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鬼女紅葉


 鬼無里資料館で鬼女紅葉伝説を拝見してきました。この伝承は伝えられている地域で主人公「紅葉」の扱いが違います。
 そんな所が、ちょっと面白かったので紅葉伝説についての個人的感想をここに記載していきたいと思います。
 話の内容としては以下の通り(うろ覚えでしかないので鬼無里観光振興会のHPやその他サイトを参考にしながら書いていく)

 ○鬼女紅葉伝説

 時は平安。欧州会津に子宝に恵まれず悩んでいた夫婦がいた。普通に努力しても子供が生まれないので、藁にもすがる思いで第六天魔王に子授かりの祈願をした。祈願の甲斐ありすぐに、一人の女の子が生まれた。この子が後の鬼女紅葉であり第六天魔王の申し子である。妖術を使えるという特殊能力をもった幼子はみるみる美しい女性へと成長していった。

 そんな紅葉は都で源基公から好かれ(立ち位置は今でいうところの愛人)何不自由ない穏やか且つ裕福な暮らしを送っていた。しかし、同じ頃御台所が病に倒れ騒ぎになる。家来たちが神仏に祈願しながら真相を解明したところ、「紅葉が嫉妬ゆえに御台所を得意の妖術で呪い殺し、本妻の座を強奪しようとしていた事」が明らかになった。
 本来なら死罪であるはずだが、この時紅葉は基公の子供を宿しており、そのことを哀れんだ基公は紅葉を都から追放することで事を収めた。そして、この島流しの行先が信州鬼無里村である。

 村人は都からやってきたこの女をとても丁重に扱った。紅葉も自分を慕ってくれる村人に対しとても優しく接した。彼らに都の文化や読み書き、医術を教え村の発展に大きく貢献した。無事息子(常若丸)も生まれ、彼女は村で穏やかな暮らしを送ったとさ。
 めでたしめでたし。

 ではなく 


 島流先での順風満帆な日々がつまらなくなった紅葉は、夜になると妖術で鬼女に変容し山賊達と近隣の村々から金品を強奪するようになってしまった。
 紅葉の目的は、都へ戻る事。金品を盗むのはそのための資金集め。彼女は都での裕福な暮らしに戻りたかったのだ。
 徐々に過激化する悪事は「戸隠の岩屋に鬼女が住み、村々を襲っている。いずれは都に攻め込んでくるつもりらしい」という話となり都まで渡った。 
 黙認するわけにもいかない朝廷はこの鬼女の討伐を平維茂という将軍に任せた。


 いざ、鬼女討伐に向かった維茂軍。しかし紅葉の妖術により優勢をとれず一時撤退を余儀なくされた。
 彼女の妖術を突破しなければ勝利が手にできない故、維茂は別所北向観音に17日間参籠し祈願した。
 その甲斐あって、維茂は夢枕に立った老僧から一振りの短剣を受け取った。
 神の加護があったことを確信した維茂は、受け取った短剣を手にして、紅葉らと再戦。
 懲りずに来た維茂軍に、妖術をキメようとした紅葉だったが、かけようとした妖術は全て跳ね返されてしまう。
 妖術が通らなければ、ただの山賊と女一人。そのまま紅葉は維茂の持つ短剣で討ち取られた。
 33歳の若さで散った紅葉。その悲しみを映すように山々は深紅に染ったという

 (完)


 ○鬼無里での話と他所での話で紅葉の印象が全然違う

 鬼無里以外の場所で語られている紅葉伝説は、紅葉を傲慢で手癖が悪い鬼女として書いている。寧ろこれがオーソドックスな内容らしく、物語の視点も紅葉ではなく討伐に向かった平維茂視点で綴られている。
 しかし、鬼無里資料館で見た伝承は、紅葉を悪としてではなく寧ろフォローしているかのような内容が多々あった。

 例えば、御台所を殺めようとしたのは基公の寵愛を一心に受けようとした為。(私の記憶が正しければ、逆に基公の方が紅葉をたぶらかしていた設定だった気がする……) 
 また、鬼無里から都へ移ろうとした理由は息子を基公に一目合わせたかったからとか。

 なんというか、一途で可哀想な女性みたいな書かれ方をしているんです。他ではただの鬼で悪女なのに。


 これは、紅葉が鬼無里村の発展に大きく貢献したことが理由となっています。
 何もなかった集落に学問と医療を教えることの重大さを、鬼無里村は殊更強調しています。
 そして、それを教えてくれた紅葉は鬼無里村の人々の命を救ったといっても過言ではない。
 それは鬼無里の人々から紅葉が崇拝されるに十分な理由だと思います。
 しかも紅葉は鬼無里の人々には優しかったみたいな事書いてありますし……。


 印象操作といいますか、普段から優しくて知的で穏やかでという面しか見せなければ、他所で盗賊団の頭をやっていると言われても「ええ?それは人違いですよぉ」となって、信じてもらえないと思います。
 そして、紅葉自身もいい面と悪い面を使い分けていた。
 こういった事は現実でもおおいにあり得る話で。
 何だか、現代風刺みたいで面白いんですよね。または、人間にはいい側面も悪い側面も両方あるよという事でしょうか。

 ちなみに紅葉=鬼として伝えられていますが、物語の中で紅葉が行なっていた悪事は「御台所の座を狙おうとした事」「山賊達と金品強奪をした事」の2点です。金品強奪のやり方としては、村の娘を攫って人質にとったり、場合によっては殺めてしまったりなどなど。
 盗むと一口に言ってもそのやり方が暴力的で過激だったらば、それがまさしく「鬼の所業」で人の心に鬼が宿った時なのかもしれない。
 そんな教訓だったりもするんでしょうか?

 これらは私の個人的な感想でしか無く、今回書いた『鬼女紅葉伝説』に間違っている箇所があったらすみません。
 けれど、伝承って意外とおもしろいなぁと思った経験でした。


 ちなみに今回鬼女紅葉の紙芝居が展示してあった場所は、鬼無里ふるさと資料館という所です。
 お神輿が展示してあるんですが、細部にまでこだわった彫刻が見所です。この彫刻を見るために訪れる人がいるとか。

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