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「烏の巣」外伝3 Hölle:地獄 

こんにちは!作者のつるピカで〜すっ!!!
先にお詫び申し上げます。
外伝を書くごとに文字数が少なくなっております。
スミマセン!
僕の中では凝縮しているというつもりですが、最初の作品より
断然短くなっております。予めご了承ください。

「烏の巣」外伝3 Hölle:地獄 

僕が落ちていった先は
僕が一番最初に見た場所。
「あなたっ!どこにいたの!!」
最初のエントランスの女性が僕を上から怒鳴りつける。
真っ赤な口紅だけが動いているように見えた。
眉の両端が絵にかいたようにつりあがっている。
「審査をしようと思ったけど、罰ですっ!!地獄!!!!!!!!!!」
高らかに宣言された、『地獄』と。
僕は前とは反対側の扉に吸い込まれた。

静かだ。
穏やかとまではいかないけど
足音の反響が美しく響いてる。
「待っていた。ピーター・サロン。」
誰か重たいガラガラ声が僕の足音に変わって響き渡る。
光り輝く黒い玉座が見え始めた。
そこに座っているのはきっと閻魔なのだろう。
「…。」
無言で近づく。
何かを話す気は失せた。
「やあ、坊や。迷子かな?」
その玉座に座っていたのはスラッとした背で
長い脚をくんだ閻魔だった。
「想像と違っただろう?坊やたちの絵本の挿絵より
イケメンだ。」
小鼻を少し膨らませて閻魔は得意そうに言った。
「何か話したらどうだ?坊やは迷子かな〜?」
閻魔が僕を覗き込む。
僕は無言を貫くことにした。
「そうか、無言を貫きたいか。まあいいよ。
難しいお年頃だもんね。」
うんうん、といったふうに閻魔が腕を組みながら
首を縦にふる。
「坊やの罪状を読み上げる。間違ってたら教えてね。」
そして巻かれた紙がでてくると閻魔の目が赤く光だし、
罪状が読み上げられた。
「ピーター・サロンくんの罪状。
その一・自分の意見を言わなかった。
その二・助けを求めなかった。
その三・父と母、そして家来に恵まれなかった。
その四……」
「ちょっと待って。今のは違います。」
「どれだ?えーっと、その一・自分の…」
「その二とその三。」
「ほう、家族にとりわけ深い感情を持っているようだね。
言ってごらん。」
「まず、助けを求めても見向きもされませんでした。
次に、父と母と周りの者達に恵まれなかったのは僕の責任ではありません。」
「うんうん、簡潔でわかりやすかったよ。その二は認めてやろう。」
そう言って、筆が取り出され線がいれられる。
「しかし、その三は認められない。」
「どうして?」
「まず、父と母は普通、子どもを愛すようにできている。
それが機能しなかったのは坊やが愛らしくなかったからだ。
坊やに責任がある。
そして、坊やのご両親は強い男児を臨んでいたようだ。
が、坊やはそうではなかった。
これも坊やの責任だ。なぜだか分かるか?
ご両親にはどうしようも出来なかったからだ。」
「承服できません。」
「そんなことはオレの知ったことではない。」
「……。じゃあ、いくつまで罪はあるの?」
「8000000!!」
「省略。」
すかさず僕はそう呟いた。
「良いのか?坊やの意見は反映されないが?」
さすが閻魔。地獄耳だ。
「もういい。」
僕の答えを聞いた閻魔は何故か冷ややかな目線を僕に投げると
紙を巻いた。
「じゃあ、いってらっしゃい。」
そうして僕は火の中にいれられた。

熱い、熱い
痛い、痛い
苦しい
「グッ!」
叫び声なんてあげてたまるか。
負けなんて、どんだけ他のことを諦めても
認めない。
でも、

熱い!!
そのうち溶けて骨になるか
その前に燃えるか。

ああ、視界が歪んできた。
熱波がお香みたいに揺らいでいる。
手を上に伸ばしてみた。
何か、つかめるかもしれないから。
誰か、つかんでくれるかもしれないから。
(最後くらい。)
そんな弱い思いが今の僕を支配してしまった。
以前では考えられない。
熱にうなされて、気が変になったみたいだ。
足についている鎖が皮膚に転写されるように…

痛い

痛い。
痛い。
熱い。
熱い。
手も、もうもたない。
(誰か…)
そして、手を下ろそうと思った瞬間…。

キセキだと思った。
そんなことが起きた。

「アタ!!」
上から誰かが僕の手を握って
次に腕を掴むと、上へ引っ張り上げた。
(鎖がついてる。)
そう言おうと思ったけどうまく喋れない。
でも案外、するりと上にいけた。
[ドサッ!]
「アタ、しっかりしろ!アタっ!!!」
聞いたことある声だ。
そうだ。
ずっと探してたんだった。
「マキっ…」
「アタ…っ!良かった、まだ火に負けてなくて。
強いね、いい子だね。」
「ど、こ、に行って、たの…?」
「ごめんね、見つかっちゃったんだ。
アタと同じ。クリアンにしてやられた。
でも、もう大丈夫だから、
本当に…ゴメン。」
「う、う、ん。」
ホントは僕も〈大丈夫〉って伝えたかったけど
まだ、全身から湯気が立ち上るくらい
身体が熱かった。
「行こう。まだ口と意識は使い物にならないけど
足はもう使えるから。歩ける?」
「う、ん。」
僕はマキに肩を貸してもらい、歩きだした。
無言で、ただひたすら。
追手が来ないことが不思議でならない気持ちもあったが
歩くので精一杯で考えることなんて出来なかった。
すると、突然前が明るくなった。
「着いたよ。ここで休もう。」
そう言われて閉じていた瞼を開けると、
深海が広がっていた。
地獄より明るい。
とてもきれいな生き物達がじっと暮らしていた。
「ここは、誰も手を出せないの。
誰も。」
海の底でも水圧は感じないし、息も出来てる。
不思議。
「そんな顔、久しぶりに見た。
アタの不思議そうな顔。
かわいい。」
マキはストレートだ。
こっちが照れる。
「あ、」
眼の前に透けている魚が泳いできたのを
僕が指差してマキに教えると
マキはくすくす笑った。
嬉しそうだった。

[ギュっ]
僕初の衝動的行動。
「!アタ…?」
「ゴメン、ネ?こんなこと、に、
な、って。審、査、ちゃんと、受けてれば
良か、った、の、に。」
まだ、熱い喉を鳴らして
僕は不器用な言を繋げ、言葉にした。
マキは驚いたように身体を硬くした後、
拍子抜けしたのか少し息を震わせながら
抱きしめ返してくれた。
温かい、ぬくもりで。
僕がずっと欲しかったあたたかさ。
「負け、たく、な、い。」
僕はマキから身体を離すと
マキの顔を覗き込んで言った。
「できる?僕、と。」
するとマキは瞳を一瞬揺らすと、
大きな声で言った。
「はいっ!!!!!!」
深海にきれいな誓いが響き渡った。

外伝 zusammen:一緒に    へ続く


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