、保守的な宗教規範が根強い地域であるとか、途上国などが多い。
「先進国病」にかかりにくい地域なのだから、当然といえば当然といえる。
◆育児支援と女性進出
保育園整備などの主に行政による育児支援は、少子化改善効果が無いわけではないが、イスラム教などの保守規範と比べ、その効果は相対的に弱いといえる。
特に、シンガポールなどは非常に強い行政支援があるにも関わらず、出生率は非常に低い。
以前においては「少子化対策はフランスに見習え」という論調もあったようだが、近年その出生率も右肩下がりである。
上のアエラの記事の見出しなどは、正直ひどいミスリードという印象だ。上述のとおり「女性の従業率が高い=社会進出が進んでいる」こと自体は多子化要因になりえない。「育児支援自体に多子化効果はあるものの/女性進出の少子化効果と相殺している状態」なのである。
言い換えると「育児支援はやらないよりはマシだが、少子化問題を完全解決する(中長期で出生率2.1をクリアさせる)ほどの効果は現状どの国でも見られない」ということになる。
さらに、上のアエラの記事がお粗末なのは、もっと出生率の高い国、明らかに2.1をクリアしている国(中東やアフリカなどにはいくらでもある)を無視して「女性進出と行政支援こそが少子化解決への正しい道」と主張していることだ。
繰り返しになるが「女性進出+行政支援」の組み合わせは、少子化問題の解決手段としては、現状甚だ疑わしいと言わざるを得ない。
◆総括
いくつかを例に挙げたとおり、少子化要因と多子化要因は複雑に絡まりあっているため、それぞれの効果を分類、整理しながら考えないと正しい結論は出ない。
正しいアプローチに基づく正しい対策が為されることを願いつつ、本稿の締めくくりとしたい。
(了)
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