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構造デザインの講義【トピック10:合成構造の可能性】第1講:木+αの構造デザイン
東京理科大学・工学部建築学科、講義「建築構造デザイン」の教材(一部)です
トピック10:合成構造の可能性
第5講:その他の素材+αの構造デザイン
合成構造の分類
建築構造物は、主たる建築材料としてコンクリート、鋼、木があります。
コンクリート系構造、鉄骨構造、木質構造の設計・建設技術は高いレベルで確立されています。
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木材と鉄骨の組み合わせ
木材と鉄骨を組み合わせた合成構造は、意匠性、環境性、構造性において、様々な価値と効果が得られることが期待されています。
各部材の持つ魅力的な表現を組合せることで得られる多様な意匠性を示すとともに、木材利用を促進して、地球環境・資源問題への貢献も期待されています。
木材と鉄骨の合成効果や協働効果により、合成構造とすることで多様な構造性能を発揮できることから、木材を用いた高層建築物や大空間建築物への適用において、様々な構造方法の提案があります。
地域の杉を利用した玄関口を支える大空間・高知駅
高知駅は、既存の駅舎を段階的に高架化し、地元のスギの集成材と、鉄骨トラスによる合成構造の大屋根が特徴です。
特徴的なSRCのキャノピーは、大屋根を支持する構造体的として機能し、前面道路に開放することで、都市との一体性を演出します。
JR、高知市、高知県の産官体制により、高知駅の南北通路と駅前広場が整備され、町のシンボルとなっています。
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RCの下部構造により、最高高さ13.4mのアーチの大空間を安定して支持する
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駅舎は、大規模木造の耐火構造とするため、火災の遮断、GRC製の耐火盾、SRCのキャノピーによって構成されています。
鉄骨部材には、耐火塗膜が施されています。
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特徴的な大屋根のアーチは、スギ(県産)の集成材をアーチ構造の基盤として、鉄骨トラスで補強した合成構造です。
トラスは、上弦材は集成材、斜材と下弦材は鉄骨によって構成されています。
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アーチをつなぐ水平材は耐風梁として機能する
東京の新名所に相応しい、木で彩り、膜で明かりを灯し、鉄骨で支える、高輪ゲートウェイ駅
JR山手線の新駅・高輪ゲートウェイ駅は、東京の玄関として重要な駅舎です。
ホームやコンコース、そして周囲の都市との連続性と一体感をもった駅舎の空間として整備されています。
特徴的な折り紙の形状による膜屋根は、木材と膜材を用いることで障子をイメージした親しみのある空間となり、物理的アクセスに加えてガラスファサードにより駅前広場へ開かれた構成となっています。
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折り紙をイメージした屋根形状は、立体に配置された鉄骨トラス架構によって支えられています。
鉄骨梁のウェブ側面に木材がボルト接合され、木鋼ハイブリッド部材としています。屋根構造を支える下部の柱も、木材で覆われています。
雨がかりが考えられる木材は、防腐・防蟻処理され、耐久性が確保されています。
膜屋根の積雪に対して、滑雪を考慮した屋根勾配とし、融雪の装置と設備も設けられています。
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折り紙のフォルムを支える屋根のトラス鉄骨架構により、応力や変形に対して抵抗する
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光を透過する膜材の色合いと、木材のバランスにより、障子をイメージした構造となる
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神々が集まる出雲の地、現代の社・出雲ドーム
1992年、当時の日本最大の木造建築として、出雲ドームが完成しました。
高さ約49m、直径143mのドームを支えるのは、集成材によるハイブリッド・アーチ構造です。
市勢50周年の記念事業として、出雲市が主催した全天候型の多目的競技場のコンペにより、選出されました。
それは、出雲市の伝統と文化を体現し、風や雪などの自然外力への対策、木材を利用し、蛇の目傘をイメージした提案です。
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屋根を支える下部構造の外周は、36本のRC柱で支持されている
ハイブリッド膜ドームは、集成材のアーチと、鉄骨テンション材を組み合わせた張弦梁による構造方法です。
立体張弦アーチ膜構造の大屋根を支える骨組は、大断面集成材が圧縮力、テンション材が引張力を負担することで、屋根に生じる曲げに抵抗します。
また、ドームに作用するフープ力に対して、周方向に配置されたテンション材が抵抗します。
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音響・照明・換気などの設備が設けられている
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立体張弦アーチ膜構造の大屋根を支える骨組みは、大断面集成材が圧縮、テンション材が引張を負担することで、曲げに抵抗する
ドームのフープ力に対して、周方向に配置されたテンション材が抵抗する
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鉄骨構造の教材(電子書籍)
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