【短編】ベルアルギーニ(こちらの発音で、多分)
「俺、コンビニの買い食い初めてだ」
赤い頭をボリボリかきながら彼が言った。
お坊ちゃまなの、と聞いたら中流階級出身だよと店内を見まわしながら答える。物珍しそうにしているから本当なんだろうか。
親父は公務員でオカンは音楽教室の先生。音楽教室って何教えてるのと尋ねると私の知らない楽器の名前が返ってきた。
「わたし、モノ知らないからなあ」
何となくバツが悪くて、甘いお菓子としょっぱいお菓子どちらを買うか迷うふりをして呟く。
そんなことないよ、ナルコは物知りだよと、青いまつ毛を私に向けて彼が答える。深夜にコンビニに出向く庶民の生態なら、たしかに私の方が知っている。
手を繋ぎながら、全部の陳列棚の間を二人で歩いた。(彼はカゴを持ちたがったが、私の会計だし私が持つと申し出た。お願いします、と彼は神妙な顔をした)
これは何、マウスウォッシュかな。これ知ってるハミガキコでしょ、そうだよ発音がちょっと違うけどね、などと教えながら巡る。
ちょっとアイスみてて、と彼の手を離す。この隙に、さっきマウスウォッシュやら何やらを教示したアメニティ系の陳列棚に戻る。サイズ合ってるのかな、まあなんだっていいかと買い物カゴに入れる。意味がないかもしれないけれど、しょっぱいお菓子の下に潜らせてみた。
「ナルコ、アイスどれがいい」
カップアイスを手に取る彼。それ美味しいけど、歩きながら食べたいから違うのにしよとコーンタイプのソフトクリームをカゴに入れる。俺も同じのにする、と2つ目もカゴに投入された。お菓子とアイスとゴムが一緒くたに入ったカゴ。これぞ深夜だと一人で頷いた。
コンビニを出て、私のアパートまでの帰路に着く。歩道が狭くて二人並べず、彼が前を歩き、私が後をついていく。道分かる、と聞くと分かるよと楽しそうな声が聞こえてきた。
彼の右手にはアイス、彼の左手に私の右手、私の左手にもアイスがある。さすがに11月のアイスは寒いねと声をかけると、全然だよと彼が振り返る。その時、対向車線の車がハイビームで通り過ぎた。彼の目が反射して緑色に光る。私は、それがとても綺麗だと思った。
宇宙人のアソコって、地球人と同じなんだろうか。
二股に分かれてたらどうしよう。コンビニの店員さんに「先が二つに分かれてるやつありますか」って聞いたら困るかな、困るよな。聞かなくてよかった。
彼の髪が黄色になったりピンクになったり光ったりしている。美味しいと光るんだ、と彼が恥ずかしそうに笑う。いいなあ、私も光りたいなあ。
角を曲がって歩道が広くなったので彼の隣に並ぶ。私の1LDKの城まで、あと50メートル。