銀木犀と万年筆と洗剤
良い香りのする石鹸が欲しくて買いに来た。店内には色とりどりの石鹸が所狭しと並んでいる。どれも穏やかな色と香りで、沢山陳列されているのに店全体は清潔な空気を保っている。オレンジとアールグレイ、柘榴、金木犀、銀木犀。
ぎんもくせい?と思い石鹸を手にとる。淡い乳白色の塊に白い小花が閉じ込められている。
「金木犀に勿論似てるんですけど、香りは少し柔らかいんですよ」とレジ奥に腰掛けていた店の主人が教えてくれた。年季の入った、濡れたように艶のあるウォールナットの椅子に座った男性。若いのだろうがどこか年齢不詳感がある。囲まれたアンティークの什器や調度品が嫌味なく似合っていた。
「お兄様、もう、やはり此方に居らしたのね」
ベルを鳴らして店に入ってきた、話振りからすると店主の妹らしき人。
「仕事中だ」
顔を妹に向けず答える兄。
「俺は家のことに関与しない、跡取りはお前なんだから」と何やら兄妹間で揉めている。私は白木蓮の石鹸を見つけ、季節違いだが良いなと思った。
「そんな小娘が跡取りとは、聞いて呆れる」
ドア付近に年配の女性が立っている。いつの間に入ってきたんだろう。
「この万年筆は代々当主が受け継ぐもの」と動画配信でコスメを紹介するような手つきで万年筆を掌に翳して見せてくる。品番を読み上げそうな雰囲気だ。
そうだ、このお店は蔦屋書店の一角にあるポップアップストア。漫画コーナーでジャンプを立ち読みして帰ろう。書店は書店でも、馬鹿デカい駐車場に書店とホームセンターと丸亀製麺が併設されているタイプの蔦屋書店である。切れていた洗剤を買ってうどんを食べて帰ろう。そろそろ家のおキャット様が人間の言葉を話しだす頃だ。
という、夢を見た。
サポートしてやってもよいぞなという方いらっしゃいましたら、よろしくお願いします。おキャット様のおやつ代にします。