末の妹が結婚する

私は三姉妹の長女であるが、この度、末の妹が結婚することになった。お相手は私が高校生の頃からお世話になっている方、15年以上の付き合いがある美容師さんだ。ここでは通称・豆さんと呼ぶ。
以前も日記に書いたが、昨年あたりから三姉妹と豆さんで飲むようになり、あれよあれよという間に末の妹と豆さんが付き合います、同棲します、結婚します、と話が進んでいった。
先日、豆さんのお店で伸ばした髪を30センチ程切ったのだが、鏡越しで豆さんに「ちなみに妹をいいなと思ったきっかけは」と改めて聞いてみた。

「社長と飲んだ時あったじゃん」
と淀みなく口と手を動かす豆さん。
社長とは豆さんのお客さんでもあり飲み仲間でもある方だ。豆さん主催の飲み会に行くと、大概はじめましての人がいるがその時のはじめましては件の社長だった。三姉妹と豆さんと社長という面子で飲んでおり、社長と末の妹が何やらディベートをしていた。というか、末の妹が泣いていた。肩を震わせ、嗚咽を殺し、涙が流れないように必死に眉間付近に皺を寄せているが、悔しくて悔しくてしょうがなくて涙が出ている、といった様子だった。
私は「ちょっっっっと、なあに人の妹泣かしてるんですか」と慌ててみたが、社長は泰然と笑うばかりで、妹もブチ切れているが理由は明かさなかったので今でも悔し涙の真相は謎だ。
というのを思い出し「ありましたねえ」
と豆さんに答える。

あの時さあ、おもしれえ子だなと思ったんだよ、と豆さん。
豆さんは社長をとても尊敬しているらしく、その社長に食ってかかる女、という場面に心動かされたらしい。
そんな「おもしれー女」案件が身近にあったとは。
豆さんから、はいどーぞと30cm切った髪を渡されて、いえーいと記念撮影して早々に豆さんにバックした。パーマでチリチリに傷んでなければドネーションしたのになあ。うまくいかないもんだ。

末の妹は、長女の私から見て無作為な人間に思える。人から良く思われたいという欲望が、然程なさそうだ。私はSNSに愚痴やら自撮りやらイラストやら猫やらを載せている人間であり、つまり己に係る全てを誇示したい欲望で心臓が動いている人間だが、末の妹にはそれが全くない。聞かれる前に失恋話からDNAまで全公開する勢いの私とは違い、自分の話もあまりしない。末の妹としては「もっと自己開示できるようになりたい」という悩みになっているようだが、私は「自分の話を控えるってどうすればいいんですか先輩」という心持ちで、要は羨ましい。
自己開示できない、人と一緒に暮らせないと悩みを吐露していた末の妹が、そんな妹を面白がって一緒に過ごしたいと思っている人と結婚する。末の妹と豆さんは、互いの価値観が違うと明言しながら日々ディベートをしている。妹は、それが楽しいようだ。
めでたい。

今年はめでたいことが沢山ある。
7月には中の妹に、玉のような男の子が生まれて私も伯母になった。
私はというと、甥が生まれた直後に休職して、夏から冬になろうというのに復職の目処が経っていない。であるが、中の妹は「姉が家にいるおかげで子供を預けられる、ありがたい」と言ってくれる。優しい。
そういえば、妹二人は寝たきりの祖父の介護もよくやっていた。祖父のオムツを替えたり話しかけたりしていた。脳溢血で半身不随になり、会話もうまく出来なくなった祖父が、私は怖くて近付けなかったが、二人はよく話しかけていた。
私の妹たちは優しいな。めでたいことが沢山ふりかかって欲しい。

私は気になっている殿方の家の洗面台を借りながらしみじみ感じ入っていた。が、洗面台に歯ブラシが2本並び導入化粧水が置かれていることに気づき、まあ、私はいつまでもこんな感じだけどなと謎に笑顔になった。洗面台の鏡に映る自分は楽しそうなので、何とかなるでしょう。