ガキの喧嘩試合
ふと、小学生の頃の友達との喧嘩を思い出したので、忘れないうちに書いておこうと思う。
私が小学2、3年生くらいの頃、その場にいるだけで場が盛り上がるような子とよく遊んでいた。
その子は圧倒的陽キャだが、性格も良く、かわいらしい顔と明るさに私も憧れていた。
彼女は自分から喧嘩を持ちかけるような人ではないのだ。
全ては私が1人で始めた"ゲーム"が喧嘩の発端となってしまうのである。
その頃の私は周りの子を大きく下回る思考力だった。
毎日、音読カードのハンコは読まずに自分で押し、漢字ドリルは学校で猛スピードで殴り書き、計算ドリルは答えをいい感じに移した。筆算っぽい跡までつけた。
担任からは『女子の中で1番字が汚い』という称号まで与えられた始末である。
そんなずる賢く悪ガキの私が、なぜかその可愛い女の子と仲が良かったのだ。
仮だが、れおちゃんとしよう。
れおちゃんとは毎日のように公園で遊んだものだ。れおちゃんは(私と違って)友達も多く、毎日沢山の友達が家に押しかけたが、ごめんこの子と遊びたいからと断ってくれて、その優しさに涙が出そうになったこともある。
そんなれおちゃんと、公園で遊んでいた時である。
そろそろ暑くなってきた6月終わりくらいだったと思う。
私はその日、今思い出しても悪寒と鮫肌が出るくらい恐ろしいゲームを1人でしていた。
"どこまで嘘をついてもバレないか"
である。
勿論、エイプリルフールなどではなく、ただ単に思いつきで始めたゲームである。
レベル1は低すぎて覚えてもいないが、レベル3らへんはいとこが芸能人と友達という事だったと思う。ちなみに西野カナ。
そして問題はレベル4だ。
これはMAXであるレベル5の一個下というのでかなりの危険度、共に精神力を使う。
遊んでいる公園でブランコを2人で漕ぎながら嘘をしっかり考案していた。
そして、それまたしょうもない嘘を思いついてしまったのである。
"お父さんが小さい頃、お父さんの友達がブランコ全力で漕ぎすぎて一周回っちゃったんだって"
れおちゃんは驚いたが、「いやいや無いでしょ」と冷静に対応している。
私は焦った。
これだと嘘が通じなかったという、ゲームでの負けになってしまう。私は身振り手振りを付け加え必死で続けた。
「そんなに言うならお父さんに確認しようよ」と、
ポケモンシールで彩った私の子供ケータイを手に取り、若干怒り気味のりおちゃん。
今この瞬間で親と唯一の友達からの信頼を失おうとしている事を自覚し始め、喉が、沸いてくる言い訳の言葉で詰まって、首を絞められているような気がした。
涙が視界をぼかし初めた瞬間、バッとケータイを奪い返して前を向き、家庭内、いや家系内最強のクソガキと言われたこの馬鹿は、嘘だということを頭から抹消して、真実であるものとして相手に説明した。
その為、自分が話してることが嘘かどうかなんて頭から抜け落ちていた。
ただ『大好きな親友に自分の話を信じて貰えない』という状況が、相当なダメージであった。
「もういい」と私は何かの映画のように捨て台詞を吐き、後ろを向いた。
自転車を跨いだ瞬間、涙が零れた。
一体、何の為に涙を流しているのだろうか。
自分でも分からなかった。
家に帰ると思いきや、そこからが喧嘩の本番であった。
しょうもないゲームを始めた自分への怒りが、いつの間にかりおちゃんに向いてしまっていた。
公園のブランコに座ったままのりおちゃんは、自転車に跨っている私に視線を当てていた。
私は、泣いてしまっているのを見られたくなくて、ブランコと今の私の場所の間にある木の方へうまいこと自転車を動かし、死角に隠れた。
一時しのぎだが涙が止まるまではこのままでいようと思った瞬間「なに隠れてんの、泣いてんの?」とりおちゃんからの攻撃が来た。
まったくその通りである。
だが残念な事に負けず嫌いだった私は泣いてないと裏返った声で言い張った。
10分程の大喧嘩の末、私は敗れ、泣きながら自転車で家に帰った。
帰り道、私は現実に押しつぶされていた。
結局、私の出来る力を振り絞ったとて、可能なのはレベル4までなのだ。それまでの女だったのだ、と。
親友に信じて貰えなかった悲しさと、大会で金メダルではなく銀メダルまでしか取れなかったような、才能と信じ疑わなかった自分の能力を現実がへし折ったような、そういう屈辱的な悔しさが、その日の夜に目を瞑るまで胸をいっぱいにしていた。
この出来事は思い出したら恥ずかしくて誰にも言えやしなかったが、前に進もうと今キーボードを叩いている。
りおちゃんとの喧嘩は、その次の日からは記憶と悔しさのリセットがされた。
余談にはなるが、現在は通う高校も違い連絡も取らないようになってしまった。インスタでアップされた彼女のストーリーを見てはこの事を密かに思い出す。彼女の美貌は言うまでもなく昔よりもアップデートされているが、リスカ、飲酒、喫煙、夜遊びを匂わせていて、毎日のように病んでいるようだ。それを見る度、自分の無力さが悔しい。
もしまた会えたら、また話せたら、嘘が嫌いな彼女が背負ったつらいことをぶっ飛ばすような、嘘つきな私の話で最高に笑わせて、
いつか、このことを話したいな。
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