幸せは温い鉄砲

黒色火薬を飲み下すことで仮病を装うのは一昔前の軍記物ではありふれた手法であるが、阿見田かるかはそれを3限目の小テスト中に実行した。こんなメールを見たからだ。
「授業中にすまない。だがもう俺は駄目だ。今日、お前を撃つ」
30分後。かるかが屋上に着いた時には全ての準備は済んでおり、10年前死んだはずの先代校長は火縄銃を抱えて立っていた。
男は口から飴玉を取り出し、火薬と共に銃身に装填した。鉛とザラメとある種のトリカブトからなる、特別誂えの弾丸だった。
もはや語るべきことは何もなかった。かるかは屋上の端に立ち、男は正確に45メートル離れた。火蓋を切る。男の口が「すまない」と動いたように見えた。
閃光が走り、もうもうとした黒煙が辺りを覆う。かるかはもんどりうって倒れ、男は既に事切れていた。
終戦後のサハリンで100人余りのソビエト兵を殺害した男はこうして死に、かるかの頭蓋骨と大脳の一部は不可逆に破壊された。【続く】

#逆噴射プラクティス

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