量産型スタイルは建前
急に暑くなってきたから夏服が欲しいと次男が言う。
もう欲しい服のイメージはあるからお金くれれば買ってくるけど。
こちらとしては現金でなくカードで支払いたいので一緒に行くことにした。
中学高校と男子校で過ごした次男は校風も自由だったこともあり、髪はグリーンやブルー、赤、ピンクといろいろと染めていたし、ロン毛で後ろに縛っていたりしたこともあった。寝ぐせを直さず出かけるときもしょっちゅうだった。
高校時代洋服も派手な柄ものだったりして、帰宅時警察に職質されたり、コンビニでポケモンカードを買おうとして番号を言うとタバコが出てきたりしていた。
しかし大学に入って髪は黒く戻し、髪型もマッシュにした。
いつの間にか洗面所に彼用のヘアスプレーやヘアオイルが置かれ、髪型を整えるのにかなりの時間をかけるようになった。
大学生になってからの服装は柄物を封印して黒白をベースにしたどこにでもいる大学生と同じになった。
どうしてここまで変わったのか?といえば周囲に女の子がいるようになったからだという。
失われた6年間を取り戻すため女子が話しかけやすい服装にし清潔感の漂う身だしなみに力を注いでいるらしい。
実際はコロナでオンラインがほとんど。女子と話す機会はそれほど巡ってこないらしいが。
そんな彼が指定した店はGUだった。
GU…。入ったことがなかったがなるほど若者が好むデザインがたくさんある。
ユニクロはおっさんとかの店だから、と言っていたが確かに比べるとデザインも値段も違う。
じゃぁ、ビームスやユナイテッドアローズなんかどうなの?
というと、
店員がギラギラしてるから嫌だ
ビームスはこれ誰が着る?というデザインとなんの変哲もなくシンプル、なのに値段が高い。この両極端で見る気にならないらしい。
これ、イケメンしか似合わんじゃん。
イケメンなら何でも似合うけど。と思う私の前をビームスの店員が客を従えレジへと向かう。
上着が柄物なら、下はそれとはまったく違う柄の刺繡が全体に入ったパンツをはいている。
これがおしゃれなのかどうなのか判断がつかない。ただ、手が込んだ作りだから当然値段も高いだろう。これは他には売ってないだろうというのは分かる。
おばさんはこんな尖がった格好TVでパリコレモデルがランウェイを歩いてるくらいしか見たことがない。
しかし洋服なんてその人が着たくて着てしまえばなんでもいいのだということは知っている。
次男に、ビームスの洋服全身で着てるねぇ、というと
ほら、こういう目立ち方、俺はしたくないんだよ。
自己主張をしなくてもいい、周りもこいつ普通なんだろうなって思う服装。
それを次男は「量産型の服」と呼ぶ。
そして次男が目指したGUはそれを実現する服で出来上がっていた。
非凡であれ、平凡であれ、少なくとも見た目からは分からない、そのくらいの没個性でいいらしい。
ふと次男が5歳の時七五三の記念を撮りに写真館に行った記憶が蘇った。そこでは沢山の衣装の中から本人の好きなものを選んで着せてくれる。
七五三の袴姿のほか、何か着るものをと言って本人が選んだのはなぜか中国服であった。しかも帽子付きで。
キラキラとカラフルな色の中国服を着た5歳の次男は満面の笑みを浮かべてカメラの前に立ったが私はなぜこれを?と内心動揺していた。主人の方はどう思ったか、「燃えよドラゴン!」みたいだな、という。
高校生で冬にジャンパーを購入した時も兄が無地のカーキを選んだのに対して、次男は枯草の葉の絵柄が前面を占める上着を選んだ。カラーヘアでロン毛の彼はどこのヤンキー兄ちゃんかという感じを醸し出していた。
…GUで会計に立ち会いながら本当に好きなファッションはそうじゃないのをしっている、いつか自分の好みもミックスして選べる日がくるといいね、と思っていた。