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「ダナエ」(無防備)
グスタフ・クリムトの絵画「ダナエ」が好きだ。
絵のダナエは幸福そのもの。
幸せを考える時この顔を思い出すのだが、幸福でありながら
ただ眠っているだけの顔ではないことをクリムトは描いている。
クリムトが「眠りの森の美女」を描いたらどんなであったろうか?
きっとただ眠り続ける中で美しい女性に成長した姫の匂い立つ色気も
描き出したであろう。
神話「ダナエ」を描いたクリムトの絵画をみて、私も神話に少し肉を添えてみた。
「金色の雨」
物悲しくも美しい瞳は今日も大空を見上げていた。彼女は父親を愛し、尊敬もしていたが・・・。
彼女の父はアルゴス王アクリシオス、彼女の名はダナエと言った。
ダナエが生まれる時、王アクリシオスは世継ぎを望み神託を仰いだ。だが、男子が生まれないばかりか、ダナエの子に殺されるであろうとの予言がなされた。
王は生まれたばかりの玉のような赤子を愛しんで殺すことが出来ず、代わりに誰も入ることの許されぬ分厚い青銅で出来た塔へ閉じ込めたのだった。
自らの運命を受け入れ全てを許す慈愛と憂いに満ちたダナエの美しさは、幽閉の身ながら城外に漏れ聞こえるようになっていた。
彼女と外界とをつなぐ唯一の小窓から大空を舞う鳥を眺め、ダナエは日々過ごしていた。
「あのように翼を広げ好きな場所へ行けたならどんな気持ちだろうか」
そんなある日まどろむダナエの白い胸元に、ぽつり、ぽつりと金色の雨粒がふりかかった。雨粒は静かにゆっくりと、暖かく、ダナエの全身を濡らしていった。
濡れながらダナエは夢見心地だった。頬は薄紅色に上気し、その美しい口元にはうっとりと笑みが浮かんでいた。
夢の中でダナエは大鳥の背に乗り大空を飛んでいた。生まれてからこれ程自由でいたことがあったろうか。鳥が上昇し、下降し、ダナエの望む方向へと空を進むさまに恍惚としていた。
そうして目覚めた時には、夢の中の鳥と、もう一度空を飛びたいと願っていた。ダナエはもう、夢の中の鳥を愛し始めていたのだった。
望みは叶い、幾度となく金色の雨に打たれ、夢の鳥との逢瀬を繰り返した末、ダナエは後の英雄、ペルセウスを身ごもった。
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